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14 閑話 テッド
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「別に好きな人が出来たなら、ちゃんと正直に話して欲しかった。幼馴染でずっと一緒だったから、テッドの幸せは願いたかったのに……
テッドの……、バカー!」
初恋の女の子は、見たことのない悲痛そうな表情を浮かべた後、バスケットを自分の方に投げつけて走り去ってしまった。
「……痛い」
心が痛むのか、バスケットが体に当たったことが痛いのか、それとも周りからの刺すような視線が痛いのか……?
ただ言えることは、自分の今の気持ちが最悪だということ。
「テッドってば、大丈夫? 力強くバスケットを投げてくるなんて、さっきの女の子は乱暴なのね。
ふふっ……、あんな子とは別れて正解よ。
それよりもお腹空いたわぁ。早く行きましょう。今日は人気のレストランに連れて行ってくれるんでしょう? 私、そのために新しいワンピースを着てきたのよ!」
「ああ……
ドーリィー。そのワンピース似合っているよ。
そろそろ行こうか」
テッドは落ちたバスケットに後ろ髪を引かれる気がしたが、何事もなかったかのようにその場から離れた。
◇◇
幼馴染のマリアとは、小さな頃から側にいることが当たり前になっていた。
騎士になりたいというテッドのことを一番理解してくれて、いつも応援し、励まし続けてくれたのがマリアだ。
落ち込んだ時や辛い時、眩しい笑顔で元気付けてくれたことは数え切れないほどある。
そんなマリアをテッドが好きになるのは当然のことだった。
マリアはクルクルの天然パーマが嫌だとか、くすんだ色の金髪を何とかしたいとかよく口にしていたが、それが可愛いって言っている男がいたことにテッドは気付いていた。
化粧っ気のない日焼けした顔は、よく見ると綺麗に整っていて、そんなマリアに熱のこもった視線を向ける男がいたことも知っている。
愛嬌があって、いつも元気で働き者。扱いの難しい偏屈な年寄りとも上手くやってくれるマリアを、息子の嫁に欲しいと言っている村のオヤジさん達がいることにも気付いていた。
だから……、誰かに取られる前に自分の物にしたいと考えたテッドは思い切って告白した。
恋人同士になれたことが嬉しくて、マリアの両親だけでなく自分の両親にも交際を認めてもらえるように、テッドは必死になって根回しをした。
交際はずっと順調だった。それが変わったのは、テッドが王都に来てからだ。
貧しい田舎の農村出身ということで、王都出身者ばかりの騎士団ではバカにされることもあったが、悔しさをバネに必死に頑張ってきた。
その甲斐あって、普通なら見習い騎士から正騎士になるまでに一年から二年かかるところを、テッドは半年という短い期間で成し遂げることが出来た。
すると、周囲の人の自分を見る目が変わったことに気がついた。
同期で散々テッドのことを田舎者だと馬鹿にしてきた者は何も言ってこなくなったし、騎士団のお偉いさん達からは気をかけてもらえるようになっていた。
そして一番露骨だったのは……
「あのっ! いつも騎士団で頑張っているところを見ていました。
よかったら読んで下さい!」
「……ちょっと、君!」
見知らぬ女の子達から手紙をもらったり、告白されたりすることが多くなったのだ。
しかし、テッドにはマリアという大切な人がいたから相手にするつもりなんて全くなかった。
だが、そんな真面目なテッドは同僚の騎士達からは、冷やかしの対象になっていた。
「テッド。お前、せっかく正騎士になったんだから、女の子くらい上手く相手にしてやれよ」
「そうだぞ! まさか……、剣は得意だけど、あっちの方は全然ダメなのか?」
「騎士は女が沢山寄ってくるんだ。少しくらい遊んでも大丈夫だ。遊び方を知らないようじゃ、いつまでも垢抜けないぞ」
せっかく正騎士になったのに、今度は仕事以外のことで馬鹿にされるのかと思った。
もし、自分には田舎に結婚の約束をしている大切な人がいるなんて話したら、きっとコイツらは笑って馬鹿にするだろう。直感的にそう思ったテッドは、余計なことを言うのはやめた。
「可愛い子を連れていれば、男として馬鹿にされないぞー!
田舎者のテッドは分からないかもしれないが、王都には可愛い子が沢山いるからな」
最短で正騎士になり、上官から期待されているテッドは、同僚達から僻みの対象でしかなかった。そして、偶然テッドの近くにいた同僚の騎士達はクズばかりであったのだ。
余裕のなかったテッドは彼らを見返すために、自分に告白してきた中で一番可愛かったドリスと仲良くすることにした。
勿論、テッドにとってマリアが本命で大切な人だ。だから、ドリスに対して本気になるつもりはなかったし、あくまでドリスとは異性の友人として付き合うつもりでいた。
しかし男慣れした可愛いドリスは、テッドよりも一枚も二枚も上手で……
気がつくと、テッドはドリスに落とされていた。
マリアからの手紙を無視し、ドリスとの時間を楽しむテッドは、まさかマリアが自分を心配して騎士団まで会いに来るとは思ってもいなかった。
ドリスだけでなく騎士団の関係者が見ている前で、初恋の相手とはいえ、マリアに謝ったり追い縋ったりすることは自分のプライドが許さなかった。
その結果、マリアとは最悪の形で終わりを迎えてしまったが、もう後戻りは出来ない。
マリアを可愛がっていた両親には怒られるだろうが、田舎娘とは比べ物にならないくらい可愛いドリスを紹介すれば、きっと両親も村の連中も納得するだろう。
早くドリスと結婚出来るように、騎士団で今まで以上に頑張らなければと、テッドは人知れず張り切るのであった。
しかしその数ヶ月後に、人生はそんなに甘くないということをテッドは知ることになる。
テッドの……、バカー!」
初恋の女の子は、見たことのない悲痛そうな表情を浮かべた後、バスケットを自分の方に投げつけて走り去ってしまった。
「……痛い」
心が痛むのか、バスケットが体に当たったことが痛いのか、それとも周りからの刺すような視線が痛いのか……?
