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20 閑話 テッド

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 テッドは数ヶ月ぶりに連休を取って、自分の実家に帰ることにした。
 ずっと実家には帰っていなかったので、両親や幼い兄妹達の顔を見たかったし、何よりも結婚の約束をした可愛いドリスを家族に紹介したかったからだ。

 実家の最寄り駅に到着し列車を降りる。ここからテッドの実家のある村に行くには三時間かけて歩くか、荷馬車に乗せてもらうしかないのだが……

「テッド、空気が綺麗な町ね。
 何時間も列車に座りっぱなしだったから疲れてしまったわ。
 近くにゆっくり座ってお茶が出来るようなカフェはないのかしら? 喉が渇いたし、小腹も空いたから何かスイーツが食べたいわね。この町は何が美味しいの?」

 都会育ちのドリスは、田舎のことを何も知っていなかった。そんなドリスを見て、テッドは気不味い気持ちになる。
 王都には素敵なカフェやレストランは当たり前のように沢山あるが、この田舎町にはそんな所はなく、大衆向けの食堂が何軒かあるくらいだ。それに、〝スイーツ〟だなんて言えるようなお洒落な食べ物を出す店はなかった。
 だが、それでもまだマシな方だった。この町には小さいながらも列車の駅があり、駅前には食堂や宿屋が数軒あって、郵便局や銀行にちょっとした商店もあるのだから。
 しかし、ここから更に徒歩で三時間もかかるテッドやマリアの育った村には、食料品を扱う小さな商店があるだけで他に店などない。普段、ドリスが好んで行っているような、お洒落で美味しい店などはあるわけがないのだ。

「ドーリィー。この駅から私の実家の村まで、沢山時間が掛かるから、ここでゆっくり休む余裕はないんだ。
 すまないな……。飲み物は近くの店で買ってやるから行こうか」

「……そうなの? それなら我慢するわね。
 ねぇ、馬車乗り場はどこ?」

 王都のちょっとした商家の生まれであるドリスは、田舎の農民であるテッドと同じ平民であっても、全く違う生活レベルで生きてきた。だから、長時間の移動は馬車が当たり前だったのだ。
 ドリスに馬車のことを聞かれたテッドは、更に気不味い気持ちになっていた。

「この町に馬車乗り場はないから、ここからは歩いて行くしかないんだ。
 来る前にも話しただろう? 田舎で何もないから、色々と不便だって。それでも来たいってドーリィーは言ってくれたから、私は嬉しかったんだが。
 途中で荷馬車を見かけたら乗せてもらえるかもしれないし、疲れて歩けない時は私がおんぶするから大丈夫だ」

「…………」

「……ドーリィー?」

「分かったわ……」

 ドリスの声のトーンが低くなっていたことにテッドは気づいていたが、そのまま流すことにした。

 しかし、途中で荷馬車を見ることはなく、歩き慣れていないドリスに合わせてゆっくり歩いたため、予定の三時間よりも多く時間が掛かってしまった。
 テッドは途中からドリスをおんぶして歩いていたが、それでもドリスは疲れて不機嫌になってしまい、二人の間には会話すらなくなってしまった。

「ドーリィー、あと少しで着くからな」

「…………」

 ドリスは返事すらしてくれなくなっていた。
 それから15分くらい経った頃……

「テッドー! もしかして、あの可愛らしい家がテッドの実家かしら?
 ドールハウスみたいで可愛いわ! 他の家は地味でボロだったけど、あの家は白いレンガの壁に青い屋根が目をひいて、とてもお洒落ね」

 ドリスをおんぶして歩いていたテッドは非常に疲れていて、下を向いて歩いていた。だから、ドリスから可愛い家があると言われるまで気が付かなかったのだが……
 テッドは信じられなかった。数ヶ月前に実家に帰って来た時は、あんなに新しい家はなかったのだから。

 おかしい……。あの場所にはマリアの実家があったはずで、あんな青い屋根の洒落た家なんてなかったはず。

「残念ながらあの家は私の家じゃないんだ。
 でも、あと少しで着くからな。
 そうか、ドーリィーはあんな家がいいのか……」

「……何を言っているの?
 あの家は可愛いとは思うけど、私はもっと豪華で大きな家に住みたいの。使用人を雇うことを考えたら、あの家では小さすぎるわ!
 だからテッドは早く貴族の護衛騎士になれるように頑張ってね。上手くいけば、貴族に気に入られて一代限りの騎士の爵位をもらえることもあるみたいよ」

「……頑張るよ」

 その時のテッドは、前にマリアから言われた言葉を思い出していた。

『私はテッドが騎士になれなかったとしても、特に気にしないわ。
 二人で頑張って働けば、贅沢は出来なくても何とか生活は出来るでしょう?
 私はテッドと一緒なら、それだけで幸せなのよ』

 マリアの実家の近くを歩いているから思い出したのかもしれない。だが、もうマリアとは終わったのだ。
 自分から彼女を捨てたのだから……
 それよりも、早くドーリィーを両親に紹介しないといけない。
 テッドは、実家まであと少しの道のりを頑張って歩くことにした。
 
 
 
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