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07 がむしゃら
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今日から公爵家での仕事が始まる。
マリアはアンに連れられて、寮の食堂に朝食を食べに来ていた。
寮の食事はパンの他にスープやサラダ、主菜になる肉や魚、卵にハムなどもあって、マリアの実家よりもかなり豪華で美味しい食事だ。
実家ではパサパサのパンに具の少ないスープがあるくらいで、肉やハムなんて滅多に食べられなかった。食べる機会があったとしても、硬くてゴムのような肉だったり、塩気の強すぎるハムで美味しいとは思えない物だ。
まだ仕事は始まっていないが、こんなに美味しい食事を食べさせてもらえる職場で働けるなんてラッキーだとマリアはほくそ笑む。
美味しくて豪華な食事に感動したマリアは、黙っていられなかった。
「あの……、とても美味しいお食事でした。こんな美味しい食事は生まれて初めて食べました。
ありがとうございました!」
寮の食堂で働く料理人のおじちゃんとおばちゃんに感謝の気持ちを伝えたくなってしまったマリアは、食べ終わった後に声を掛けていた。
片付けをしていた二人は、始めこそ驚いた顔をしていたが、感謝の気持ちを伝えてもらって悪い気はしていなかった。
「ああ……、アンタは新しく入った子だね?
しっかり食べて仕事を頑張ってきな」
「はい! ありがとうございます」
田舎の村で愛嬌だけは褒められていたマリアは、コミュニケーション能力は高い方だった。
そんなマリアを見ていたアンは少し呆れている。
「マリア、食事が美味しく感じたのは良いけど、これはここでは当たり前の食事だよ。
アンタ、もしかして……、実家は貧乏だったの?」
「実はそうなんです。実家は田舎の貧乏な農家で、こんなに美味しい食事とは無縁でした。
ここで自分がどこまで働けるか分からないけど、美味しい食事を食べさせてもらえるなら、それだけで頑張れるような気がします!」
アンは貧乏な田舎者を馬鹿にしたつもりだった。しかし、マリアは恥ずかしがったり怒ったりすることもなく、素直に貧乏を認めていたので拍子抜けしてしまう。
「だからそんなに貧相な体だったのか……
ここの食事を食べていれば良い体に成長して、もっと女の子らしい体型になるかもね。
しょうがないから、私が時間のある時にナイフとフォークの使い方を教えてあげるよ。アンタの使い方はガチャガチャと音が煩くてヘタクソだからね」
「本当ですか? よろしくお願いします」
『田舎育ちで純朴な子のようだから、悪い奴に騙されないように私がしっかり面倒を見てあげよう……』と、アンは無意識に感じていた。
朝食後、一度部屋に戻り、メイド服に着替えている時だった。
「マリア。洗濯場には古株のババアが沢山いるから、気を付けた方がいいよ。
下働きは平民しかいないから気楽だけど、ババア達は一癖も二癖もあるからね」
メイド服に着替えていると、アンが横から声を掛けてくれる。
洗濯場だから、女の職場でおばちゃんが沢山いるだろうとは予想していたが、癖のあるおばちゃんが沢山いるらしい……
でも、どこに行っても癖のあるおばちゃんは沢山いるし、黙ってハイハイ言ってれば何とかなるはずだと、マリアはポジティブに考えていた。
「アンさん、教えてくれてありがとうございます」
「ほら、そろそろ時間だよ。ババア達は出勤して来るのが早いから、アンタも早く行った方がいい。洗濯場まで案内するからついて来て」
「はい!」
しかし、洗濯場の仕事は別に大したことはなかった。
確かに口煩いおばちゃんはいたが、田舎にいた頑固で性格のひん曲がった婆さん達と比べたら、まだマシだと思えるレベルだったからだ。
洗濯の仕事は手が荒れるし、屈むことが多いから腰が痛むこともあるけど、そんなことは今までやってきた畑仕事でも経験してきたから、あまり気にならなかった。
それよりもこんなに良い匂いのする高そうな洗剤で洗濯をするなんて、やっぱり公爵家って凄いんだなぁとマリアは感じていた。
畑仕事は泥臭くなるし爪が汚れるのが嫌だったけど、ここでは洗剤のいい匂いが付くからこっちの方が女の子向きの良い仕事だと思えたのだ。
忙しく働いていれば、あの男のことを思い出すこともないからと、マリアはがむしゃらに働くことにした。
マリアとテッドはお互いの家族だけでなく、村中の人から公認の付き合いをしていた。いずれ二人は結婚するだろうと、夫婦に近いような扱いをされていたのだ。
体の関係はなかったが、結婚前提の真剣な付き合いをしていた。それなのに、別れたとなったら村中の人達からヒソヒソと言われるに違いない。そのこともあって、マリアは村には帰りたくなかった。
帰ったとしても、テッドに捨てられた可哀想な女の子として見られて肩身の狭い思いをするだろう。
もしかしたら、子持ちの男の後妻を勧められるかもしれない。それならば、この公爵家で働いた方がまだマシだと思えた。衣食住は保障されているし、仕事もそこまで辛くはない。
自分の過去を知る人のいないこの場所で、一人で頑張っていこうとマリアは決めたのだった。
マリアはアンに連れられて、寮の食堂に朝食を食べに来ていた。
寮の食事はパンの他にスープやサラダ、主菜になる肉や魚、卵にハムなどもあって、マリアの実家よりもかなり豪華で美味しい食事だ。
実家ではパサパサのパンに具の少ないスープがあるくらいで、肉やハムなんて滅多に食べられなかった。食べる機会があったとしても、硬くてゴムのような肉だったり、塩気の強すぎるハムで美味しいとは思えない物だ。
まだ仕事は始まっていないが、こんなに美味しい食事を食べさせてもらえる職場で働けるなんてラッキーだとマリアはほくそ笑む。
美味しくて豪華な食事に感動したマリアは、黙っていられなかった。
「あの……、とても美味しいお食事でした。こんな美味しい食事は生まれて初めて食べました。
ありがとうございました!」
寮の食堂で働く料理人のおじちゃんとおばちゃんに感謝の気持ちを伝えたくなってしまったマリアは、食べ終わった後に声を掛けていた。
片付けをしていた二人は、始めこそ驚いた顔をしていたが、感謝の気持ちを伝えてもらって悪い気はしていなかった。
「ああ……、アンタは新しく入った子だね?
