婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた

せいめ

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21 閑話 レイモンド

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 私の婚約者は、艶やかな黒髪に海のような青い瞳を持つ、落ち着いた雰囲気の美少女だ。
 一つ年下の彼女と出会ったのは、学園の図書館だった。
 彼女はいつも窓側の席に座り、美しい所作で読書をしていた。育ちの良さそうな彼女はとても目を引く存在で、他の令息達も彼女のことを見つめている。
 そんな彼女を私自身も無意識に目で追っていて、気付くと彼女に恋をしていた。
 しかし、静かに読書をしている彼女に私から声を掛けることは出来ず、時間だけが過ぎていく。

 そんなある日、彼女が本棚の高い位置にあった本を取ろうと、必死に背伸びをしている姿を見た私は、気付くとその場に駆け寄っていて、本を彼女に手渡していた。
 そのことがきっかけで、会えば挨拶をする間柄になり、そこから好きな本やオススメの本などの話が出来るようになっていて、親しくなることが出来た。
 彼女に自分の気持ちを伝え、婚約を申し込んだ時は、涙を流して喜んでくれた。

 彼女とはずっと一緒にいれるものだと思っていた。


 それは、結婚まであと半年を切った頃だと思う。


「レイモンド。結婚まであと少しだが、閨の準備は大丈夫なのか?
 初めてはなかなか上手く出来ないらしいから、後腐れのない夫人に手解きをしてもらった方がいいらしいぞ。一緒に仮面舞踏会にでも行かないか?」

 私と同じく、結婚を控えている友人の一人から仮面舞踏会の話をされる。
 仮面舞踏会は素性を隠して、後腐れのない付き合いが出来る場だと聞いている。しかし、既婚者が行くことが一般的で、未婚の者が行くとあまりいい顔をされない場所らしい。

「それはやめておく。閨の手解きを受けるとはいえ、それはただの女遊びだろう?
 私はローラを裏切りたくないし、悲しませるようなことはしたくないんだ」

「……だよな。可愛いシーウェル嬢をレイモンドは溺愛しているもんな。
 でも初夜で失敗すると、女性は閨を嫌がるようになってしまうこともあるらしいぞ」

「私なりに閨の勉強はしているから大丈夫だ」

 その時はそれで終わったのだが、後日、友人はまた誘ってくる。

「仮面舞踏会に行って来たぞ。
 やってみないと分からないことばかりだった。結婚前に隠れて参加する令息がいるとは聞いていたが、あれは納得だな。色々教えてもらえて良かったよ。
 婚約者には口が裂けても言えないが、彼女を喜ばせるためだから仕方がない。
 レイモンドもどうだ? 俺が付き添ってやる」

「私は遠慮しておくよ」

「行った方が初夜は絶対に上手くいくぞ。女性の体は男とは全然違うから、勉強だと思って行くべきだ」

 初夜か……。気分は乗らないが、確かに少し不安はある。
 散々迷った挙句、私は友人達と仮面舞踏会に行くことにした。


 仮面舞踏会は、顔を仮面で隠して名前や身分を明かさずに参加するのがルールだ。
 その中で、ダンスに誘ってくれた二十代くらいの貴婦人から休憩のできる個室に誘われた私は、初めて女性と体を繋げてしまった。

「初めてなのね。色々教えてあげるわ。
 大丈夫よ。ここでのことは他言しないのがルールだから」

 ローラに対しての罪悪感はあったが、他の令息もしていることだと聞いて、何とか心を落ち着かせた。
 行為を終えた後、夫人は私に纏わりつくこともなく、サッと部屋から出て行ってくれた。割り切った方が相手をしてくれて良かったと思ったのだが……
 夫人が出て行ってすぐ、急に部屋のドアが開けられたと思ったら、金髪の若い女性が部屋に入って来た。

「君は……?」

 驚いた私が声を掛けると、

「あら、私が分かりませんか?
 寂しいわぁ。もうすぐ私達は身内になるのに」

 そう言って仮面を取った女性は私のよく知る人物だった……

「き、君は! どうしてここに?」

「やはり分からなかったのですね。良かった!
 私のこの特徴的な髪色を隠すため、カツラを被って遊びに来ていたのです。今日は珍しい人達が来ていると思って見ていたら、アストン様がいることに気付いてしまいました。気になってずっと見ていましたのよ。
 先程の夫人とは楽しめましたか?
 でも、意外だわぁ。お義姉様に一途だと思っていたアストン様が、こんな所に来て不貞をしているなんて……。お義姉様が知ったら悲しむでしょうね。
 ふふっ、いつも澄ましたお義姉様が泣いて取り乱す姿を見るのは面白そうですわ。
 私は義妹として、このことをお義姉様に報告させて頂きます」

 私はその言葉に動揺してしまった。
 愛するローラにだけは知られたくない……

「ふふ……。バラされたくないって顔をしてますわね。
 そうねー、私の願い事を聞いてくれるなら、秘密にしてあげますわよ」

「願い事とは何だ? 金か? それとも宝石か?」

 ニヤっと気味の悪い笑みを浮かべたリリアン・シーウェルはとんでもないことを言い出すのであった。


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