6 / 102
一度目の話
新婚生活
しおりを挟む
結婚式を済ませて一ヶ月が経つ頃、旦那様は正式に爵位を引き継ぎ公爵となる。
その後すぐに、義両親は別邸に引っ越すことになるのだが…
「アナ。私達が邸から引っ越した後に、バーカー子爵令嬢が訪ねて来るかもしれないわ。」
引っ越す少し前に、お義母様に呼ばれた私は、バーカー子爵令嬢の話をされていた。
「バーカー子爵令嬢ですか?どのような方なのでしょうか?」
「貧しい子爵家の令嬢だから、あまり社交の場には出て来なかったから、アナが知らないのは仕方がないわね。
うちの遠縁の令嬢なのだけれど、領地が隣で、一応は親戚らしかったから、令嬢が小さい頃から付き合いがあったのよね。アルの幼馴染みたいなものかしら。」
お義母様の表情を見る限り、お義母様はその令嬢を嫌っているようにも見えた。
「旦那様の幼馴染ですか…。」
「ええ。実家は裕福ではないし、早くにお母様を亡くして気の毒だと思って、うちの公爵家に遊びに来ることを自由にさせていたのだけれど、それを令嬢は勘違いしてしまったみたいでね。アルの婚約者気取りで、あまりに酷い態度だったから、うちに出入り禁止にしたのよ。」
すごい方がいたのね…。
「出入り禁止を言い渡した私達が、この邸から引っ越したと聞いたら、妻である貴女は何も知らないだろうと思って、アルの幼馴染気取りでまた遊びに来るかもしれないわ。
その時は、遠慮しないで厳しく追い返すようにね。
図々しい女だから、使用人を言いくるめて邸に入って来るくらいのことはするかもしれないわ。
気をつけるのよ。」
「分かりました。その時は厳しく対応するようにしますわ。」
お義父様とお義母様は、その話を聞いた数日後に、引っ越して行ってしまった。
旦那様とは普通に仲の良い夫婦だったと思う。
仕事が忙しくても、週末は二人で過ごす時間を大切にしてくれたし、早く跡取りが欲しいのか、夜の方も積極的な方だった。
愛を囁き合うような、熱い関係ではなかったが、優しくて素敵な旦那様に対して、愛に近いような感情が芽生えていたような気がする。
殿下と婚約解消になったことは辛かったけど、この方と結婚出来たことは幸せだったかもしれない。
そんな日々を送っていたある日、あの女がやって来る。
「奥様、お客様がいらしております。」
「今日は誰とも約束はしていなかったはずだけど。
誰かしら?」
筆頭公爵家に、先触れも出さずに突然訪ねて来ることを許されているのは、王族か義両親か、せめて私の実家の家族くらいだろう。
来客を知らせに来たメイド長に対して、つい厳しい目を向けてしまう。
「旦那様の幼馴染のバーカー子爵令嬢が、奥様にぜひ挨拶したいそうです。」
私の厳しい目つきに、メイド長が驚いたように目を見開いた瞬間を私は見逃さなかった。
表面上はいつも穏やかそうにしていた私が、こんな風に厳しい表情をするとは思っていなかったのだろう。
本来はお転婆で気が強い私なのだが、厳しい王妃教育で鍛えられ、表面上は穏やかな淑女のように振る舞っていただけなのに。
「バーカー子爵令嬢?子爵令嬢が先触れも出さずに、公爵夫人である私を訪ねてきたの?非常識ね。
で…、邸にいれたの?」
「応接室でお待ちになっております。」
このメイド長に私は見くびられているってことね。
優しくしすぎたかしら。
「誰が応接室に案内したのかしら?」
「私でございます。
旦那様と仲の良い幼馴染の令嬢ですので…。」
「おかしいわね…。バーカー子爵令嬢は、この邸に出入り禁止になっているはずだけど、メイド長はお義父様やお義母様が決めたことよりも、バーカー子爵令嬢を優先するのかしら?」
メイド長の顔色が一瞬にして悪くなるのが分かった。
私がその話を知っていると思っていなかったのか、それとも穏やかそうな私だから、何も言われないと考えていたのか?
どちらにしても、私を見くびっていたってことなのだけど。
「メイド長。あなた、私を見くびっていたのかしら?
