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57 アンの結婚式
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ヒソヒソ……
「あの方はどなた? とても素敵だわ!」
「かっこいい方ね!」
「綺麗な女性を連れているわよ。諦めましょう」
若い女性達からの視線が痛い。ここで別行動をとれたらいいのに……
「マリアさん、口数が少ないし表情が険しくなっているが、気分が悪いならどこか静かな場所で休むか?」
「ケイヒル様、私は大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます」
今日はアンの結婚式だ。教会での式を終え、これからレストランを貸し切ってパーティーが開かれる。マリアはエスコート役のケイヒル卿と一緒にやって来たが、美形のケイヒル卿は非常に目立ち、沢山の女の子がチラ見していた。
ケイヒル卿は誰が見てもカッコいい。しかも、今日は公爵家のいつもの騎士服ではなく、式典やパーティーなどで着用する華やかな礼装用の騎士服を素敵に着こなしており、パーティー会場にきていたアンの夫の同僚である王都騎士団の騎士達とは比べ物にならないくらいに輝いている。そんなケイヒル卿を、会場にいるすべての女性が熱のこもった目で見つめているようだ。
そんな凄い男の横に立つマリアは、心の中で義兄のギルバートを恨んでいた。
ケイヒル卿がエスコートをすると言ってくれた時、マリアは迷わずに断るつもりでいた。こんな凄い人と一緒にパーティーにいくなんて危険でしかない。目立ちたくないし、女の嫉妬が恐ろしいことを知っているからだ。
しかし、ギルバートはその場であっさりとケイヒル卿の申し入れを受けてしまう。
『義妹がケイヒル卿にエスコートしてもらえたら、うちの家族は大喜びするでしょう。
よろしくお願い致します!』
『お義兄様、ケイヒル様は大変お忙しい方ですわ。無理にお願いするわけにはいきません』
『マリアさん、私なら休みをとるようにするから大丈夫だ。私にエスコートさせて欲しい』
『でも……』
『ケイヒル卿がここまで言って下さっているのに、マリアは別にエスコートを頼みたい男でもいるのかい?』
『そ、そんなお方はいませんわ』
と言った感じで、ケイヒル卿がエスコートすることに決まってしまった。
お義兄様には、ケイヒル様が目立ち過ぎて大変だったということを報告しよう。そして、次のパーティーはお義兄様かお義兄様の同僚の平凡な容姿の方にお願いしたいと伝えよう。
マリアがそんなことを考えている間に、パーティーが始まる時間を迎える。挙式の時とは違った華やかなドレスに身を包んだアンがクリフと一緒に入場してくると、会場内からは拍手が沸き起こる。
「アンさん、幸せそうですわ。それに、とても綺麗です」
「ああ、素敵な夫婦だな」
幸せそうな二人を見ているだけで、マリアの心も満たされる。
田舎者のマリアの面倒を見てくれただけでなく、悩みを聞いてくれて、いつも励ましてくれたアンは姉のような存在になっていた。アンがいなかったら、王都や公爵家に馴染めていたか分からない。家族と同じくらい大切な人だ。
「マリアさん、大丈夫か?」
「……は、はい。大切な人の結婚式はこんな気持ちになるんですね。嬉しくてつい涙が流れてしまいました。失礼しました」
「涙を流すほど祝福してもらえて、二人は幸せだな」
ケイヒル卿は涙を流すマリアを優しい目で見つめている。
涙を流すマリアと優しく寄り添うケイヒル卿。そんな二人は新郎新婦の次くらいに目立っていた。
◇◇
マリアとケイヒル卿の様子を離れた場所から見ていたのは、クリフから招待を受けてパーティーに来ていたテッドだ。
マリアとはずっと会えずにいたが、実家からの便りやクリフからの話で、マリアが子爵家の養子になったことを知っていた。
辺境でマリアを保護したことがきっかけになり、ギクシャクした関係が改善されることを期待していた。
前のようには戻れなくても、会えば楽しく話ができるくらいの関係でいたいと思っていたのに、今のマリアは子爵令嬢で平民のテッドが軽々しく声を掛けられない存在になってしまった。
エスコートには、公爵家の騎士である貴族令息がついていて、美しいマリアと美丈夫の令息はお似合いだった。
マリアと復縁するのは諦めていた。酷い女に騙されて、二股をかけた上に冷たく捨てたのだから当然だ。それなのに、他の男と一緒にいるマリアを見て胸の中がズキズキするのは何故なのか?
