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29 手紙
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忙しい日々を送っている私に、唯一の癒しの時間がある。それはマクラーレン様のお祖母様である、テレサ様と一緒に食べる夕食だ。
テレサ様は私が仕事から帰ってくるのを待っていてくれて、いつも夕食に誘ってくれるのだ。
「ララさん。今日はお仕事どうだった?
お腹空いてるでしょう? すぐに食事にしましょうね」
伯爵家を出ると決めた時、孤独に負けないで一人で生きていこうと決めていた。しかし孤独どころか、こうやって穏やかな生活が送れている。
疲れて帰った時にテレサ様が待っていてくれて、温かい言葉を掛けてくれることは、嬉しさしかなかった。
優しいテレサ様を見ていると、大好きな祖母のことを思い出してしまう。
「テレサ様。遅くなって申し訳ありませんでした。
今日も忙しかったですが、何事もなく無事に終えることが出来ました」
「それは良かったわ。そうそう、公爵領の歴史について詳しく知りたいと話していたから、使えそうな本を出しておいたわよ。時間のある時に読んでみてね」
「ありがとうございます。
学生の時に国の歴史については学びましたが、公爵領の歴史について学ぶ機会がありませんでした。
マクラーレン公爵家で運営している学校ですから、公爵領の歴史も学ぶと聞いて、何も知らない私は焦っていたのです。早速、読ませて頂きます」
「ふふっ。真面目なのはいいけれど、無理はしないでね。
あ、忘れないうちに渡しておくわ。ルイスから手紙が届いているのよ。気が向いたら返事を書いてあげて」
マクラーレン様は筆まめな方らしく、週一くらいで手紙を送ってくれる。
私達は頻繁に手紙のやり取りをしていて、恩人だと思っていたマクラーレン様は、今では私の文通相手のようになっていた。
◇◇
気がつくと、私がここに来て半年が経っていた。
忙しい日々を送っていた私のところには、変わらずにマクラーレン様から手紙が届いていた。
手紙には、マクラーレン様のちょっとした出来事やセシリアのこと、シーウェル家のことやリリアンとアストン侯爵家についての報告などが書いてある。
リリアンとアストン様の夫婦仲は最悪らしく、二人は私に毒を盛ったと黒い噂話が流れていて、社交場で爪弾きにされているらしい。
リリアンは元から評判はよろしくなかったし、私の友人だけでなく、リリアンの同級生の令嬢達にも嫌われていて敵が多かったから、みんなが面白おかしく噂を流しているのだろう。
ふふっ……。愛し合う二人で困難を乗り越えていってちょうだい。
不幸なリリアンの話を聞いて、嬉しく感じてしまう私は相当な悪女だわ。愛する人に裏切られたくらいで、ここまで自分の性格が歪んでしまうとは思ってなかった。私はもう純粋な恋は出来ないでしょうね……
しかし、そんな私にマクラーレン様はお優しい内容の手紙を送ってくれる。仕事は上手くいっているか、虐めてくる人物はいないか、お祖母様(テレサ様)が煩くして迷惑をかけていないか、何かあれば遠慮なく話して欲しいとか……、私のことを心配してくれているのが伝わる手紙だ。
良い人だわ。こんな手紙を読んでいると、マクラーレン様は私の家族や親友のような特別な存在だと勘違いしてしまいそうになる。
でも、そんな感情を持ってはいけない。あの方は次期公爵で王太子殿下の側近。平民の私とは本来なら親しく出来るような立場の人ではない。親切にしてくれるからと、礼儀を欠くようなことはしたくないし、立場をわきまえるようにしないといけない。
再来月にはセシリアと王太子殿下の結婚式がある。未来の国王と王妃である二人の結婚式の日には、二人が王都の街中を馬車でパレードすることになっていたはずだ。見たかった……
セシリアはあんな感じだから、彼女をよく知らない人からは無敵の令嬢にしか見えないと思うけど、人知れぬところで、殿下の隣に立つために並々ならぬ努力をしていることを私は知っている。殿下もそんなセシリアを陰ながら支えていて、本当に素敵なカップルだと思う。
二人の結婚式を見たかったけど、今の私はシーウェル伯爵家やアストン侯爵家から逃げている立場だから王都にはいけない。
王都から離れたこのマクラーレン公爵領で、二人の幸せを願っていよう。と、思っていたのだが……
「ララさん。再来月なのだけど、学校は休暇に入るでしょう? 私と一緒に王都には行かない?
セシリアの結婚式に招待されているから、しばらく王都に行く予定なのよ」
そういえば、セシリアのお母様はテレサ様の娘。セシリアはテレサ様の外孫になるのよね。
王都行きのお誘いは嬉しいけど……
「ありがとうございます。しかし、私は王都には行けませんわ。実家から追われている身ですから、何かあればテレサ様やマクラーレン様に迷惑をかけてしまいます」
「それなら、私のメイドに紛れて一緒に行きましょう。
セシリアが貴女に会いたがっているのよ。メイドに変装すればバレないわ。公爵家のメイドなら他の貴族も簡単に手を出せないから大丈夫よ」
いつもは素敵なマダムであるテレサ様が、悪戯っ子のような笑みを浮かべている。
セシリアとマクラーレン様のお祖母様だけあって、テレサ様にはお茶目な一面があったようだ。
セシリアに会いたかった私は、散々迷った挙句、テレサ様と王都に行くことにした。
テレサ様は私が仕事から帰ってくるのを待っていてくれて、いつも夕食に誘ってくれるのだ。
「ララさん。今日はお仕事どうだった?
