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43 行方不明
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暗い中で小屋を物色して気付いたのは、この小屋は農業用の倉庫として使っているものであるということ。農機具や木の箱、仕事着、藁などが置いてあり、農民育ちのマリアには馴染みのある物ばかりだった。
攫われたお嬢様が農民に捕らえられているだなんて普通は思わないわ。クレアお嬢様を狙った犯人はよく考えている……
小屋の中には月の光が差し込み、高い場所に窓があることに気付いた。
あの高さなら木の箱を積み重ねて登って窓から脱出できる! その前に、小屋の外に見張りがいるのかを確認してみようかしら。
マリアはドアを何回かノックしてみることにした。もしドアの外に見張りがいれば声を掛けてくるはず。誰かいたら具合が悪いとか適当なことを言って誤魔化せばいい。しかし誰もいないのか、何度ドアをノックしても外はシーンとしている。
見張りもいないなんて、あの農民達は本当に適当なのね。逃げるなら今日しかないわ!
マリアは小屋の中に置いてあった汚らしい農民の服に着替えた。クレアお嬢様の高級ドレスは、胸が痛んだが捨てていくしかない。藁の下に隠しておけばしばらくは見つからないだろう。
そして月明かりの中、窓から外に脱出した。思った以上に高くて、窓から飛び降りるような形になってしまったが、田舎で木登りをして遊んで育ったマリアには大したことはなかった。
しかし、それからが大変だった。逃げ出したのはいいが、ここでは誰にも助けを求められないことに気付いてしまったから。道ゆく人に助けを求めても、あの農民達の知り合いや仲間である可能性がある。
今は辛いけど、ここから遠く離れた場所まで隠れながら移動するしかないわね。
ここがどこなのか分からないけど、とりあえずこの場から離れよう。
◇◇
その頃、王都では……
「マリア……、すぐに助けに行くから待っていて!
神様、どうかマリアをお守り下さい」
「お嬢様、マリアならきっと大丈夫ですわ。あの子を信じて待ちましょう」
クレアお嬢様やマリアの同僚のメイド達は、マリアが無事に帰ってくることを祈るしか出来なかった。
悲しむお嬢様とメイド達を悲痛な目で見ていたのはケイヒル卿とダレルだ。二人は口には出さないが、野盗の討伐のメンバーに入ってすぐにでもマリアを助けに行きたいと思っていた。しかし、二人ともお嬢様の護衛騎士で側を離れることは許されない。
公爵家の護衛は手練れの騎士ばかりだが、何百いるのか分からないくらいの人数で囲まれ、荒々しくメチャクチャな戦いをする野盗を数人同時に相手にするのは非常に厄介だった。どちらが勝つのかがわからない戦いだったのだ。
ケイヒル卿はマリアを置いていくなんてしたくはなかった。しかし、優先されるのはお嬢様であってメイドのマリアではない。無力な自分が悔しくて悲しくて、騎士としてこんな気持ちになるのは初めてだった。
そしてダレルは、マリアの外見を見て勝手に毛嫌いして辛く当たったことを後悔していた。自分に擦り寄ってくる平民女達を見てきて、美しくてモテる女にまともな人間はいないと思い込んでいたからだ。
あの日、マリアが囮になってくれたから自分たち騎士も助けられた。野盗相手に怯まずに声を上げるマリアは凛として美しく、お嬢様を守りたいという強い意志は、その場にいた騎士達全員に伝わっていただろう。
ダレルは、そんなマリアになんてことをしたのだろうと自責の念に駆られていたのだ。
公爵令嬢を襲った野盗の討伐の準備は極秘に行われていた。
マリアが囮になった後、騎士の二人が途中で引き返し、隠れて野盗の後を追ったのでアジトの場所を簡単に見つけることが出来たのだ。
婚約者を狙われた王子殿下は激怒し、野盗の討伐に王宮の騎士団まで派遣してくれ、あっさり野盗を捕らえることが出来た。その後、野盗を雇った黒幕も捕らえられ、犯人は王子殿下の婚約者候補であった侯爵令嬢と父の侯爵だったことが判明した。
しかし、犯人は見つかったものの、マリアは行方不明のままだった。
雇われた農民たちは逮捕されたが、すでにマリアが逃げ出した後で見つけることが出来なかったのだ。
あまりにも見つからないので、攫われる途中で野盗や農民に殺されたのではないかと言い出す者や、奴隷として売られてしまったのではないかと疑う者も出始める。
クレアお嬢様の命の恩人であるマリアをベインズ公爵家は必死になって探すがなかなか見つからず、悲しむ婚約者を見た王子殿下も、王宮騎士団を使って捜索するが手がかりすら見つからなかった。
ケイヒル卿やダレルは、仕事が休みの日に捜索隊に加わって活動するが何の情報も得られず、そのまま時間だけが過ぎていき、気付くと三ヶ月が経過していた。
※いつも読んでくださってありがとうございます。
短編の予定でしたが、字数が予想以上に増えてしまったので長編に変更します。
これからもよろしくお願いします。
攫われたお嬢様が農民に捕らえられているだなんて普通は思わないわ。クレアお嬢様を狙った犯人はよく考えている……
小屋の中には月の光が差し込み、高い場所に窓があることに気付いた。
あの高さなら木の箱を積み重ねて登って窓から脱出できる! その前に、小屋の外に見張りがいるのかを確認してみようかしら。
マリアはドアを何回かノックしてみることにした。もしドアの外に見張りがいれば声を掛けてくるはず。誰かいたら具合が悪いとか適当なことを言って誤魔化せばいい。しかし誰もいないのか、何度ドアをノックしても外はシーンとしている。
見張りもいないなんて、あの農民達は本当に適当なのね。逃げるなら今日しかないわ!
