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19 暴露
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伯爵家から家出してから数時間後、私はアストン様とリリアンの結婚式に来ていた。もちろん私は招待されていないので、教会の見習い神官に変装して潜入している。
今日は大神官様が司式を行う特別な結婚式ということで、教会関係者が沢山見に来ることになっているらしく、見習いの神官も沢山いるから、変装して大勢の中に紛れてしまえばバレないだろうと、マクラーレン様とセシリアが計画してくれたのだ。
化粧で肌の色を濃くし、ソバカスを加え、伊達メガネをかけてカツラをかぶり、体にタオルを巻いて体型を少しだけふくよかにすれば、私は別人のようになっていた。
流石に一人で知らない人の中に入るのは何かあった時に大変なので、マクラーレン様の知り合いの見習い神官を紹介してもらい、彼女と一緒に行動するようにと言われる。
そして私は今、彼女と一緒に教会の控室の近くに隠れている。この控室の中にはリリアンやアストン様、お互いの家族が揃っているはずだ。
するとセシリアとマクラーレン様と……、王太子殿下がやって来る。殿下は予定には入っていなかったはずなのに。
三人は控室に入って行く。勿論、ドアは開けっぱなしだ。部屋の外にいる私達にまで声が聞こえるようにしてくれているらしい。
これからセシリアとマクラーレン様による暴露大会が始まる……
「フローラ! 結婚おめでとう。
親友のウエディングドレス姿が見たくて、つい控室まで押しかけてしまったわ……。あれっ、フローラはどこでしょうか?」
セシリアのハキハキした声が聞こえる。
何も知らずに結婚式前に親友に会いに行ったら、そこには別の花嫁がいてショックを受けたセシリアが、リリアンとアストン様の不貞で私が悩んでいたことを涙ながらに暴露するというシナリオでやると言っていた。
セシリアってば、王太子殿下が一緒なら入室を断られないからとわざわざ来てもらったのね。殿下も婚約者のセシリアを溺愛してるから、協力してくれたのだと思う。仲の良い二人が羨ましいわ。
ふふっ。殿下の前で二人の不貞が暴露されるなんて、リリアンもアストン様も赤っ恥ね。
「フローラは急な病で倒れ、婚姻が難しいと診断されたので、代わりに妹のリリアンが結婚することになりました」
父の淡々とした声が聞こえてくる。
家出とか、行方不明になっているとは言えないから急な病気ということにしたようだ。
「ああ……、フローラはやはりあのことで悩んでいたから、心労がたたって倒れたのかもしれないわ」
「セシリア。シーウェル嬢は何を悩んでいたんだ?」
王太子殿下は何も知らないふりをして、セシリアから話を聞き出そうとしている。殿下に聞かれたら嫌でも答えなくてはならない。
「それは……、義妹のリリアン様と婚約者のアストン様が抱き合って愛を囁き合っている姿を見てしまい、フローラは心を痛めていたのです。
それにルイスも私も、二人がフローラを裏切っている現場を見てしまいました。
フローラが可哀想だわ。どうしてフローラがこんな目に遭わないといけないの?」
「……ルイス、それは本当か?」
殿下の声が一瞬で低くなる。すごい演技力だった。
「はい。私とセシリアは、夜会の控室で二人が抱き合っている姿を見てしまいました。お互いに愛を囁き合っていましたよ。
シーウェル伯爵令嬢も違う日に裏切りを見てしまったようで泣いていましたね」
「ほう……。婚約者と義姉を裏切った者の結婚式になるのだな。シーウェル嬢が気の毒だ……」
「それだけではありません。この二人は隠れて仮面舞踏会に出入りして密会をしていたようで、そのことを知ったフローラは、身を引くべきなのかと悩んでおりましたのよ。愛する婚約者と可愛い義妹には幸せになって欲しいとまで言っておりましたわ。
本当に酷いわぁ。フローラはとても優しい子なのに、こんな仕打ちをするなんて……」
「レイモンド、お前はなんてことをしてくれたんだ!」
「リリアン、貴女は何を考えているの?」
怒りを含んだアストン侯爵様の声と、義母の冷ややかな声が響いている。
身の置き所がないリリアンとアストン様は、弁解する余地もないのか、二人の声は聞こえてこない。
「今、王宮内で噂になっている話は本当だったのだな」
「殿下、噂話とは?」
殿下が噂話があると言うと、すかさず父が食い付いている。
「私も二、三日前に耳にしたばかりなのだが、この二人が隠れて付き合っているとか、二人で仮面舞踏会に出入りして遊んでいるとか、お揃いの香水を付けるほど親しい関係だとか、そういった噂話だ」
その噂話は、結婚式直前にセシリアとマクラーレン様が意図的に流した噂話だった。
未婚の令息や令嬢が仮面舞踏会に行くということは、遊び人だと思われてしまうのでマイナスのイメージを持たれしまう。
結婚式直前に流したのは、ギリギリまで噂話を本人や家族達の耳に入れたくなかったから。
王宮で近衛騎士をしている兄の耳には入っていたかもしれないが、兄の周りの人が気を遣って言わない可能性もあるからどうだろう?