「今の私は胸を痛める資格すらないのにな……」
「……部隊長、大丈夫ですか? マリアさんが美男子の貴族令息を連れているからって落ち込まないで下さいよ。部隊長だって、うちの騎士団の中ではかなりカッコいいんですから!」
「私は大丈夫だ。ヘクターこそ、気に入った女の子がいるなら話しかけてこい」
「分かってますよ」
こんな自分でも慕ってくれる部下がいて、頼りになる仲間もいる。今は仕事に集中して、実家に沢山仕送りができるように頑張ろうとテッドは心に決めた。
「あの方はどなた? とても素敵だわ!」
「かっこいい方ね!」
「綺麗な女性を連れているわよ。諦めましょう」
若い女性達からの視線が痛い。ここで別行動をとれたらいいのに……
「マリアさん、口数が少ないし表情が険しくなっているが、気分が悪いならどこか静かな場所で休むか?」
「ケイヒル様、私は大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます」
今日はアンの結婚式だ。教会での式を終え、これからレストランを貸し切ってパーティーが開かれる。マリアはエスコート役のケイヒル卿と一緒にやって来たが、美形のケイヒル卿は非常に目立ち、沢山の女の子がチラ見していた。
ケイヒル卿は誰が見てもカッコいい。しかも、今日は公爵家のいつもの騎士服ではなく、式典やパーティーなどで着用する華やかな礼装用の騎士服を素敵に着こなしており、パーティー会場にきていたアンの夫の同僚である王都騎士団の騎士達とは比べ物にならないくらいに輝いている。そんなケイヒル卿を、会場にいるすべての女性が熱のこもった目で見つめているようだ。
そんな凄い男の横に立つマリアは、心の中で義兄のギルバートを恨んでいた。
ケイヒル卿がエスコートをすると言ってくれた時、マリアは迷わずに断るつもりでいた。こんな凄い人と一緒にパーティーにいくなんて危険でしかない。目立ちたくないし、女の嫉妬が恐ろしいことを知っているからだ。
しかし、ギルバートはその場であっさりとケイヒル卿の申し入れを受けてしまう。
『義妹がケイヒル卿にエスコートしてもらえたら、うちの家族は大喜びするでしょう。
よろしくお願い致します!』
『お義兄様、ケイヒル様は大変お忙しい方ですわ。無理にお願いするわけにはいきません』
『マリアさん、私なら休みをとるようにするから大丈夫だ。私にエスコートさせて欲しい』
『でも……』
『ケイヒル卿がここまで言って下さっているのに、マリアは別にエスコートを頼みたい男でもいるのかい?』
『そ、そんなお方はいませんわ』
と言った感じで、ケイヒル卿がエスコートすることに決まってしまった。
お義兄様には、ケイヒル様が目立ち過ぎて大変だったということを報告しよう。そして、次のパーティーはお義兄様かお義兄様の同僚の平凡な容姿の方にお願いしたいと伝えよう。
マリアがそんなことを考えている間に、パーティーが始まる時間を迎える。挙式の時とは違った華やかなドレスに身を包んだアンがクリフと一緒に入場してくると、会場内からは拍手が沸き起こる。
「アンさん、幸せそうですわ。それに、とても綺麗です」
「ああ、素敵な夫婦だな」
幸せそうな二人を見ているだけで、マリアの心も満たされる。
田舎者のマリアの面倒を見てくれただけでなく、悩みを聞いてくれて、いつも励ましてくれたアンは姉のような存在になっていた。アンがいなかったら、王都や公爵家に馴染めていたか分からない。家族と同じくらい大切な人だ。
「マリアさん、大丈夫か?」
「……は、はい。大切な人の結婚式はこんな気持ちになるんですね。嬉しくてつい涙が流れてしまいました。失礼しました」
「涙を流すほど祝福してもらえて、二人は幸せだな」
ケイヒル卿は涙を流すマリアを優しい目で見つめている。
涙を流すマリアと優しく寄り添うケイヒル卿。そんな二人は新郎新婦の次くらいに目立っていた。
◇◇
マリアとケイヒル卿の様子を離れた場所から見ていたのは、クリフから招待を受けてパーティーに来ていたテッドだ。
マリアとはずっと会えずにいたが、実家からの便りやクリフからの話で、マリアが子爵家の養子になったことを知っていた。
辺境でマリアを保護したことがきっかけになり、ギクシャクした関係が改善されることを期待していた。
前のようには戻れなくても、会えば楽しく話ができるくらいの関係でいたいと思っていたのに、今のマリアは子爵令嬢で平民のテッドが軽々しく声を掛けられない存在になってしまった。
エスコートには、公爵家の騎士である貴族令息がついていて、美しいマリアと美丈夫の令息はお似合いだった。
マリアと復縁するのは諦めていた。酷い女に騙されて、二股をかけた上に冷たく捨てたのだから当然だ。それなのに、他の男と一緒にいるマリアを見て胸の中がズキズキするのは何故なのか?
「今の私は胸を痛める資格すらないのにな……」
「……部隊長、大丈夫ですか? マリアさんが美男子の貴族令息を連れているからって落ち込まないで下さいよ。部隊長だって、うちの騎士団の中ではかなりカッコいいんですから!」
「私は大丈夫だ。ヘクターこそ、気に入った女の子がいるなら話しかけてこい」
「分かってますよ」
こんな自分でも慕ってくれる部下がいて、頼りになる仲間もいる。今は仕事に集中して、実家に沢山仕送りができるように頑張ろうとテッドは心に決めた。
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