マリアは小屋の中に置いてあった汚らしい農民の服に着替えた。クレアお嬢様の高級ドレスは、胸が痛んだが捨てていくしかない。藁の下に隠しておけばしばらくは見つからないだろう。
そして月明かりの中、窓から外に脱出した。思った以上に高くて、窓から飛び降りるような形になってしまったが、田舎で木登りをして遊んで育ったマリアには大したことはなかった。
しかし、それからが大変だった。逃げ出したのはいいが、ここでは誰にも助けを求められないことに気付いてしまったから。道ゆく人に助けを求めても、あの農民達の知り合いや仲間である可能性がある。
今は辛いけど、ここから遠く離れた場所まで隠れながら移動するしかないわね。
ここがどこなのか分からないけど、とりあえずこの場から離れよう。
◇◇
その頃、王都では……
「マリア……、すぐに助けに行くから待っていて!
神様、どうかマリアをお守り下さい」
「お嬢様、マリアならきっと大丈夫ですわ。あの子を信じて待ちましょう」
クレアお嬢様やマリアの同僚のメイド達は、マリアが無事に帰ってくることを祈るしか出来なかった。
悲しむお嬢様とメイド達を悲痛な目で見ていたのはケイヒル卿とダレルだ。二人は口には出さないが、野盗の討伐のメンバーに入ってすぐにでもマリアを助けに行きたいと思っていた。しかし、二人ともお嬢様の護衛騎士で側を離れることは許されない。
公爵家の護衛は手練れの騎士ばかりだが、何百いるのか分からないくらいの人数で囲まれ、荒々しくメチャクチャな戦いをする野盗を数人同時に相手にするのは非常に厄介だった。どちらが勝つのかがわからない戦いだったのだ。
ケイヒル卿はマリアを置いていくなんてしたくはなかった。しかし、優先されるのはお嬢様であってメイドのマリアではない。無力な自分が悔しくて悲しくて、騎士としてこんな気持ちになるのは初めてだった。
そしてダレルは、マリアの外見を見て勝手に毛嫌いして辛く当たったことを後悔していた。自分に擦り寄ってくる平民女達を見てきて、美しくてモテる女にまともな人間はいないと思い込んでいたからだ。
あの日、マリアが囮になってくれたから自分たち騎士も助けられた。野盗相手に怯まずに声を上げるマリアは凛として美しく、お嬢様を守りたいという強い意志は、その場にいた騎士達全員に伝わっていただろう。
ダレルは、そんなマリアになんてことをしたのだろうと自責の念に駆られていたのだ。
公爵令嬢を襲った野盗の討伐の準備は極秘に行われていた。
マリアが囮になった後、騎士の二人が途中で引き返し、隠れて野盗の後を追ったのでアジトの場所を簡単に見つけることが出来たのだ。
婚約者を狙われた王子殿下は激怒し、野盗の討伐に王宮の騎士団まで派遣してくれ、あっさり野盗を捕らえることが出来た。その後、野盗を雇った黒幕も捕らえられ、犯人は王子殿下の婚約者候補であった侯爵令嬢と父の侯爵だったことが判明した。
しかし、犯人は見つかったものの、マリアは行方不明のままだった。
雇われた農民たちは逮捕されたが、すでにマリアが逃げ出した後で見つけることが出来なかったのだ。
あまりにも見つからないので、攫われる途中で野盗や農民に殺されたのではないかと言い出す者や、奴隷として売られてしまったのではないかと疑う者も出始める。
クレアお嬢様の命の恩人であるマリアをベインズ公爵家は必死になって探すがなかなか見つからず、悲しむ婚約者を見た王子殿下も、王宮騎士団を使って捜索するが手がかりすら見つからなかった。
ケイヒル卿やダレルは、仕事が休みの日に捜索隊に加わって活動するが何の情報も得られず、そのまま時間だけが過ぎていき、気付くと三ヶ月が経過していた。
※いつも読んでくださってありがとうございます。
短編の予定でしたが、字数が予想以上に増えてしまったので長編に変更します。
これからもよろしくお願いします。
応援ありがとうございます!
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