そう言えば、兄はここに来ているのかしら……? 声すら聞こえてこないわ。
「リリアン、よくも我が家門に泥をぬるようなことをしてくれたな」
「最悪だ。今日の結婚式は恥でしかない……」
控室から聞こえてくるお父様とアストン侯爵様の声は、怒りを滲ませたものであった。
しかし、セシリアとマクラーレン様はこれで話を終わらせるつもりはないようだ。
今日は大神官様が司式を行う特別な結婚式ということで、教会関係者が沢山見に来ることになっているらしく、見習いの神官も沢山いるから、変装して大勢の中に紛れてしまえばバレないだろうと、マクラーレン様とセシリアが計画してくれたのだ。
化粧で肌の色を濃くし、ソバカスを加え、伊達メガネをかけてカツラをかぶり、体にタオルを巻いて体型を少しだけふくよかにすれば、私は別人のようになっていた。
流石に一人で知らない人の中に入るのは何かあった時に大変なので、マクラーレン様の知り合いの見習い神官を紹介してもらい、彼女と一緒に行動するようにと言われる。
そして私は今、彼女と一緒に教会の控室の近くに隠れている。この控室の中にはリリアンやアストン様、お互いの家族が揃っているはずだ。
するとセシリアとマクラーレン様と……、王太子殿下がやって来る。殿下は予定には入っていなかったはずなのに。
三人は控室に入って行く。勿論、ドアは開けっぱなしだ。部屋の外にいる私達にまで声が聞こえるようにしてくれているらしい。
これからセシリアとマクラーレン様による暴露大会が始まる……
「フローラ! 結婚おめでとう。
親友のウエディングドレス姿が見たくて、つい控室まで押しかけてしまったわ……。あれっ、フローラはどこでしょうか?」
セシリアのハキハキした声が聞こえる。
何も知らずに結婚式前に親友に会いに行ったら、そこには別の花嫁がいてショックを受けたセシリアが、リリアンとアストン様の不貞で私が悩んでいたことを涙ながらに暴露するというシナリオでやると言っていた。
セシリアってば、王太子殿下が一緒なら入室を断られないからとわざわざ来てもらったのね。殿下も婚約者のセシリアを溺愛してるから、協力してくれたのだと思う。仲の良い二人が羨ましいわ。
ふふっ。殿下の前で二人の不貞が暴露されるなんて、リリアンもアストン様も赤っ恥ね。
「フローラは急な病で倒れ、婚姻が難しいと診断されたので、代わりに妹のリリアンが結婚することになりました」
父の淡々とした声が聞こえてくる。
家出とか、行方不明になっているとは言えないから急な病気ということにしたようだ。
「ああ……、フローラはやはりあのことで悩んでいたから、心労がたたって倒れたのかもしれないわ」
「セシリア。シーウェル嬢は何を悩んでいたんだ?」
王太子殿下は何も知らないふりをして、セシリアから話を聞き出そうとしている。殿下に聞かれたら嫌でも答えなくてはならない。
「それは……、義妹のリリアン様と婚約者のアストン様が抱き合って愛を囁き合っている姿を見てしまい、フローラは心を痛めていたのです。
それにルイスも私も、二人がフローラを裏切っている現場を見てしまいました。
フローラが可哀想だわ。どうしてフローラがこんな目に遭わないといけないの?」
「……ルイス、それは本当か?」
殿下の声が一瞬で低くなる。すごい演技力だった。
「はい。私とセシリアは、夜会の控室で二人が抱き合っている姿を見てしまいました。お互いに愛を囁き合っていましたよ。
シーウェル伯爵令嬢も違う日に裏切りを見てしまったようで泣いていましたね」
「ほう……。婚約者と義姉を裏切った者の結婚式になるのだな。シーウェル嬢が気の毒だ……」
「それだけではありません。この二人は隠れて仮面舞踏会に出入りして密会をしていたようで、そのことを知ったフローラは、身を引くべきなのかと悩んでおりましたのよ。愛する婚約者と可愛い義妹には幸せになって欲しいとまで言っておりましたわ。
本当に酷いわぁ。フローラはとても優しい子なのに、こんな仕打ちをするなんて……」
「レイモンド、お前はなんてことをしてくれたんだ!」
「リリアン、貴女は何を考えているの?」
怒りを含んだアストン侯爵様の声と、義母の冷ややかな声が響いている。
身の置き所がないリリアンとアストン様は、弁解する余地もないのか、二人の声は聞こえてこない。
「今、王宮内で噂になっている話は本当だったのだな」
「殿下、噂話とは?」
殿下が噂話があると言うと、すかさず父が食い付いている。
「私も二、三日前に耳にしたばかりなのだが、この二人が隠れて付き合っているとか、二人で仮面舞踏会に出入りして遊んでいるとか、お揃いの香水を付けるほど親しい関係だとか、そういった噂話だ」
その噂話は、結婚式直前にセシリアとマクラーレン様が意図的に流した噂話だった。
未婚の令息や令嬢が仮面舞踏会に行くということは、遊び人だと思われてしまうのでマイナスのイメージを持たれしまう。
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そう言えば、兄はここに来ているのかしら……? 声すら聞こえてこないわ。
「リリアン、よくも我が家門に泥をぬるようなことをしてくれたな」
「最悪だ。今日の結婚式は恥でしかない……」
控室から聞こえてくるお父様とアストン侯爵様の声は、怒りを滲ませたものであった。
しかし、セシリアとマクラーレン様はこれで話を終わらせるつもりはないようだ。
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