ただ言えることは、自分の今の気持ちが最悪だということ。
「テッドってば、大丈夫? 力強くバスケットを投げてくるなんて、さっきの女の子は乱暴なのね。
ふふっ……、あんな子とは別れて正解よ。
それよりもお腹空いたわぁ。早く行きましょう。今日は人気のレストランに連れて行ってくれるんでしょう? 私、そのために新しいワンピースを着てきたのよ!」
「ああ……
ドーリィー。そのワンピース似合っているよ。
そろそろ行こうか」
テッドは落ちたバスケットに後ろ髪を引かれる気がしたが、何事もなかったかのようにその場から離れた。
◇◇
幼馴染のマリアとは、小さな頃から側にいることが当たり前になっていた。
騎士になりたいというテッドのことを一番理解してくれて、いつも応援し、励まし続けてくれたのがマリアだ。
落ち込んだ時や辛い時、眩しい笑顔で元気付けてくれたことは数え切れないほどある。
そんなマリアをテッドが好きになるのは当然のことだった。
マリアはクルクルの天然パーマが嫌だとか、くすんだ色の金髪を何とかしたいとかよく口にしていたが、それが可愛いって言っている男がいたことにテッドは気付いていた。
化粧っ気のない日焼けした顔は、よく見ると綺麗に整っていて、そんなマリアに熱のこもった視線を向ける男がいたことも知っている。
愛嬌があって、いつも元気で働き者。扱いの難しい偏屈な年寄りとも上手くやってくれるマリアを、息子の嫁に欲しいと言っている村のオヤジさん達がいることにも気付いていた。
だから……、誰かに取られる前に自分の物にしたいと考えたテッドは思い切って告白した。
恋人同士になれたことが嬉しくて、マリアの両親だけでなく自分の両親にも交際を認めてもらえるように、テッドは必死になって根回しをした。
交際はずっと順調だった。それが変わったのは、テッドが王都に来てからだ。
貧しい田舎の農村出身ということで、王都出身者ばかりの騎士団ではバカにされることもあったが、悔しさをバネに必死に頑張ってきた。
その甲斐あって、普通なら見習い騎士から正騎士になるまでに一年から二年かかるところを、テッドは半年という短い期間で成し遂げることが出来た。
すると、周囲の人の自分を見る目が変わったことに気がついた。
同期で散々テッドのことを田舎者だと馬鹿にしてきた者は何も言ってこなくなったし、騎士団のお偉いさん達からは気をかけてもらえるようになっていた。
そして一番露骨だったのは……
「あのっ! いつも騎士団で頑張っているところを見ていました。
よかったら読んで下さい!」
「……ちょっと、君!」
見知らぬ女の子達から手紙をもらったり、告白されたりすることが多くなったのだ。
しかし、テッドにはマリアという大切な人がいたから相手にするつもりなんて全くなかった。
だが、そんな真面目なテッドは同僚の騎士達からは、冷やかしの対象になっていた。
「テッド。お前、せっかく正騎士になったんだから、女の子くらい上手く相手にしてやれよ」
「そうだぞ! まさか……、剣は得意だけど、あっちの方は全然ダメなのか?」
「騎士は女が沢山寄ってくるんだ。少しくらい遊んでも大丈夫だ。遊び方を知らないようじゃ、いつまでも垢抜けないぞ」
せっかく正騎士になったのに、今度は仕事以外のことで馬鹿にされるのかと思った。
もし、自分には田舎に結婚の約束をしている大切な人がいるなんて話したら、きっとコイツらは笑って馬鹿にするだろう。直感的にそう思ったテッドは、余計なことを言うのはやめた。
「可愛い子を連れていれば、男として馬鹿にされないぞー!
田舎者のテッドは分からないかもしれないが、王都には可愛い子が沢山いるからな」
最短で正騎士になり、上官から期待されているテッドは、同僚達から僻みの対象でしかなかった。そして、偶然テッドの近くにいた同僚の騎士達はクズばかりであったのだ。
余裕のなかったテッドは彼らを見返すために、自分に告白してきた中で一番可愛かったドリスと仲良くすることにした。
勿論、テッドにとってマリアが本命で大切な人だ。だから、ドリスに対して本気になるつもりはなかったし、あくまでドリスとは異性の友人として付き合うつもりでいた。
しかし男慣れした可愛いドリスは、テッドよりも一枚も二枚も上手で……
気がつくと、テッドはドリスに落とされていた。
マリアからの手紙を無視し、ドリスとの時間を楽しむテッドは、まさかマリアが自分を心配して騎士団まで会いに来るとは思ってもいなかった。
ドリスだけでなく騎士団の関係者が見ている前で、初恋の相手とはいえ、マリアに謝ったり追い縋ったりすることは自分のプライドが許さなかった。
その結果、マリアとは最悪の形で終わりを迎えてしまったが、もう後戻りは出来ない。
マリアを可愛がっていた両親には怒られるだろうが、田舎娘とは比べ物にならないくらい可愛いドリスを紹介すれば、きっと両親も村の連中も納得するだろう。
早くドリスと結婚出来るように、騎士団で今まで以上に頑張らなければと、テッドは人知れず張り切るのであった。
しかしその数ヶ月後に、人生はそんなに甘くないということをテッドは知ることになる。
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