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16 面倒な絡み
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「君……、次の休みはいつ?
良かったら、私と一緒に食事にでも行かないか?」
「……食事は寮で食べることにしているので大丈夫です。お心遣いに感謝致します。
寮の食事はとても美味しいので、毎日楽しみにしているんですよ」
マリアは声を掛けてきた公爵家の従者らしき男に引き攣った笑顔を向けた後、すぐに掃除の仕事を再開する。
私は今、非常に忙しいからアンタと話す暇はないのよとでも言いたげに。
洗濯場にいた時は、洗濯場の使用人しか顔を合わせなかったのに、掃除婦となって邸内を掃除するようになると、下働きとはいえ、色々な人と顔を合わせるようになっていた。
大きくて広すぎる公爵家で働く人は沢山いて、出入りする人も沢山いる。特に男性の使用人は多くいて、マリアのような下働きだけでなく、従者や秘書官、警備の騎士など、色々な職種の人がいて顔を覚えられないくらいだった。
そして、その公爵家で働いている男性達から、仕事中に話しかけられることが多くあり、マリアは非常に困っていた。
私が田舎者の芋娘だからって揶揄っているのね。
そして私が本気になったら、テッドみたいに簡単に捨てるんでしょ? 私はもう騙されない!
テッドのことは気が付いたらすでに吹っ切れていたが、あの事がきっかけで、マリアは未だに男性が信じられなくなっていた。
仕事中に男と話をしている所を見られたら、他の人にどう思われるか分からない。
怖い貴族令嬢たちに目をつけられたくないから、イメージが悪くなるようなことはしたくないのに、一人で掃除をしていると、通りすがりの男性使用人から話しかけられることが多く、マリアはうんざりしていた。
一人で黙々と掃除をすることは好きなのに、横から話しかけられると仕事の邪魔をされているような気もして本当に嫌だったのだ。
そして、そんなマリアの不安は的中することになる。
ある日、邸の通路の窓拭きをしていた時だった……
「ちょっと、貴女!」
高圧的な声が聞こえてくる。窓を拭く手を止めて声の主の方を見ると、『私は貴族ですわよ』と言葉にしなくても雰囲気だけで伝わってくるような、気の強そうな令嬢が立っていた。
一応メイド服は着ていたが、平民とは全然が違ったオーラがあったので、アンが言っていた行儀見習いの貴族令嬢であることに、すぐに気付くことが出来た。
「はい。お呼びでしょうか?」
「男漁りにきていると噂になっているはしたない平民の使用人というのは貴女ね? この公爵家に出入りしている貴族の愛人の座でも狙っているのかしら?
ちょっと人よりマシな容姿だからと調子に乗らないことね。
仕事を真面目に出来ないなら、早く辞めなさい」
分かりやすく文句を言って来た令嬢を見て、マリアは呆れて言葉を失っていた。
これってただのイビリだよね……
自分から男性に話しかけたことなんてほとんどないのに、この令嬢の中で私は男漁りに来ている人に見えているなんて、頭と目が絶対におかしいよ。
こういう理不尽な絡みをしてくるから、アンさんはあそこまでボロクソ言っていたのね。今なら納得だわ。
「…………」
「ちょっとぉー! 黙っているけど、返事も出来ないのかしら?
礼儀も分からない平民は本当に困ったわ。なんで貴女みたいな見た目しか取り柄のない平民女を雇ったのかしら? もしかして、既に誰かの愛人でその人のコネでここで働くことが出来たとか?
正直に言いなさい! 貴女は誰のコネでここに来たの?」
偶然ここのお嬢様と出会って助けたら、公爵家で働くようにと勧誘されただけであって、コネなんてあるわけはないのだが。
この我儘そうな令嬢が信じてくれるか分からないが、マリアは正直に話すことにした。
「お嬢様と偶然お会いする機会がありまして、私が仕事を探していることを知ったお嬢様が、こちらで働けるようにと配慮して下さったのです」
正直に説明したつもりだったが、令嬢はそんなマリアの話を聞いて激高する。
「はあ? 貴女みたいな平民とお嬢様がどこでお会いするっていうのよ? 子供だってもっとマシな嘘をつくわよ!