だとしたら残念だわ。
私をこの公爵家の女主人だと認められないなら、どこか違う職場を紹介しましょうか?」
「見くびってなどいませんわ。
大変申し訳ありませんでした…。どうかお許しくださいませ。」
「メイド長。こういうことが続くようなら、ここには居れないと思ってちょうだい。」
「はい…。」
メイド長を厳しく叱責した私は、バーカー子爵令嬢と対峙するために、応接室に向かうのであった。
なぜメイド長が出入り禁止になっているはずのバーカー子爵令嬢を邸に入れたのか…。この時に、私は気づくべきであったのだ。
その後すぐに、義両親は別邸に引っ越すことになるのだが…
「アナ。私達が邸から引っ越した後に、バーカー子爵令嬢が訪ねて来るかもしれないわ。」
引っ越す少し前に、お義母様に呼ばれた私は、バーカー子爵令嬢の話をされていた。
「バーカー子爵令嬢ですか?どのような方なのでしょうか?」
「貧しい子爵家の令嬢だから、あまり社交の場には出て来なかったから、アナが知らないのは仕方がないわね。
うちの遠縁の令嬢なのだけれど、領地が隣で、一応は親戚らしかったから、令嬢が小さい頃から付き合いがあったのよね。アルの幼馴染みたいなものかしら。」
お義母様の表情を見る限り、お義母様はその令嬢を嫌っているようにも見えた。
「旦那様の幼馴染ですか…。」
「ええ。実家は裕福ではないし、早くにお母様を亡くして気の毒だと思って、うちの公爵家に遊びに来ることを自由にさせていたのだけれど、それを令嬢は勘違いしてしまったみたいでね。アルの婚約者気取りで、あまりに酷い態度だったから、うちに出入り禁止にしたのよ。」
すごい方がいたのね…。
「出入り禁止を言い渡した私達が、この邸から引っ越したと聞いたら、妻である貴女は何も知らないだろうと思って、アルの幼馴染気取りでまた遊びに来るかもしれないわ。
その時は、遠慮しないで厳しく追い返すようにね。
図々しい女だから、使用人を言いくるめて邸に入って来るくらいのことはするかもしれないわ。
気をつけるのよ。」
「分かりました。その時は厳しく対応するようにしますわ。」
お義父様とお義母様は、その話を聞いた数日後に、引っ越して行ってしまった。
旦那様とは普通に仲の良い夫婦だったと思う。
仕事が忙しくても、週末は二人で過ごす時間を大切にしてくれたし、早く跡取りが欲しいのか、夜の方も積極的な方だった。
愛を囁き合うような、熱い関係ではなかったが、優しくて素敵な旦那様に対して、愛に近いような感情が芽生えていたような気がする。
殿下と婚約解消になったことは辛かったけど、この方と結婚出来たことは幸せだったかもしれない。
そんな日々を送っていたある日、あの女がやって来る。
「奥様、お客様がいらしております。」
「今日は誰とも約束はしていなかったはずだけど。
誰かしら?」
筆頭公爵家に、先触れも出さずに突然訪ねて来ることを許されているのは、王族か義両親か、せめて私の実家の家族くらいだろう。
来客を知らせに来たメイド長に対して、つい厳しい目を向けてしまう。
「旦那様の幼馴染のバーカー子爵令嬢が、奥様にぜひ挨拶したいそうです。」
私の厳しい目つきに、メイド長が驚いたように目を見開いた瞬間を私は見逃さなかった。
表面上はいつも穏やかそうにしていた私が、こんな風に厳しい表情をするとは思っていなかったのだろう。
本来はお転婆で気が強い私なのだが、厳しい王妃教育で鍛えられ、表面上は穏やかな淑女のように振る舞っていただけなのに。
「バーカー子爵令嬢?子爵令嬢が先触れも出さずに、公爵夫人である私を訪ねてきたの?非常識ね。
で…、邸にいれたの?」
「応接室でお待ちになっております。」
このメイド長に私は見くびられているってことね。
優しくしすぎたかしら。
「誰が応接室に案内したのかしら?」
「私でございます。
旦那様と仲の良い幼馴染の令嬢ですので…。」
「おかしいわね…。バーカー子爵令嬢は、この邸に出入り禁止になっているはずだけど、メイド長はお義父様やお義母様が決めたことよりも、バーカー子爵令嬢を優先するのかしら?」
メイド長の顔色が一瞬にして悪くなるのが分かった。
私がその話を知っていると思っていなかったのか、それとも穏やかそうな私だから、何も言われないと考えていたのか?
どちらにしても、私を見くびっていたってことなのだけど。
「メイド長。あなた、私を見くびっていたのかしら?
だとしたら残念だわ。
私をこの公爵家の女主人だと認められないなら、どこか違う職場を紹介しましょうか?」
「見くびってなどいませんわ。
大変申し訳ありませんでした…。どうかお許しくださいませ。」
「メイド長。こういうことが続くようなら、ここには居れないと思ってちょうだい。」
「はい…。」
メイド長を厳しく叱責した私は、バーカー子爵令嬢と対峙するために、応接室に向かうのであった。
なぜメイド長が出入り禁止になっているはずのバーカー子爵令嬢を邸に入れたのか…。この時に、私は気づくべきであったのだ。
129
お気に入りに追加
8,367
あなたにおすすめの小説

王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる