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32 閑話 ルイス
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今日は王太子殿下と私の従兄妹の結婚式だった。ここに来るまで準備は大変だったが、素晴らしい式になったと思う。
今までずっと我慢して従兄妹の世話をしてきたが、殿下に嫁いでくれたことで、やっと私の肩の荷が下りる。
私は結婚式の前に〝返品は絶対にお断りします〟と殿下に念を押しておいたが、この二人ならきっと大丈夫だろう。
◇◇
従兄妹のセシリアは私の三つ年下で、小さな頃から一緒に過ごしてきた家族のような存在だった。しかし、この個性の強いじゃじゃ馬のような従兄妹には昔から苦労させられてきた。
年下にも関わらず、私を〝ルイス〟と呼び捨てにし、平気で私を振り回す。悪戯や無断外出に付き合わされたり、一緒にいると碌なことがない。
しかし曲がったことが嫌いで根は真面目、裏表のないハッキリした性格のセシリアは、男友達のような感覚でいられた。
そんなセシリアに恋をしたのは王太子殿下だった。
「何を考えているのか分からない仮面を被ったような表情をしている令嬢になど興味はない。
セシリアは見ていて面白いし、一緒にいて元気になれるんだ」
殿下の話を聞いて、こんな物好きもいるんだなと思った。
そんなセシリアは、学園に入学して親友が出来たらしい。
こんなじゃじゃ馬と仲良くなれる令嬢は、セシリアのように個性の強い令嬢なのだろうと思っていたのだが、セシリアのデビュタントの夜会で親友だと紹介された令嬢は、私の予想とは全く違っていた。
「ルイス。私の親友のフローラよ。綺麗でしょ?
学園ではいつも一緒にいるの」
「フローラ・シーウェルです。初めまして。
セシリアにはいつもお世話になっております」
セシリアが紹介してくれた令嬢は、陽だまりのような笑顔を見せながら私に挨拶をしてくれる。私に擦り寄ってくる、下心を隠しきれていない令嬢達とは全く違う笑顔……
落ち着いた口調で完璧なカーテシーをする彼女からは、育ちの良さしか感じられなかった。
その時、セシリアとは違った穏やかな雰囲気を纏う彼女に、私は一瞬で心を奪われていた。
「……ルイス?」
「……失礼! シーウェル伯爵家の御令嬢でしたか。
いつも従兄妹が迷惑を掛けて申し訳ない。
これからもよろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願い致します」
彼女とは、社交の場でセシリアを通してよく顔を合わせるようになる。
社交でセシリアのパートナーを務めるのは面倒だったが、彼女に会えることは嬉しく感じていた。
彼女はセシリアの話をいつもニコニコして聞いている。穏やかで聞き上手な彼女に、じゃじゃ馬のセシリアは癒されているのかもしれない。
そんなある日……
「フローラに好きな人が出来たみたいよ。
学園の図書館で、高い所にある本を取ってもらったことがきっかけで仲良くなった令息なんですって!」
「そうか……。上手くいくといいな」
彼女が恋をしたのか。学園の図書館で出会った令息……。すでに学園を卒業していた私には知らない彼女の話。
その時、私は意味の分からない喪失感のようなものを感じていた。
それからしばらくしてセシリアから報告を受けたのは、彼女が婚約するという話だった。
「ずっと好きだった人に婚約を申し込まれるなんて、なんて素敵なのかしら。
フローラは嬉し過ぎて眠れなかったらしいわよ。
ふふっ! 落ち着いて見えるフローラも可愛いところがあるのよね」
「それは良かったな……」
胸がズキズキして苦しく感じた。
知り合いの一人として祝福すべきなのに、どうしてこんな気持ちになるのか?
