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52 閑話 ケイヒル卿
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「アンドリュー! ダレルとマリアさんが付き合っているって本当か?」
突然、仲間の騎士から驚くようなことを聞かれる。
「それは絶対にあり得ないな。ダレルの性格を知っているだろう? あんな性格の男は恋人には向かない」
ダレルの裏表のない性格は友人として付き合うのはいいが、デリカシーのないことを遠慮なくズケズケと言うので、見た目は良くても女性からは嫌われそうな男だ。
マリアがダレルとは目を合わさないことや、会話もほとんどしないことにケイヒル卿は気付いていた。普段も仕事中に最低限の関わりだけで、彼女はダレルを避けているように見えたし、そんな二人が付き合うはずがない。
「あのダレルがマリアさんを見舞うために、プレゼントを持って寮まで行ったらしい。女の子に冷たいダレルがそこまでするんだから、二人は付き合っているんだろうって噂になっている。
マリアさんを狙っていた奴らは落ち込んでいるみたいだ」
「ダレルが? 信じられない……」
ダレルはハッキリとは言わないが、あまり女性が得意ではない。黙っていれば男前なので何も知らない女性は沢山寄ってくるが、どんな美人が言い寄ってきても冷たくあしらって全く相手にしないのだ。
しかも、ケイヒル卿とマリアが仲良くすることを露骨に嫌がり、身分を考えろとか、平民女は計算高くて裏で何をしているから分からないから気をつけろとか、見た目に騙されるなとか、ケイヒル卿に口煩く言ってきたくらいだ。
そんなダレルがマリアの見舞いに行くなんて何かの間違いでは……と、ケイヒル卿は噂話を信じられず、仕事終わりに食事に誘って話を聞くことにした。
「ダレルとマリアさんが噂になっているぞ。お前がマリアさんの見舞いに行ったとか、絶対にあり得ない話で驚いてしまったよ」
ケイヒル卿は、噂話をダレルに話したら露骨に嫌な顔をされて、そんな話を信じるなとでも言われると思っていた。しかしダレルは、罰が悪そうな顔をして黙り込んでしまう。
「……もしかして、噂話は本当なのか?」
「アンドリューにはずっと話そうかと思っていたんだ。だが、なかなか言う機会がなくて……悪かった」
「マリアさんにあんなに冷淡な態度を取り続けていたのは、愛情の裏返しだったのか?
私にマリアさんの悪口を言ってきたりしたのもそういうことだったんだな?」
「落ち着いてくれ! そんなつもりはなかった。初めは、田舎娘が綺麗に化けて周りからチヤホヤされているのが生意気に見えて面白くなかった。見た目がいい平民女が、裏で男を取っ替え引っ替えしているのをよく見ていたから、彼女もそうに違いないと……
アンドリューが彼女を気に掛けているのを見て、貴族が見た目だけの平民女に騙されてほしくないと思ったから、色々とキツイことを言ったりした。
悪かったな……」
無意識に言葉を荒げていたケイヒル卿は、レストランにいた他の客達の視線でハッとする。
「悪い……。私こそ、カッとしてしまった」
「実は他にもアンドリューに謝りたいことがある……」
「他にもって、何をしたんだ?」
ダレルが弱々しい声で謝りたいと言うなんて初めてのことだ。
ケイヒル卿は、この男は他に何をしたのかとため息をつきたくなっていた。
「怒らないから話してくれ。お前は何をしたんだ?」
「……前にマリアさんがアンドリューを急に避けるようになり、目も合わせてくれなくなったことを悩んでいたよな? 自分は何か怒らせるようなことをしてしまったのかもしれないと。
あれはアンドリューと噂になっていた彼女に、身の程を弁えるべきだと私が話をしたからだ」
「……は?」
「平民が貴族と噂になって良いことなんて何もないから、アンドリューは貴族として政略結婚をしなくてはならないことを話した。
その他に、美しくなったから勘違いしないようにとか、アンドリューのことは諦めるようにとも伝えた……」
仕事の仲間として、彼女と一緒に働くことを嬉しく思っていた。自分と恋仲だと噂があることにも気付いていたが、何もやましいことはない。真面目に仕事をしていれば、周りもそれはただの噂だと気付くだろうと気にせずにいた。
しかし、ある日突然、彼女は自分を避けだしてあの愛らしい笑顔を見せてくれなくなった。それがとてもショックで、眠れない日々を過ごした。
