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53 閑話 ケイヒル卿
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込み上げてくるこの不快な感情は怒りなのか? 自分でもよく分からないが、今は平常心を保たなくてはいけない。
「ダレル……、マリアさんにそこまで言う必要があったか?」
「あの時の私はマリアさんをよく知らなかったんだ。最近気付いたが、彼女は仕事熱心でお嬢様しか見ていない。
恋愛に興味はないみたいだし、マリアさんと仲良くしている同室のメイドから、彼女は騎士をしている元恋人から酷い仕打ちを受けたことがあって、騎士が苦手で私達に恋をすることはないから安心しろと釘を刺された。
確かに、彼女を見ていると騎士とは距離を置いているように見える」
「……」
彼女は騎士が苦手だという話は初耳だった。
どうして自分はこんなにショックを受けているのか……
「マリアさんにあんなに酷いことを言って、とても後悔している。
命を失うかもしれないという時に、お嬢様の身代わりになる彼女は凛として美しくて……、そんな彼女に私は今までなんて事をしたのだろうと。
痩せて疲れた顔をして帰ってきた彼女に、早く元気になって欲しくて実家の商品を届けただけだ。決して下心で近付いたのではない。本当にすまなかった」
「たとえ下心がなくても、女性にそっけないダレルがそんなことをしたら、誰だって特別な関係なのかと疑いたくなるだろう。
マリアさんを助けたいと思ってしたことかもしれないが、もっと考えて動くべきだ」
「彼女と噂になるようなことをして軽率だったと思う。彼女からは今後はもう必要ないと遠回しに言われて、ハッとした。
私は彼女に相当嫌われているようだから、今後は無理に関わるのはやめる」
悲しげに話をするダレルを見たら、怒りは消えてしまった。そのかわり胸がズキズキと痛んでいる。
その後、重苦しい雰囲気の中で食事を終えて騎士団の寮に戻った。
後日、ダレルと必死になって噂話を否定し続けた結果、すぐに噂はなくなった。
しかし、しばらくするとまた違う話を耳にする。
「アンドリュー、実家に帰った時に両親から聞いて気になっていることがあるんだが……」
ダレルの実家は大きな商家なので、身分に関係なく色々な人との付き合いがあるらしい。両親はとても顔が広いので色々な情報が入ってくると前に聞いていた。
「どうかしたのか?」
「マリアさんのことだ。彼女を養子として迎えようと企む貴族がいるらしい。公爵閣下と夫人、お嬢様だけでなく王子殿下からも気に入られているマリアさんを養子に迎えて、公爵家に取り入ってやりたいと考えている者がいるようだ。
彼女がそれで幸せならいいが、いいように利用されるのではないかと不安もある。
私は彼女に嫌われていて話すら出来ない。だからアンドリューが助けてやってくれないか?」
「マリアさんが貴族の養子に望まれているのか?」
「彼女は平民だが、見た感じはその辺の貴族令嬢よりも美しくて洗練されているだろう? 少し前から他の貴族達の中で、お嬢様の連れている美しいメイドはどこの令嬢なのかと噂になっていたらしいんだ。
公爵家に取り入るだけでなく、政略結婚の駒にも使えそうだと考える貴族がいるらしい。
これは私みたいな平民の力では助けられない。アンドリュー、何とかならないか?」
深刻なダレルの様子から、この男が彼女に特別な感情を持っていることが分かってしまった。
しかし、今はそのことよりもマリアさんを何とかしなくてはいけない。卑劣な貴族なら彼女の実家に手を回すくらいのことはしそうだ。
「時間がないな……。私の実家に調査を頼むより、お嬢様に相談した方が早そうだ」
私達はすぐに極秘でお嬢様にそのことを報告した。
「前からマリアに探りを入れようとする貴族がいたことには気付いていたの。私の弱みを握ろうとマリアに近づこうとする者がいることも知っていたわ。でも、あの子に欲はないし見目の良い殿方にもなびかないから安心していたの。
