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二度目の話

閑話 私が死んだ後 1

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 ブレア公爵side


「公爵閣下、愛する奥様にお土産を沢山買って帰りたいのは理解出来ますが、これ以上は馬車には積み込めません。積み込めない分はどこかの商団に依頼して、我が国まで運んでもらうように手配するしかないかと。」

「そうか…。しょうがない。では信頼出来そうな商団に依頼してくれるか?」

「畏まりました。」


 我が公爵領では薬草の栽培が盛んで、その薬草で作った薬を売り込むために、私は隣国まで来ている。
 この国での社交のためにしばらく滞在していたが、明日にはやっと帰国の途に就く。


 早く愛する妻に会いたい。


 私の妻はブルートパーズのようなぱっちりした目に、明るめのハニーブロンドの髪、可憐な雰囲気を持つ美しい人だ。
 そんな妻に似合いそうな物を見つけると、つい何でも買ってしまうのが私の癖になりつつある。



 私が愛する妻と出会ったのは、私が14歳の時。主君である王太子殿下の側近やお妃候補を選ぶために、王妃殿下が開いた王宮でのお茶会の時だった。

 どの令嬢も、王太子殿下と縁を結びたくて纏わり付き、アピール合戦を始めるなどして、恐ろしいほどの殺気を漂わせていた。12歳の頃からこの茶会に参加している私は、毎回、女の戦いを見せられてうんざりしていた。
 そんな時にある令嬢に目が留まる。王太子殿下の取り巻きには混ざらずに、一人でお菓子を食べている美少女。
 初めて見る少女だから、恐らく私よりも年下だろう。美味しそうにお菓子を食べる姿が可愛いと思って見ていた。

 ……え、あれは?お菓子を夢中になって食べている少女に、険しい表情で話し掛けている令息がいる。
 あれは確か、コールマン侯爵令息だ。少女はコールマン侯爵令息に何かを言われて、お菓子を食べることを止めてしまった。

 それから数ヶ月後、またお茶会があり、私は無意識にあの少女を探していた。
 少女は壁際に立って、殿下を取り巻く女の戦いを見ているようだった。

「君は殿下に興味はないのか?」

 思い切って、私は少女に話かけていた。

「素敵だと思いますが、あの壮絶な戦いをするのは私には無理ですわ。」

「確かに凄い戦いだよな。」

「ええ。無駄な戦いをするくらいなら、せっかく王宮にきたのですから、ここでしか食べれない美味しいお菓子でも食べる方がいいですわね。」

「今日はお菓子は食べないのか?」

「あまり食べるとお義兄様に怒られるので、今日は我慢します。」

 恥ずかしそうに話をする少女が、初々しくて可愛いと思った。
 お兄様に怒られると言ったが、この前お菓子を食べている時に話しかけていたコールマン侯爵令息はもしかして彼女の兄か?

「せっかく来たのだから、少しくらい食べても大丈夫だろう。」

 私は、お菓子を何種類か皿に取って彼女に渡した。

「あ…、ありがとうございます!」

 嬉しそうにお菓子を食べる少女は、とても愛らしくて、私は胸がドキドキしてしまった。
 恐らく、これが私の初恋だったのだと思う。

 しかし、彼女とはその後話す機会はなかった。
 殿下の側近候補に選ばれた私は、お茶会などの社交の場では殿下の側に付いていなくてはいけないからだ。

 私はその時に知らなかったのだが、こんな可愛らしい彼女を殿下も遠くから見つめていたようだった。

 そのことに気付くのは、コールマン侯爵家に王家が婚約の打診をしていると聞いた時。
 コールマン侯爵家は名門の侯爵家でとても裕福であり、昔からの王家の忠臣である家門だ。そんな家門の令嬢ならば、殿下の婚約者として何の問題もない。

 コールマン侯爵も婚約に前向きであったようで、殿下とコールマン侯爵令嬢の婚約が正式に結ばれるのに、時間はかからなかった。

 胸が痛むがこれでいいのだ。殿下は私から見ても、素晴らしいお方だ。きっと彼女を大切にしてくれるだろう。
 それよりも、私の彼女への気持ちがバレないように、気を付けなければならない。

 コールマン侯爵令嬢は、王妃教育を受ける為に、毎日、王宮に来ていた。
 王妃教育は厳しいと聞く。コールマン侯爵令嬢が泣きそうな表情をしている姿を何度も見たことがあるし、あのお菓子を食べて微笑んでいた彼女は、すっかり笑顔をなくしてしまっていた。
 そんな彼女を、殿下が慰めたり、元気付けたりしているうちに、二人は心から愛し合うようになっていたようだった。

 しかし、周辺諸国で侵略や略奪、紛争が沢山起こるようになり、同盟関係を強固なものにするためにと、王太子殿下と隣国の王女殿下の政略結婚の話が出てくる。
 王太子殿下は反対していたが、我が国の貴族達は、隣国との同盟を強く望む者が多く、殿下と隣国王女の婚約が正式に結ばれることに決まり、コールマン侯爵令嬢と殿下の婚約は解消されることになったのだ。

 殿下と彼女の婚約解消の話が出始めた時、私はすぐに両親に彼女と婚約したいと頼んでいた。
 
 彼女は私が幸せにしたい。
 ずっと彼女への気持ちを隠していたが、もう我慢出来ないと思ったのだ。

 両親も真面目に王妃教育をこなしていた彼女に対して好感を持ってくれていたようで、すぐに動いてくれた。
 父は国王陛下の従兄弟で幼馴染でもある。そんな父は、殿下とコールマン侯爵令嬢の婚約が解消されたら、すぐにブレア公爵家からコールマン侯爵家に婚約を申し込んでいいかと聞いてくれたらしい。
 陛下は、婚約解消される彼女のことを気掛かりに感じていたようで、その話をとても喜んでくれたようだ。婚約と結婚の話がスムーズに進むようにと、王命での婚約にしてくれると言ってくれたのだ。


 しかし、この王命での婚約が彼女を苦しめることになるとは、その時の私は気付いていなかった。





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