お腹空いてるでしょう? すぐに食事にしましょうね」
伯爵家を出ると決めた時、孤独に負けないで一人で生きていこうと決めていた。しかし孤独どころか、こうやって穏やかな生活が送れている。
疲れて帰った時にテレサ様が待っていてくれて、温かい言葉を掛けてくれることは、嬉しさしかなかった。
優しいテレサ様を見ていると、大好きな祖母のことを思い出してしまう。
「テレサ様。遅くなって申し訳ありませんでした。
今日も忙しかったですが、何事もなく無事に終えることが出来ました」
「それは良かったわ。そうそう、公爵領の歴史について詳しく知りたいと話していたから、使えそうな本を出しておいたわよ。時間のある時に読んでみてね」
「ありがとうございます。
学生の時に国の歴史については学びましたが、公爵領の歴史について学ぶ機会がありませんでした。
マクラーレン公爵家で運営している学校ですから、公爵領の歴史も学ぶと聞いて、何も知らない私は焦っていたのです。早速、読ませて頂きます」
「ふふっ。真面目なのはいいけれど、無理はしないでね。
あ、忘れないうちに渡しておくわ。ルイスから手紙が届いているのよ。気が向いたら返事を書いてあげて」
マクラーレン様は筆まめな方らしく、週一くらいで手紙を送ってくれる。
私達は頻繁に手紙のやり取りをしていて、恩人だと思っていたマクラーレン様は、今では私の文通相手のようになっていた。
◇◇
気がつくと、私がここに来て半年が経っていた。
忙しい日々を送っていた私のところには、変わらずにマクラーレン様から手紙が届いていた。
手紙には、マクラーレン様のちょっとした出来事やセシリアのこと、シーウェル家のことやリリアンとアストン侯爵家についての報告などが書いてある。
リリアンとアストン様の夫婦仲は最悪らしく、二人は私に毒を盛ったと黒い噂話が流れていて、社交場で爪弾きにされているらしい。
リリアンは元から評判はよろしくなかったし、私の友人だけでなく、リリアンの同級生の令嬢達にも嫌われていて敵が多かったから、みんなが面白おかしく噂を流しているのだろう。
ふふっ……。愛し合う二人で困難を乗り越えていってちょうだい。
不幸なリリアンの話を聞いて、嬉しく感じてしまう私は相当な悪女だわ。愛する人に裏切られたくらいで、ここまで自分の性格が歪んでしまうとは思ってなかった。私はもう純粋な恋は出来ないでしょうね……
しかし、そんな私にマクラーレン様はお優しい内容の手紙を送ってくれる。仕事は上手くいっているか、虐めてくる人物はいないか、お祖母様(テレサ様)が煩くして迷惑をかけていないか、何かあれば遠慮なく話して欲しいとか……、私のことを心配してくれているのが伝わる手紙だ。
良い人だわ。こんな手紙を読んでいると、マクラーレン様は私の家族や親友のような特別な存在だと勘違いしてしまいそうになる。
でも、そんな感情を持ってはいけない。あの方は次期公爵で王太子殿下の側近。平民の私とは本来なら親しく出来るような立場の人ではない。親切にしてくれるからと、礼儀を欠くようなことはしたくないし、立場をわきまえるようにしないといけない。
再来月にはセシリアと王太子殿下の結婚式がある。未来の国王と王妃である二人の結婚式の日には、二人が王都の街中を馬車でパレードすることになっていたはずだ。見たかった……
セシリアはあんな感じだから、彼女をよく知らない人からは無敵の令嬢にしか見えないと思うけど、人知れぬところで、殿下の隣に立つために並々ならぬ努力をしていることを私は知っている。殿下もそんなセシリアを陰ながら支えていて、本当に素敵なカップルだと思う。
二人の結婚式を見たかったけど、今の私はシーウェル伯爵家やアストン侯爵家から逃げている立場だから王都にはいけない。
王都から離れたこのマクラーレン公爵領で、二人の幸せを願っていよう。と、思っていたのだが……
「ララさん。再来月なのだけど、学校は休暇に入るでしょう? 私と一緒に王都には行かない?
セシリアの結婚式に招待されているから、しばらく王都に行く予定なのよ」
そういえば、セシリアのお母様はテレサ様の娘。セシリアはテレサ様の外孫になるのよね。
王都行きのお誘いは嬉しいけど……
「ありがとうございます。しかし、私は王都には行けませんわ。実家から追われている身ですから、何かあればテレサ様やマクラーレン様に迷惑をかけてしまいます」
「それなら、私のメイドに紛れて一緒に行きましょう。
セシリアが貴女に会いたがっているのよ。メイドに変装すればバレないわ。公爵家のメイドなら他の貴族も簡単に手を出せないから大丈夫よ」
いつもは素敵なマダムであるテレサ様が、悪戯っ子のような笑みを浮かべている。
セシリアとマクラーレン様のお祖母様だけあって、テレサ様にはお茶目な一面があったようだ。
セシリアに会いたかった私は、散々迷った挙句、テレサ様と王都に行くことにした。
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