しっかり食べて仕事を頑張ってきな」
「はい! ありがとうございます」
田舎の村で愛嬌だけは褒められていたマリアは、コミュニケーション能力は高い方だった。
そんなマリアを見ていたアンは少し呆れている。
「マリア、食事が美味しく感じたのは良いけど、これはここでは当たり前の食事だよ。
アンタ、もしかして……、実家は貧乏だったの?」
「実はそうなんです。実家は田舎の貧乏な農家で、こんなに美味しい食事とは無縁でした。
ここで自分がどこまで働けるか分からないけど、美味しい食事を食べさせてもらえるなら、それだけで頑張れるような気がします!」
アンは貧乏な田舎者を馬鹿にしたつもりだった。しかし、マリアは恥ずかしがったり怒ったりすることもなく、素直に貧乏を認めていたので拍子抜けしてしまう。
「だからそんなに貧相な体だったのか……
ここの食事を食べていれば良い体に成長して、もっと女の子らしい体型になるかもね。
しょうがないから、私が時間のある時にナイフとフォークの使い方を教えてあげるよ。アンタの使い方はガチャガチャと音が煩くてヘタクソだからね」
「本当ですか? よろしくお願いします」
『田舎育ちで純朴な子のようだから、悪い奴に騙されないように私がしっかり面倒を見てあげよう……』と、アンは無意識に感じていた。
朝食後、一度部屋に戻り、メイド服に着替えている時だった。
「マリア。洗濯場には古株のババアが沢山いるから、気を付けた方がいいよ。
下働きは平民しかいないから気楽だけど、ババア達は一癖も二癖もあるからね」
メイド服に着替えていると、アンが横から声を掛けてくれる。
洗濯場だから、女の職場でおばちゃんが沢山いるだろうとは予想していたが、癖のあるおばちゃんが沢山いるらしい……
でも、どこに行っても癖のあるおばちゃんは沢山いるし、黙ってハイハイ言ってれば何とかなるはずだと、マリアはポジティブに考えていた。
「アンさん、教えてくれてありがとうございます」
「ほら、そろそろ時間だよ。ババア達は出勤して来るのが早いから、アンタも早く行った方がいい。洗濯場まで案内するからついて来て」
「はい!」
しかし、洗濯場の仕事は別に大したことはなかった。
確かに口煩いおばちゃんはいたが、田舎にいた頑固で性格のひん曲がった婆さん達と比べたら、まだマシだと思えるレベルだったからだ。
洗濯の仕事は手が荒れるし、屈むことが多いから腰が痛むこともあるけど、そんなことは今までやってきた畑仕事でも経験してきたから、あまり気にならなかった。
それよりもこんなに良い匂いのする高そうな洗剤で洗濯をするなんて、やっぱり公爵家って凄いんだなぁとマリアは感じていた。
畑仕事は泥臭くなるし爪が汚れるのが嫌だったけど、ここでは洗剤のいい匂いが付くからこっちの方が女の子向きの良い仕事だと思えたのだ。
忙しく働いていれば、あの男のことを思い出すこともないからと、マリアはがむしゃらに働くことにした。
マリアとテッドはお互いの家族だけでなく、村中の人から公認の付き合いをしていた。いずれ二人は結婚するだろうと、夫婦に近いような扱いをされていたのだ。
体の関係はなかったが、結婚前提の真剣な付き合いをしていた。それなのに、別れたとなったら村中の人達からヒソヒソと言われるに違いない。そのこともあって、マリアは村には帰りたくなかった。
帰ったとしても、テッドに捨てられた可哀想な女の子として見られて肩身の狭い思いをするだろう。
もしかしたら、子持ちの男の後妻を勧められるかもしれない。それならば、この公爵家で働いた方がまだマシだと思えた。衣食住は保障されているし、仕事もそこまで辛くはない。
自分の過去を知る人のいないこの場所で、一人で頑張っていこうとマリアは決めたのだった。
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