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21 閑話 テッド
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何時間も歩き続けて、やっと実家に到着した時は日が暮れていた。
「ドーリィー、やっと着いたよ。古くて小さいが、ここが私の実家だ。
すぐに両親に紹介するからな」
「……ええ」
この時間なら、両親は畑仕事を終えて家に帰ってきているはずだ。ドリスは疲れ切って不機嫌だが、気さくで話好きな両親に会えば、きっとすぐに機嫌を直してくれるだろうとテッドは期待していた。
しかし、いつもなら居るはずの両親はまだ帰っていないらしく、家にいたのは弟と幼い妹だけだった。
「兄ちゃん? 帰ってきたの?」
「わー! お兄ちゃん、お帰りなさい。
あれ? そのお姉ちゃんは誰?」
久しぶりに会う弟のトムと妹のリリーは、兄が帰って来たことを純粋に喜んでくれているようだった。
しかし、後ろにいたドリスに気付いた瞬間、二人の表情が強張る。
「ただいま! 二人とも良い子にしていたか?
こちらは兄ちゃんの大切な人なんだ」
「ドリスよ。よろしくね。
二人ともとても可愛いわぁ! 仲良くしましょうね」
ドリスは得意のあざとい笑顔で、トムとリリーに挨拶をするのだが……
「「……」」
可愛いドリスが笑顔を向ければ、誰だって微笑み返してくれるはずなのに、二人は無言で固まってしまう。
少しの沈黙の後、リリーがやっと動き出す。
「……リリーは、お父ちゃんとお母ちゃんを呼んでくる!」
バタバタと家から飛び出してしまったリリー。そして残されたトムは、ドリスをジッと見つめている。
「兄ちゃん、この人が兄ちゃんの新しい恋人なの?」
「そうなんだ。いずれは結婚しようと思っているから、仲良くしてくれよ」
可愛いドリスにトムも興味を持つんだなぁと、テッドは能天気に感じていたのだが、トムの表情は見る見る険しくなり、テッドとドリスを睨みつけていた。
「嫌だね! 俺は……、兄ちゃんがマリア姉ちゃんを捨てたって聞いたけど、兄ちゃんを信じてずっと待っていたんだ!
あんなにマリア姉ちゃんを大切にしていたし、結婚の約束までしていたから、絶対に嘘だって……」
「トム! ドーリィーになんて酷い態度を取るんだ?
マリアとは終わったんだ。今はドーリィーと真剣に付き合っているから、みんなに紹介したくて来てもらったんだぞ!
ドーリィー、弟がすまない……」
「い、いいのよ。初対面でいきなり仲良くするなんて難しいわよね」
ドリスは不機嫌なトムに優しく声を掛けているが、目は笑ってないし、笑顔は引き攣っていた。
そんなドリスに関係なく、素直で真っ直ぐな性格のトムは二人に怒りをぶつけてくる。
「兄ちゃんがマリア姉ちゃんを捨てたから、マリア姉ちゃんはこの村から居なくなってしまったって聞いて、俺は悲しかった。マリア姉ちゃんが好きだったから……
村のみんなが噂しているんだ。兄ちゃんは、王都に行って人が変わってしまったんだって。
だからマリア姉ちゃんみたいな優しい恋人を捨てたんだって!
父ちゃんも母ちゃんも、そのせいで肩身の狭い思いをしているんだ。
畑仕事だって、今まではマリア姉ちゃん家の人とその親戚の人が手伝ってくれたから早く終わっていたのに……、今は手伝ってくれなくなったから、父ちゃんと母ちゃんが二人で朝早くから暗くなるまで、休みなく働いているんだぜ!
リリーだって、今まで仲良くしていたアンネと遊ぶことが出来なくなって、ずっと家で一人でいるんだぞ!
全部兄ちゃんのせいだ!
兄ちゃんなんて……大嫌いだ!」
トムは、勢いよくドアを開けて外へ出て行ってしまった。
マリアとテッドの育った村では、収穫の最盛期や種まきなどの忙しい時期は、知り合いや親族などと協力しながら農作業をするのが当たり前だった。
だが、テッドの祖父母や両親は兄妹が少なかったこともあって親族は少なかった。
そんな時、手を差し伸べてくれたのがマリアの家だった。親戚の多いマリアの両親は、家が近いからと善意で手伝ってくれていたのだ。
そして二人が付き合い始めた後は、マリアとテッドは結婚するのだから、もう親戚みたいなものだと言ってくれた。
働き者のマリアとマリアの兄と両親、更にはその従兄弟たちまでが、忙しいと聞けばテッドの両親の手伝いに来てくれていたのである。
最近はそれが当たり前になっていたので、テッドは何も気付いていなかった。
そして、リリーはマリアの妹のアンネと年が近くて仲が良かった。家族が農作業で忙しくしている時は、二人で留守番をしながら楽しく遊んで過ごしていたのだ。
しかし、テッドには別に好きな人が出来たから別れることになったとマリアから手紙が届いた後、マリアとテッドの家族の関係性も変わってしまった。
愛するテッドのことを信じ、一途に待ち続けていたマリアを見ていた家族や親族、そして村の人達は、テッドからの連絡が途絶えたことを心配して、王都行きを決めたマリアのことを応援して送り出していた。
そのこともあって、王都に向かったマリアからテッドの心変わりを知らされた時の怒りは大きかったのである。
「ドーリィー、やっと着いたよ。古くて小さいが、ここが私の実家だ。
すぐに両親に紹介するからな」
「……ええ」
この時間なら、両親は畑仕事を終えて家に帰ってきているはずだ。ドリスは疲れ切って不機嫌だが、気さくで話好きな両親に会えば、きっとすぐに機嫌を直してくれるだろうとテッドは期待していた。
しかし、いつもなら居るはずの両親はまだ帰っていないらしく、家にいたのは弟と幼い妹だけだった。
「兄ちゃん? 帰ってきたの?」
「わー! お兄ちゃん、お帰りなさい。
あれ? そのお姉ちゃんは誰?」
久しぶりに会う弟のトムと妹のリリーは、兄が帰って来たことを純粋に喜んでくれているようだった。
しかし、後ろにいたドリスに気付いた瞬間、二人の表情が強張る。
「ただいま! 二人とも良い子にしていたか?
