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50 見舞い
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公爵家に戻った翌日、しばらく休みをもらったマリアが部屋でのんびり読書をしていると、管理人のおばさんから呼ばれる。
「マリアに面会が来ているよ。食堂で待ってもらっているから、早く行ってやりな」
「面会? 誰でしょうか?」
マリアには寮に面会に来るような関係の人はいない。田舎から両親が来るわけがないし、外部から寮に会いに来るような知り合いもいないからだ。
マリアが不思議そうな反応をすると、おばさんはニヤッと笑う。
「あの人は見たことがあるから公爵家の騎士だね。マリアの恋人かい? 男前で礼儀正しくていいじゃないか。早く行ってあげな!」
公爵家の騎士と言われ、ますます誰だか分からなかったが、その人は管理人のおばさんに気に入られたらしい。
全く心当たりはなかったが、待たせるのも悪いし、呼びにきてくれたおばさんが怖いので食堂に向かうと、そこにいたのは公爵家の中で一番苦手で嫌いな存在のダレルだった。
この人は何をしに来たの? 騎士服ではなく私服でいるから仕事はお休みのようだけど。
せっかく一人でのんびり過ごしていたのに、最悪な気分だわ。
本当は会話すらしたくないけど、呼びに来てくれたおばさんが見ているから自然に振る舞おう。
「ご機嫌よう。何かご用でしょうか?」
声を掛けたその時、今までのダレルとは様子が違うことに気付く。
マリアを露骨に嫌ってあんなに辛く当たっていたのに、今日のダレルは黙り込んでいて居心地が悪そうに見えた。
「突然訪ねてすまない……
君の具合が悪そうに見えたから、体に良さそうな物を持ってきた。
私の実家は商家で薬や健康食品なんかを扱う店をやっている。体調が悪い時に症状さえ伝えてくれれば、実家から薬を届けてもらうようにするから、何かあったら遠慮なく言ってくれ」
「……はい?」
ダレルはマリアとの会話が気まずいのか、いつもより小さな声で喋るのでとても聴き取りにくく、自分の耳を疑ってしまう。
何より今までのダレルからは、見下した態度を取られ、突き放すようなことしか言われなかった。それなのに急にマリアを気遣うような態度を取られたら、何か裏があるように思えて気味が悪い。
「君の体調が早く良くなることを願っている。
それと……、今まで君のことを勘違いして、沢山酷いことを言って悪かった。私達騎士を助けてくれて感謝している。
失礼する!」
「また行っちゃったよ……」
こんな時でもダレルは一方的な男だった。ダレルが帰った後、その場には高級そうな大きな紙袋が置かれている。
「マリアー、男に貢がせるなんて大したもんだ。
せっかく届けてくれたんだから受け取るといいよ。その紙袋は健康志向の高い貴族御用達の店だね。マリアの体調を心配して来てくれたんだろう? 良い人じゃないか!」
隠れてマリアとダレルのやり取りを見ていたおばさんがひょっこりと出てきた。
全然良い人じゃなかったから嫌いなんだけど……
今さら謝ってもらっても苦手な人には変わりないのに。あの人は何を考えているのかしらね。
ダレルがくれた物を食堂に置いておくわけにもいかず、仕方なく自分の部屋に持ち帰る。
その日の夜、マリアはアンに今日の出来事を話していた。
「ダレルがここに来て見舞いの品を置いていったって?