だけど、田舎の両親を人質にされる可能性もあるわね。お父様とお母様に相談してみるわ」
お嬢様はすぐに動いてくれた。
「ダレル……、マリアさんにそこまで言う必要があったか?」
「あの時の私はマリアさんをよく知らなかったんだ。最近気付いたが、彼女は仕事熱心でお嬢様しか見ていない。
恋愛に興味はないみたいだし、マリアさんと仲良くしている同室のメイドから、彼女は騎士をしている元恋人から酷い仕打ちを受けたことがあって、騎士が苦手で私達に恋をすることはないから安心しろと釘を刺された。
確かに、彼女を見ていると騎士とは距離を置いているように見える」
「……」
彼女は騎士が苦手だという話は初耳だった。
どうして自分はこんなにショックを受けているのか……
「マリアさんにあんなに酷いことを言って、とても後悔している。
命を失うかもしれないという時に、お嬢様の身代わりになる彼女は凛として美しくて……、そんな彼女に私は今までなんて事をしたのだろうと。
痩せて疲れた顔をして帰ってきた彼女に、早く元気になって欲しくて実家の商品を届けただけだ。決して下心で近付いたのではない。本当にすまなかった」
「たとえ下心がなくても、女性にそっけないダレルがそんなことをしたら、誰だって特別な関係なのかと疑いたくなるだろう。
マリアさんを助けたいと思ってしたことかもしれないが、もっと考えて動くべきだ」
「彼女と噂になるようなことをして軽率だったと思う。彼女からは今後はもう必要ないと遠回しに言われて、ハッとした。
私は彼女に相当嫌われているようだから、今後は無理に関わるのはやめる」
悲しげに話をするダレルを見たら、怒りは消えてしまった。そのかわり胸がズキズキと痛んでいる。
その後、重苦しい雰囲気の中で食事を終えて騎士団の寮に戻った。
後日、ダレルと必死になって噂話を否定し続けた結果、すぐに噂はなくなった。
しかし、しばらくするとまた違う話を耳にする。
「アンドリュー、実家に帰った時に両親から聞いて気になっていることがあるんだが……」
ダレルの実家は大きな商家なので、身分に関係なく色々な人との付き合いがあるらしい。両親はとても顔が広いので色々な情報が入ってくると前に聞いていた。
「どうかしたのか?」
「マリアさんのことだ。彼女を養子として迎えようと企む貴族がいるらしい。公爵閣下と夫人、お嬢様だけでなく王子殿下からも気に入られているマリアさんを養子に迎えて、公爵家に取り入ってやりたいと考えている者がいるようだ。
彼女がそれで幸せならいいが、いいように利用されるのではないかと不安もある。
私は彼女に嫌われていて話すら出来ない。だからアンドリューが助けてやってくれないか?」
「マリアさんが貴族の養子に望まれているのか?」
「彼女は平民だが、見た感じはその辺の貴族令嬢よりも美しくて洗練されているだろう? 少し前から他の貴族達の中で、お嬢様の連れている美しいメイドはどこの令嬢なのかと噂になっていたらしいんだ。
公爵家に取り入るだけでなく、政略結婚の駒にも使えそうだと考える貴族がいるらしい。
これは私みたいな平民の力では助けられない。アンドリュー、何とかならないか?」
深刻なダレルの様子から、この男が彼女に特別な感情を持っていることが分かってしまった。
しかし、今はそのことよりもマリアさんを何とかしなくてはいけない。卑劣な貴族なら彼女の実家に手を回すくらいのことはしそうだ。
「時間がないな……。私の実家に調査を頼むより、お嬢様に相談した方が早そうだ」
私達はすぐに極秘でお嬢様にそのことを報告した。
「前からマリアに探りを入れようとする貴族がいたことには気付いていたの。私の弱みを握ろうとマリアに近づこうとする者がいることも知っていたわ。でも、あの子に欲はないし見目の良い殿方にもなびかないから安心していたの。
だけど、田舎の両親を人質にされる可能性もあるわね。お父様とお母様に相談してみるわ」
お嬢様はすぐに動いてくれた。
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