彼女の婚約者になったアストン侯爵令息は、家柄も容姿も優れており、令嬢に人気の令息らしい。そんな二人は悔しいほどお似合いだった。
アストン侯爵令息は、社交の場で常に彼女にべったりで、彼女を溺愛しているのがよく伝わるものだった。
愛されて結婚するなら、きっと幸せになれるだろう。私は知り合いの一人として、彼女の今後の幸せを願っていきたい。
そう思っていたのに、あの男は彼女を裏切った……
今までずっと我慢して従兄妹の世話をしてきたが、殿下に嫁いでくれたことで、やっと私の肩の荷が下りる。
私は結婚式の前に〝返品は絶対にお断りします〟と殿下に念を押しておいたが、この二人ならきっと大丈夫だろう。
◇◇
従兄妹のセシリアは私の三つ年下で、小さな頃から一緒に過ごしてきた家族のような存在だった。しかし、この個性の強いじゃじゃ馬のような従兄妹には昔から苦労させられてきた。
年下にも関わらず、私を〝ルイス〟と呼び捨てにし、平気で私を振り回す。悪戯や無断外出に付き合わされたり、一緒にいると碌なことがない。
しかし曲がったことが嫌いで根は真面目、裏表のないハッキリした性格のセシリアは、男友達のような感覚でいられた。
そんなセシリアに恋をしたのは王太子殿下だった。
「何を考えているのか分からない仮面を被ったような表情をしている令嬢になど興味はない。
セシリアは見ていて面白いし、一緒にいて元気になれるんだ」
殿下の話を聞いて、こんな物好きもいるんだなと思った。
そんなセシリアは、学園に入学して親友が出来たらしい。
こんなじゃじゃ馬と仲良くなれる令嬢は、セシリアのように個性の強い令嬢なのだろうと思っていたのだが、セシリアのデビュタントの夜会で親友だと紹介された令嬢は、私の予想とは全く違っていた。
「ルイス。私の親友のフローラよ。綺麗でしょ?
学園ではいつも一緒にいるの」
「フローラ・シーウェルです。初めまして。
セシリアにはいつもお世話になっております」
セシリアが紹介してくれた令嬢は、陽だまりのような笑顔を見せながら私に挨拶をしてくれる。私に擦り寄ってくる、下心を隠しきれていない令嬢達とは全く違う笑顔……
落ち着いた口調で完璧なカーテシーをする彼女からは、育ちの良さしか感じられなかった。
その時、セシリアとは違った穏やかな雰囲気を纏う彼女に、私は一瞬で心を奪われていた。
「……ルイス?」
「……失礼! シーウェル伯爵家の御令嬢でしたか。
いつも従兄妹が迷惑を掛けて申し訳ない。
これからもよろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願い致します」
彼女とは、社交の場でセシリアを通してよく顔を合わせるようになる。
社交でセシリアのパートナーを務めるのは面倒だったが、彼女に会えることは嬉しく感じていた。
彼女はセシリアの話をいつもニコニコして聞いている。穏やかで聞き上手な彼女に、じゃじゃ馬のセシリアは癒されているのかもしれない。
そんなある日……
「フローラに好きな人が出来たみたいよ。
学園の図書館で、高い所にある本を取ってもらったことがきっかけで仲良くなった令息なんですって!」
「そうか……。上手くいくといいな」
彼女が恋をしたのか。学園の図書館で出会った令息……。すでに学園を卒業していた私には知らない彼女の話。
その時、私は意味の分からない喪失感のようなものを感じていた。
それからしばらくしてセシリアから報告を受けたのは、彼女が婚約するという話だった。
「ずっと好きだった人に婚約を申し込まれるなんて、なんて素敵なのかしら。
フローラは嬉し過ぎて眠れなかったらしいわよ。
ふふっ! 落ち着いて見えるフローラも可愛いところがあるのよね」
「それは良かったな……」
胸がズキズキして苦しく感じた。
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彼女の婚約者になったアストン侯爵令息は、家柄も容姿も優れており、令嬢に人気の令息らしい。そんな二人は悔しいほどお似合いだった。
アストン侯爵令息は、社交の場で常に彼女にべったりで、彼女を溺愛しているのがよく伝わるものだった。
愛されて結婚するなら、きっと幸せになれるだろう。私は知り合いの一人として、彼女の今後の幸せを願っていきたい。
そう思っていたのに、あの男は彼女を裏切った……
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