巻き戻り令嬢は長生きしたい。二度目の人生はあなた達を愛しません

せいめ

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一度目の話

新婚生活

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 結婚式を済ませて一ヶ月が経つ頃、旦那様は正式に爵位を引き継ぎ公爵となる。
 その後すぐに、義両親は別邸に引っ越すことになるのだが…

「アナ。私達が邸から引っ越した後に、バーカー子爵令嬢が訪ねて来るかもしれないわ。」

 引っ越す少し前に、お義母様に呼ばれた私は、バーカー子爵令嬢の話をされていた。

「バーカー子爵令嬢ですか?どのような方なのでしょうか?」

「貧しい子爵家の令嬢だから、あまり社交の場には出て来なかったから、アナが知らないのは仕方がないわね。
 うちの遠縁の令嬢なのだけれど、領地が隣で、一応は親戚らしかったから、令嬢が小さい頃から付き合いがあったのよね。アルの幼馴染みたいなものかしら。」

 お義母様の表情を見る限り、お義母様はその令嬢を嫌っているようにも見えた。

「旦那様の幼馴染ですか…。」

「ええ。実家は裕福ではないし、早くにお母様を亡くして気の毒だと思って、うちの公爵家に遊びに来ることを自由にさせていたのだけれど、それを令嬢は勘違いしてしまったみたいでね。アルの婚約者気取りで、あまりに酷い態度だったから、うちに出入り禁止にしたのよ。」

 すごい方がいたのね…。

「出入り禁止を言い渡した私達が、この邸から引っ越したと聞いたら、妻である貴女は何も知らないだろうと思って、アルの幼馴染気取りでまた遊びに来るかもしれないわ。
 その時は、遠慮しないで厳しく追い返すようにね。
 図々しい女だから、使用人を言いくるめて邸に入って来るくらいのことはするかもしれないわ。
 気をつけるのよ。」

「分かりました。その時は厳しく対応するようにしますわ。」

 お義父様とお義母様は、その話を聞いた数日後に、引っ越して行ってしまった。


 旦那様とは普通に仲の良い夫婦だったと思う。
 仕事が忙しくても、週末は二人で過ごす時間を大切にしてくれたし、早く跡取りが欲しいのか、夜の方も積極的な方だった。
 愛を囁き合うような、熱い関係ではなかったが、優しくて素敵な旦那様に対して、愛に近いような感情が芽生えていたような気がする。

 殿下と婚約解消になったことは辛かったけど、この方と結婚出来たことは幸せだったかもしれない。



 そんな日々を送っていたある日、あの女がやって来る。


「奥様、お客様がいらしております。」

「今日は誰とも約束はしていなかったはずだけど。
 誰かしら?」

 筆頭公爵家に、先触れも出さずに突然訪ねて来ることを許されているのは、王族か義両親か、せめて私の実家の家族くらいだろう。
 来客を知らせに来たメイド長に対して、つい厳しい目を向けてしまう。

「旦那様の幼馴染のバーカー子爵令嬢が、奥様にぜひ挨拶したいそうです。」

 私の厳しい目つきに、メイド長が驚いたように目を見開いた瞬間を私は見逃さなかった。
 表面上はいつも穏やかそうにしていた私が、こんな風に厳しい表情をするとは思っていなかったのだろう。
 本来はお転婆で気が強い私なのだが、厳しい王妃教育で鍛えられ、表面上は穏やかな淑女のように振る舞っていただけなのに。

「バーカー子爵令嬢?子爵令嬢が先触れも出さずに、公爵夫人である私を訪ねてきたの?非常識ね。
 で…、邸にいれたの?」

「応接室でお待ちになっております。」

 このメイド長に私は見くびられているってことね。
 優しくしすぎたかしら。

「誰が応接室に案内したのかしら?」

「私でございます。
 旦那様と仲の良い幼馴染の令嬢ですので…。」

「おかしいわね…。バーカー子爵令嬢は、この邸に出入り禁止になっているはずだけど、メイド長はお義父様やお義母様が決めたことよりも、バーカー子爵令嬢を優先するのかしら?」

 メイド長の顔色が一瞬にして悪くなるのが分かった。
 私がその話を知っていると思っていなかったのか、それとも穏やかそうな私だから、何も言われないと考えていたのか?
 どちらにしても、私を見くびっていたってことなのだけど。

「メイド長。あなた、私を見くびっていたのかしら?
 だとしたら残念だわ。
 私をこの公爵家の女主人だと認められないなら、どこか違う職場を紹介しましょうか?」

「見くびってなどいませんわ。
 大変申し訳ありませんでした…。どうかお許しくださいませ。」

「メイド長。こういうことが続くようなら、ここには居れないと思ってちょうだい。」

「はい…。」

 メイド長を厳しく叱責した私は、バーカー子爵令嬢と対峙するために、応接室に向かうのであった。


 


 なぜメイド長が出入り禁止になっているはずのバーカー子爵令嬢を邸に入れたのか…。この時に、私は気づくべきであったのだ。



 
 

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