婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた

せいめ

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15 触れられたくない

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 あの後、馬車の中でマクラーレン様からある報告を聞いた私は、ショックを通り越して呆れてしまった。
 マクラーレン様は、公爵家の諜報員を使ってリリアンとアストン様のことを調べてくれたのだが、二人は仮面舞踏会に出入りしていて、そこで親しくなったらしい。
 我が国の仮面舞踏会は、一夜のお相手を探したりするような場で、未婚の令嬢は滅多に参加しない。
 リリアンは友人の男爵令嬢の邸に泊まりに行くと言って、その友人と二人で仮面舞踏会に行っていたようだ。
 アストン様も友人達と行っていたらしいが、最近は参加していないらしい。結婚式直前だから、遊ぶことを控えているのだろう。
 それにしても、私に隠れて女遊びをするような人だったなんて知らなかった。
 何も知らない私は、あの男が優しくて素敵な方だと上辺だけを見て好きになり、愛を囁かれたり抱きしめられたりして純粋に幸せだと思っていた。
 仮面舞踏会で他の女性に触れた手で自分が触られているとも知らずに、私だけを愛してくれていると勘違いしていた私は本当に馬鹿だ。
 考えれば考えるほど、あの男が気持ち悪く思えてきて、生理的に受け付けない。もうあの男に触れられたくないと思ってしまった。

 しかし私の気持ちを知らないアストン様は、夜会の翌日にも私に会いに来る。
 最近の私は、もうすぐ結婚するから実家でゆっくり過ごしたいと言って、アストン侯爵家に行くことを遠慮していたのだが、それもあってわざわざ会いに来ているのかもしれない。
 それとも、リリアンに会いたいのかしら?

 面倒になった私は、アストン様が来たと知らせに来たメイドに、リリアンにも彼が来たことを知らせてあげるようにと命令した。私に対抗心を燃やしているリリアンのことだから、すぐにアストン様のいる応接室に向かうだろうと予想したからだ。そして私の方は、のんびりと準備をしてから応接室に向かうことにした。

「お義姉様ったら、大切な婚約者が来ているのに、いつまで待たせるのでしょうか?
 本当に酷いわ」

 私の期待通り、リリアンは先に応接室に来て、アストン様の隣を陣取って接待してくれていたようだ。

「アストン様、お待たせ致しました。
 リリアン、貴女みたいな(おバカな)義妹がいて本当に助かっているわ。ありがとう」

 笑顔でリリアンにお礼を言ったら、彼女は私が悔しがらないことが意外に見えたのか、拍子抜けした顔をしていた。

「ローラ……、昨夜は悪かった。
 体調は大丈夫かい? あの後、ずっと心配していたんだよ」

 私の心配よりも、自分が大変だったのではないかしら? だって、昨夜のアストン様は女物の香水の匂いをぷんぷんさせていて、私やセシリア達にあそこまで言われていたのを、周りにいた貴族達に聞かれてしまったのだから、さぞや肩身の狭い思いをしたはず。もしかしたら、リリアンとアストン様の匂いが同じことに気付いた人がいるかもしれない。
 結婚直前の令息が、他の女の香水の匂いをさせて婚約者のところに戻ってきて、臭いと言われていたなんて醜聞でしかないわよね。
 日陰の身であることを弁えない人を不貞の相手にすると、自分が苦労するということを知るべきよ。

「アストン様、私こそ申し訳ありませんでした。
 下品な香水の匂いくらいで気分が悪くなるような私は、まだまだ未熟ですわね。
 こんな私に侯爵夫人が務まるのかとますます不安になってしまい、昨夜は眠れませんでしたわ」

 私はマリッジブルーになっている人のように振る舞うことにした。
 
「私はローラと夫婦になりたいんだ。何も心配しなくて大丈夫だ。
 それに、私は早く君と結婚したいと思っているんだよ」

 リリアンが顔を引き攣らせている……

「でも私は嫉妬深いので、結婚してから夫が他の女性の匂いを付けて帰ってきたら許せないと思いますわ」

「……ローラ、私は愛人は作らないよ。約束する。
 昨夜は偶然、匂いが付いてしまっただけなんだ。本当に悪かった」

 そう言って立ち上がったアストン様は、私の所に来て私を抱きしめようとする。
 え、リリアンの前で私を抱きしめるの?
 その瞬間、私の口から咄嗟に出てきた言葉は……

「うっ……、昨夜のあの香水の匂いが……
 き、気持ち悪いわ。ちょっと花摘みに行きます」

 吐きそうな素振りを見せて、勢いで逃げてきてしまった。あの男が傷ついた表情をしていたけど、そんなことは気にしていられない。
 その後、気分が悪くなったからリリアンにアストン様のお相手を頼みたいとメイドに言付けを頼んで、私は昼寝でもすることにした。
 最近の私は良い子でいることをやめて、昼寝したり、リリアンに我慢しないで言い返しているから、ストレスのない毎日を過ごせていて本当に気楽だ。

 明日は、宝石店にでも行こうかしら。

 
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