へぇ、金持ちの家の息子だとは聞いたことがあるけど、実家があのルシー商会とは驚きだね」
「アンさんの知っている商会なんですか?」
「王都で有名な商会だよ。貴族や富裕層向けの薬や化粧品を扱っていて、高いけどよく効くから人気らしいね。せっかくだから使ってみたら?」
ダレルがくれた物が高級品だと聞いたマリアは、すぐにでもダレルに返しに行きたい気持ちになっていた。
「高いならこれは返そうと思っています。あの人から物をもらうのはちょっと嫌なので……」
「金持ちの実家からタダで貰ってきたんでしょ? 深い意味なんてなさそうだから気にしないで使ったらいいよ。同僚にお見舞いや差し入れをする感覚なんだから。
仕事に復帰した時に適当にお礼でも言って、今後はこういう気遣いは遠慮するって伝えた方が角が立たなくていいんじゃない?」
確かに、これを返すために騎士団の寮に行きたくはないし、突き返したらあのダレルは睨みつけてきそうだ。
今回はアンの言う通りにして、休み明けにサラッとお礼を伝えるようにしよう。
「マリアに面会が来ているよ。食堂で待ってもらっているから、早く行ってやりな」
「面会? 誰でしょうか?」
マリアには寮に面会に来るような関係の人はいない。田舎から両親が来るわけがないし、外部から寮に会いに来るような知り合いもいないからだ。
マリアが不思議そうな反応をすると、おばさんはニヤッと笑う。
「あの人は見たことがあるから公爵家の騎士だね。マリアの恋人かい? 男前で礼儀正しくていいじゃないか。早く行ってあげな!」
公爵家の騎士と言われ、ますます誰だか分からなかったが、その人は管理人のおばさんに気に入られたらしい。
全く心当たりはなかったが、待たせるのも悪いし、呼びにきてくれたおばさんが怖いので食堂に向かうと、そこにいたのは公爵家の中で一番苦手で嫌いな存在のダレルだった。
この人は何をしに来たの? 騎士服ではなく私服でいるから仕事はお休みのようだけど。
せっかく一人でのんびり過ごしていたのに、最悪な気分だわ。
本当は会話すらしたくないけど、呼びに来てくれたおばさんが見ているから自然に振る舞おう。
「ご機嫌よう。何かご用でしょうか?」
声を掛けたその時、今までのダレルとは様子が違うことに気付く。
マリアを露骨に嫌ってあんなに辛く当たっていたのに、今日のダレルは黙り込んでいて居心地が悪そうに見えた。
「突然訪ねてすまない……
君の具合が悪そうに見えたから、体に良さそうな物を持ってきた。
私の実家は商家で薬や健康食品なんかを扱う店をやっている。体調が悪い時に症状さえ伝えてくれれば、実家から薬を届けてもらうようにするから、何かあったら遠慮なく言ってくれ」
「……はい?」
ダレルはマリアとの会話が気まずいのか、いつもより小さな声で喋るのでとても聴き取りにくく、自分の耳を疑ってしまう。
何より今までのダレルからは、見下した態度を取られ、突き放すようなことしか言われなかった。それなのに急にマリアを気遣うような態度を取られたら、何か裏があるように思えて気味が悪い。
「君の体調が早く良くなることを願っている。
それと……、今まで君のことを勘違いして、沢山酷いことを言って悪かった。私達騎士を助けてくれて感謝している。
失礼する!」
「また行っちゃったよ……」
こんな時でもダレルは一方的な男だった。ダレルが帰った後、その場には高級そうな大きな紙袋が置かれている。
「マリアー、男に貢がせるなんて大したもんだ。
せっかく届けてくれたんだから受け取るといいよ。その紙袋は健康志向の高い貴族御用達の店だね。マリアの体調を心配して来てくれたんだろう? 良い人じゃないか!」
隠れてマリアとダレルのやり取りを見ていたおばさんがひょっこりと出てきた。
全然良い人じゃなかったから嫌いなんだけど……
今さら謝ってもらっても苦手な人には変わりないのに。あの人は何を考えているのかしらね。
ダレルがくれた物を食堂に置いておくわけにもいかず、仕方なく自分の部屋に持ち帰る。
その日の夜、マリアはアンに今日の出来事を話していた。
「ダレルがここに来て見舞いの品を置いていったって?
へぇ、金持ちの家の息子だとは聞いたことがあるけど、実家があのルシー商会とは驚きだね」
「アンさんの知っている商会なんですか?」
「王都で有名な商会だよ。貴族や富裕層向けの薬や化粧品を扱っていて、高いけどよく効くから人気らしいね。せっかくだから使ってみたら?」
ダレルがくれた物が高級品だと聞いたマリアは、すぐにでもダレルに返しに行きたい気持ちになっていた。
「高いならこれは返そうと思っています。あの人から物をもらうのはちょっと嫌なので……」
「金持ちの実家からタダで貰ってきたんでしょ? 深い意味なんてなさそうだから気にしないで使ったらいいよ。同僚にお見舞いや差し入れをする感覚なんだから。
仕事に復帰した時に適当にお礼でも言って、今後はこういう気遣いは遠慮するって伝えた方が角が立たなくていいんじゃない?」
確かに、これを返すために騎士団の寮に行きたくはないし、突き返したらあのダレルは睨みつけてきそうだ。
今回はアンの言う通りにして、休み明けにサラッとお礼を伝えるようにしよう。
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