まだ２０歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか？

新しい生活

希望？

　気持ちが沈む私とは反対に、バーネット様は満足したような表情をしていた。


「指輪のサイズが合わなかったらどうしようかと少し不安だったんだ。ピッタリで良かったよ。
　よく似合っている。」

「ここまでされなくても…。」
　
「リア…。私と一緒に住むことを拒否したり、面会を断ったり…、私を避けているようだけど、夫婦である以上は何をしても無駄だ。」

「………。」

「ああ、そうだ。王妃殿下やヘミングウェイ伯爵夫人は随分とリアを可愛がっているんだって？
　リアを可愛がってくれているなんて、夫である私としても、とても光栄なことだと思っているよ。」


　この男は王妃殿下とヘミングウェイ伯爵夫人の名前まで出して、何を企んでいるつもりなの？


「でもそんな2人が、リアに沢山の仕事を与えて酷使していると裏で噂になっているのを知っているのか？」
　
「何を言いたいのでしょうか？」

「リアは愛する夫と一緒に生活する時間も、夫との面会時間すらも与えられずに仕事をさせられているって、周りには思われているようだ。
　愛する妻に会いたくて、何度も面会に訪れている夫が気の毒だと言う人も沢山いるようだし。」

「……。」

「リアが私を嫌で避けていても、周りにはそのようには見えていないということだよ。」

「王妃殿下もヘミングウェイ伯爵夫人もそのような方ではありませんわ！部下思いの素晴らしい方達です。」


　私の言葉にフッと微笑むバーネット様。
　目が笑ってない。


「私もそう思っているし、ただの噂話だ。
　リア、週末くらいは一緒に過ごそう。私達が一緒にいる姿を見せないと、噂話が真実に見えてしまうからね。
　週末、仕事が終わるくらいの時間にここに迎えに来る。」


　バーネット様は私にキスをして帰っていった。


　私のせいで、王妃殿下とヘミングウェイ伯爵夫人が悪く言われるとは考えていなかった。
　それだけはダメ。あの2人には絶対に迷惑を掛けるわけにはいかない。
　でも、あの男と週末を一緒に過ごすなんて嫌だ。


　答えが見つからずに苦悩する私に、嫌なことは続く……


　次の日、仕事終わりに歩いていると、後ろから呼び止められる。


「バーネット伯爵夫人、ご機嫌よう。」


　振り返った先にいたのは、スカル男爵令嬢だった。
　この令嬢は私より２つ年上で、王宮で文官として働いている方だ。ふわふわしたような可愛らしい雰囲気が令息達に人気だと随分と前に聞いてはいたけど、まだ独身よね？
　私とは特別話をするような関係ではなかったはずなのに、何の用かしら？


「スカル男爵令嬢、ご機嫌よう。」


　私が足を止めて挨拶を返すと、ニコッと微笑む。
　……可愛い方だわ。


「バーネット伯爵夫人は、ご主人とは一緒に過ごされていないように見受けられますが、伯爵夫人という立場でありながら、ご主人を放っておかれるなんて酷いと思いませんの？
　私なら、愛する人にあんな風に寂しそうな顔はさせませんわ。」


　そういう話をわざわざしてくるということは、この方もあの男に恋でもしていたのかしら？


「まあ、ご心配をお掛けしまして申し訳ありませんわ。
　しかし男爵令嬢である貴女が、伯爵夫人である私にそのような話をされるなんて、気遣いを通り越して、ただのお節介にしか聞こえませんわよ。身の程を弁えた方がよろしいのではなくて？
　私と貴女様は友人と言うほどの関係ではありませんのに、そのような話をわざわざ言ってくるということは、もしかして私の夫が好きなのかしら？」


　スカル男爵令嬢の可愛らしい顔が、一瞬だけ歪んだような気がする。
　やはりそうなのね…。だからこんなに可愛いのに独身なのかしら？
　『貴女に譲るわ』と言えたら楽なのに。


「失礼致しました。お許しくださいませ。
　しかし…、自分の愛する旦那様がいつまでも自分だけを愛してくれるなどと思わない方がよろしいかと思いますわ。ふふ…。」


　勝ち誇ったような表情をするスカル男爵令嬢を見てピンと来た。
　そういうことなの？
　

「ふふっ…。ふっ…！」


　この女は私の希望の光になり得るかもしれない！
　私は笑いが止まらなくなってしまっていた。


「な、何ですの？」

「貴女、私達のことを何も知らないのね。
　ふふっ…。」

「え…？何を笑ってるの？」

「いえ。ありがとうございます。
　失礼致しますわ。」


　可愛いと評判のスカル男爵令嬢が、なぜ未だに決まった相手がいないのか調べる必要があるわね。
　あの男と裏で何か繋がっている？あの男なら、不貞していてもおかしくはないし。
　でも、どうやって調べればいいかしら？

　考えないと……