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23 美形の笑顔

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「マリア、そんなに憂鬱そうな顔をしないでよ。
 食事をしたらすぐに帰れるから、少しだけ付き合って。美味しい物を食べられるのだからいいだろう? みんなマリアが来るのを楽しみにしているんだよ。
 今度の休みにマリアの好きな焼き菓子を沢山買ってあげるから、今日だけは我慢して」

「アンさん、私は食事が終わったら長居しないですぐに帰りますからね!」

「分かったよー」

 今夜は公爵家の使用人仲間で夕食会をやるらしく、アンに参加を頼まれたこともあって、マリアも行くことになってしまった。
 夕食会と言っても、男性使用人との交流会みたいなものだと聞いたマリアは行くのが憂鬱でしかない。
 テッドに捨てられて数ヶ月経っていたが、未だに男性と関わる気は起きず、今は恋愛するよりも公爵家で必死に働いて貯金を沢山増やしていきたいという考えの方が強かったのだ。
 何より、食事会なんてしなくても寮の食事が美味しいのだから、わざわざ着飾ってまで外に食事に行く必要性を感じなかった。

 ちなみに今日のマリアのファッションは、髪飾りやワンピース、靴にバッグまで全てアンが選んでくれたものだ。
 淡いピンクのワンピースにグレーの靴とバッグを合わせ、マリアの綺麗なふわふわの金髪は、緩くハーフアップにして清楚な雰囲気に仕上がっている。
 今のマリアは、王都に出てきた時とは全くの別人のようになっていた。
 しかし自分の姿を毎日鏡で見ているマリアは、自分が激変したことに気付いていなかった。前よりマシになった気はするけど、元々王都に住んでいた人たちと比べるとまだまだ駄目だと感じている。
 相変わらず、マリアは自分に自信が持てなかった。
 そんなマリアに自信を持って欲しいと考えていたアンは、マリアにステキな恋でもしてもらい、自分に自信を持てるようになって欲しいと、今日の食事会に連れてきたのだ。

 食事会をする店は貸し切りになっていて、公爵家の使用人達でとても賑わっている。
 そんな中、アンは男女問わず知り合いが沢山いるようで、色々な人から話しかけられていた。
 その時には必ず、隣にいるマリアを紹介してくれたので、知らない人ばかりであってもマリアは何の不便も感じなかった。
 そんな時、見覚えのある人たちが店に入ってくる。
 その人達を見てマリアは早く帰りたいと思ってしまった。なぜなら、それは公爵家の騎士達だったからである。

 貴族のケイヒル様もこんな食事会に来るなんて。
 それにケイヒル様と一緒にいる騎士は、私がベンチを振り回していた時にいた護衛騎士に似ている気がする……

 何だか気まずい気持ちになるが、そんなマリアに関係なく、ケイヒル卿がわざわざ声を掛けに来てくれた。

「マリアさん、この前は何も知らずに出過ぎたことをして悪かった。
 あの後、大丈夫だったか?」

 シャーロットとレイチェルに絡まれていたことを心配して駆けつけてくれたのに、あの時の自分は酷い態度を取ってしまった。
 それなのに、ケイヒル様の方が謝罪をしてくれている。彼は平民である自分とは違って、身分が高い方なのに。
 自分を裏切った元恋人のテッドのこともあって、騎士は絶対に信じられないと思っていたけど、ケイヒル様はあのテッドとは違う気がする。

「ケイヒル様、悪いのは私の方です。
 あの時は心に余裕がなく、心配して来て下さったケイヒル様に対して無礼な態度を取ってしまいました。
 私の方こそ謝罪をさせてください。大変申し訳ありませんでした。
 メイド長やお嬢様のおかげで、私は仕事を続けられることになりました。色々とご心配をおかけしました」

 ケイヒル卿の表情が柔らかくなる。ケイヒル卿なりに、ずっとあの日のことを気にしていたのだ。

 あの日、マリアに突き放されるような態度を取られて悩んでいたケイヒル卿は、同僚の騎士から女同士のトラブルに男が直接口を出すのは良くないと言われて、少しだけヘコんでいた。

 ケイヒル卿は、女性から言い寄られることは沢山あったが、ギラギラした目と香水のきつい匂いをさせて媚を売ってくる令嬢達にうんざりしていた。
 そのこともあり、女性とは関わらないようにして、出来るだけ距離を置いていたのだ。
 そのため、女性をどのように扱うべきなのかをあまりよく知らず、マリアが令嬢に絡まれて困っていると聞いた時につい突っ走ってしまった。
 マリアを気に入っているクレアお嬢様に打ち明けたら、すぐに対応してくれたから良かったのだが。

「いや……、私も悪かったんだ。
 だから君は気にしないでくれ。これからも君と同じ職場で働けることを嬉しく思うよ」

「……は、はい。これからもよろしくお願い致します」

 ケイヒル卿はマリアとの会話を嬉しく思うあまり、美形男子特有の眩し過ぎる笑顔を向けてくる。
 その笑顔の力は凄まじく、その場にいたマリアやアン、他の女性達までもが赤面して固まってしまうほどだった。
 


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