平民風情が貴族に嘘をつくなんて……
貴女はここにいる資格なんてないわ。今すぐ出て行きなさい!」
「……はい?」
この令嬢に仕事をクビに出来る権限があるようには見えないが、ここまで自信満々に言われてしまうと……
良かったら、私と一緒に食事にでも行かないか?」
「……食事は寮で食べることにしているので大丈夫です。お心遣いに感謝致します。
寮の食事はとても美味しいので、毎日楽しみにしているんですよ」
マリアは声を掛けてきた公爵家の従者らしき男に引き攣った笑顔を向けた後、すぐに掃除の仕事を再開する。
私は今、非常に忙しいからアンタと話す暇はないのよとでも言いたげに。
洗濯場にいた時は、洗濯場の使用人しか顔を合わせなかったのに、掃除婦となって邸内を掃除するようになると、下働きとはいえ、色々な人と顔を合わせるようになっていた。
大きくて広すぎる公爵家で働く人は沢山いて、出入りする人も沢山いる。特に男性の使用人は多くいて、マリアのような下働きだけでなく、従者や秘書官、警備の騎士など、色々な職種の人がいて顔を覚えられないくらいだった。
そして、その公爵家で働いている男性達から、仕事中に話しかけられることが多くあり、マリアは非常に困っていた。
私が田舎者の芋娘だからって揶揄っているのね。
そして私が本気になったら、テッドみたいに簡単に捨てるんでしょ? 私はもう騙されない!
テッドのことは気が付いたらすでに吹っ切れていたが、あの事がきっかけで、マリアは未だに男性が信じられなくなっていた。
仕事中に男と話をしている所を見られたら、他の人にどう思われるか分からない。
怖い貴族令嬢たちに目をつけられたくないから、イメージが悪くなるようなことはしたくないのに、一人で掃除をしていると、通りすがりの男性使用人から話しかけられることが多く、マリアはうんざりしていた。
一人で黙々と掃除をすることは好きなのに、横から話しかけられると仕事の邪魔をされているような気もして本当に嫌だったのだ。
そして、そんなマリアの不安は的中することになる。
ある日、邸の通路の窓拭きをしていた時だった……
「ちょっと、貴女!」
高圧的な声が聞こえてくる。窓を拭く手を止めて声の主の方を見ると、『私は貴族ですわよ』と言葉にしなくても雰囲気だけで伝わってくるような、気の強そうな令嬢が立っていた。
一応メイド服は着ていたが、平民とは全然が違ったオーラがあったので、アンが言っていた行儀見習いの貴族令嬢であることに、すぐに気付くことが出来た。
「はい。お呼びでしょうか?」
「男漁りにきていると噂になっているはしたない平民の使用人というのは貴女ね? この公爵家に出入りしている貴族の愛人の座でも狙っているのかしら?
ちょっと人よりマシな容姿だからと調子に乗らないことね。
仕事を真面目に出来ないなら、早く辞めなさい」
分かりやすく文句を言って来た令嬢を見て、マリアは呆れて言葉を失っていた。
これってただのイビリだよね……
自分から男性に話しかけたことなんてほとんどないのに、この令嬢の中で私は男漁りに来ている人に見えているなんて、頭と目が絶対におかしいよ。
こういう理不尽な絡みをしてくるから、アンさんはあそこまでボロクソ言っていたのね。今なら納得だわ。
「…………」
「ちょっとぉー! 黙っているけど、返事も出来ないのかしら?
礼儀も分からない平民は本当に困ったわ。なんで貴女みたいな見た目しか取り柄のない平民女を雇ったのかしら? もしかして、既に誰かの愛人でその人のコネでここで働くことが出来たとか?
正直に言いなさい! 貴女は誰のコネでここに来たの?」
偶然ここのお嬢様と出会って助けたら、公爵家で働くようにと勧誘されただけであって、コネなんてあるわけはないのだが。
この我儘そうな令嬢が信じてくれるか分からないが、マリアは正直に話すことにした。
「お嬢様と偶然お会いする機会がありまして、私が仕事を探していることを知ったお嬢様が、こちらで働けるようにと配慮して下さったのです」
正直に説明したつもりだったが、令嬢はそんなマリアの話を聞いて激高する。
「はあ? 貴女みたいな平民とお嬢様がどこでお会いするっていうのよ? 子供だってもっとマシな嘘をつくわよ!
平民風情が貴族に嘘をつくなんて……
貴女はここにいる資格なんてないわ。今すぐ出て行きなさい!」
「……はい?」
この令嬢に仕事をクビに出来る権限があるようには見えないが、ここまで自信満々に言われてしまうと……
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