自分は彼女から嫌われることをしてしまったのかと沢山悩んだが、まさかその原因がダレルだったとは。
突然、仲間の騎士から驚くようなことを聞かれる。
「それは絶対にあり得ないな。ダレルの性格を知っているだろう? あんな性格の男は恋人には向かない」
ダレルの裏表のない性格は友人として付き合うのはいいが、デリカシーのないことを遠慮なくズケズケと言うので、見た目は良くても女性からは嫌われそうな男だ。
マリアがダレルとは目を合わさないことや、会話もほとんどしないことにケイヒル卿は気付いていた。普段も仕事中に最低限の関わりだけで、彼女はダレルを避けているように見えたし、そんな二人が付き合うはずがない。
「あのダレルがマリアさんを見舞うために、プレゼントを持って寮まで行ったらしい。女の子に冷たいダレルがそこまでするんだから、二人は付き合っているんだろうって噂になっている。
マリアさんを狙っていた奴らは落ち込んでいるみたいだ」
「ダレルが? 信じられない……」
ダレルはハッキリとは言わないが、あまり女性が得意ではない。黙っていれば男前なので何も知らない女性は沢山寄ってくるが、どんな美人が言い寄ってきても冷たくあしらって全く相手にしないのだ。
しかも、ケイヒル卿とマリアが仲良くすることを露骨に嫌がり、身分を考えろとか、平民女は計算高くて裏で何をしているから分からないから気をつけろとか、見た目に騙されるなとか、ケイヒル卿に口煩く言ってきたくらいだ。
そんなダレルがマリアの見舞いに行くなんて何かの間違いでは……と、ケイヒル卿は噂話を信じられず、仕事終わりに食事に誘って話を聞くことにした。
「ダレルとマリアさんが噂になっているぞ。お前がマリアさんの見舞いに行ったとか、絶対にあり得ない話で驚いてしまったよ」
ケイヒル卿は、噂話をダレルに話したら露骨に嫌な顔をされて、そんな話を信じるなとでも言われると思っていた。しかしダレルは、罰が悪そうな顔をして黙り込んでしまう。
「……もしかして、噂話は本当なのか?」
「アンドリューにはずっと話そうかと思っていたんだ。だが、なかなか言う機会がなくて……悪かった」
「マリアさんにあんなに冷淡な態度を取り続けていたのは、愛情の裏返しだったのか?
私にマリアさんの悪口を言ってきたりしたのもそういうことだったんだな?」
「落ち着いてくれ! そんなつもりはなかった。初めは、田舎娘が綺麗に化けて周りからチヤホヤされているのが生意気に見えて面白くなかった。見た目がいい平民女が、裏で男を取っ替え引っ替えしているのをよく見ていたから、彼女もそうに違いないと……
アンドリューが彼女を気に掛けているのを見て、貴族が見た目だけの平民女に騙されてほしくないと思ったから、色々とキツイことを言ったりした。
悪かったな……」
無意識に言葉を荒げていたケイヒル卿は、レストランにいた他の客達の視線でハッとする。
「悪い……。私こそ、カッとしてしまった」
「実は他にもアンドリューに謝りたいことがある……」
「他にもって、何をしたんだ?」
ダレルが弱々しい声で謝りたいと言うなんて初めてのことだ。
ケイヒル卿は、この男は他に何をしたのかとため息をつきたくなっていた。
「怒らないから話してくれ。お前は何をしたんだ?」
「……前にマリアさんがアンドリューを急に避けるようになり、目も合わせてくれなくなったことを悩んでいたよな? 自分は何か怒らせるようなことをしてしまったのかもしれないと。
あれはアンドリューと噂になっていた彼女に、身の程を弁えるべきだと私が話をしたからだ」
「……は?」
「平民が貴族と噂になって良いことなんて何もないから、アンドリューは貴族として政略結婚をしなくてはならないことを話した。
その他に、美しくなったから勘違いしないようにとか、アンドリューのことは諦めるようにとも伝えた……」
仕事の仲間として、彼女と一緒に働くことを嬉しく思っていた。自分と恋仲だと噂があることにも気付いていたが、何もやましいことはない。真面目に仕事をしていれば、周りもそれはただの噂だと気付くだろうと気にせずにいた。
しかし、ある日突然、彼女は自分を避けだしてあの愛らしい笑顔を見せてくれなくなった。それがとてもショックで、眠れない日々を過ごした。
自分は彼女から嫌われることをしてしまったのかと沢山悩んだが、まさかその原因がダレルだったとは。
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