こちらは兄ちゃんの大切な人なんだ」
「ドリスよ。よろしくね。
二人ともとても可愛いわぁ! 仲良くしましょうね」
ドリスは得意のあざとい笑顔で、トムとリリーに挨拶をするのだが……
「「……」」
可愛いドリスが笑顔を向ければ、誰だって微笑み返してくれるはずなのに、二人は無言で固まってしまう。
少しの沈黙の後、リリーがやっと動き出す。
「……リリーは、お父ちゃんとお母ちゃんを呼んでくる!」
バタバタと家から飛び出してしまったリリー。そして残されたトムは、ドリスをジッと見つめている。
「兄ちゃん、この人が兄ちゃんの新しい恋人なの?」
「そうなんだ。いずれは結婚しようと思っているから、仲良くしてくれよ」
可愛いドリスにトムも興味を持つんだなぁと、テッドは能天気に感じていたのだが、トムの表情は見る見る険しくなり、テッドとドリスを睨みつけていた。
「嫌だね! 俺は……、兄ちゃんがマリア姉ちゃんを捨てたって聞いたけど、兄ちゃんを信じてずっと待っていたんだ!
あんなにマリア姉ちゃんを大切にしていたし、結婚の約束までしていたから、絶対に嘘だって……」
「トム! ドーリィーになんて酷い態度を取るんだ?
マリアとは終わったんだ。今はドーリィーと真剣に付き合っているから、みんなに紹介したくて来てもらったんだぞ!
ドーリィー、弟がすまない……」
「い、いいのよ。初対面でいきなり仲良くするなんて難しいわよね」
ドリスは不機嫌なトムに優しく声を掛けているが、目は笑ってないし、笑顔は引き攣っていた。
そんなドリスに関係なく、素直で真っ直ぐな性格のトムは二人に怒りをぶつけてくる。
「兄ちゃんがマリア姉ちゃんを捨てたから、マリア姉ちゃんはこの村から居なくなってしまったって聞いて、俺は悲しかった。マリア姉ちゃんが好きだったから……
村のみんなが噂しているんだ。兄ちゃんは、王都に行って人が変わってしまったんだって。
だからマリア姉ちゃんみたいな優しい恋人を捨てたんだって!
父ちゃんも母ちゃんも、そのせいで肩身の狭い思いをしているんだ。
畑仕事だって、今まではマリア姉ちゃん家の人とその親戚の人が手伝ってくれたから早く終わっていたのに……、今は手伝ってくれなくなったから、父ちゃんと母ちゃんが二人で朝早くから暗くなるまで、休みなく働いているんだぜ!
リリーだって、今まで仲良くしていたアンネと遊ぶことが出来なくなって、ずっと家で一人でいるんだぞ!
全部兄ちゃんのせいだ!
兄ちゃんなんて……大嫌いだ!」
トムは、勢いよくドアを開けて外へ出て行ってしまった。
マリアとテッドの育った村では、収穫の最盛期や種まきなどの忙しい時期は、知り合いや親族などと協力しながら農作業をするのが当たり前だった。
だが、テッドの祖父母や両親は兄妹が少なかったこともあって親族は少なかった。
そんな時、手を差し伸べてくれたのがマリアの家だった。親戚の多いマリアの両親は、家が近いからと善意で手伝ってくれていたのだ。
そして二人が付き合い始めた後は、マリアとテッドは結婚するのだから、もう親戚みたいなものだと言ってくれた。
働き者のマリアとマリアの兄と両親、更にはその従兄弟たちまでが、忙しいと聞けばテッドの両親の手伝いに来てくれていたのである。
最近はそれが当たり前になっていたので、テッドは何も気付いていなかった。
そして、リリーはマリアの妹のアンネと年が近くて仲が良かった。家族が農作業で忙しくしている時は、二人で留守番をしながら楽しく遊んで過ごしていたのだ。
しかし、テッドには別に好きな人が出来たから別れることになったとマリアから手紙が届いた後、マリアとテッドの家族の関係性も変わってしまった。
愛するテッドのことを信じ、一途に待ち続けていたマリアを見ていた家族や親族、そして村の人達は、テッドからの連絡が途絶えたことを心配して、王都行きを決めたマリアのことを応援して送り出していた。
そのこともあって、王都に向かったマリアからテッドの心変わりを知らされた時の怒りは大きかったのである。
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