まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ

文字の大きさ
上 下
57 / 104
新しい生活

信用出来ない

しおりを挟む
「リア……。記憶が戻ったんだ。近々、君を迎えに行くよ。」


「………。」


 あの頃と同じ優しげな目元で、私のことを〝リア〟と呼ぶバーネット様。


 本当に記憶が戻ったの?


 いや、また誰かに何か言われて、そのように振る舞っているだけかもしれない。
 親しかった者に記憶喪失になる前の話を聞けば、記憶が戻ったような演技くらいは、この人なら出来るのかもしれないわ。
 この人は信用出来ない。


 何よりも、私自身がバーネット様の記憶が戻ったことを認めたくなかった。



「…リア?驚かせてしまったかな。」


「バーネット様、ご機嫌よう。
 私達はもう他人になりました。愛称で呼ぶことは遠慮して頂きたいですわ。
 お元気そうで安心致しました。引き続き、パーティーをお楽しみ下さいませ。
 私はすぐに戻らなければいけませんので、失礼させて頂きます。」


 バーネット様が話をする隙を与えず、平常を装った私はその場をサッと離れることにした。






 その後のことはよく覚えていないが、気がつくと自分の部屋に戻り、ベッドに横になっていた。



 バーネット様は私を迎えに行くと言っていた。
 でも、どうやって…?

 絶対にあの男の所には戻りたくない!

 またもし会うことがあっても、極力避けるようにしよう。



 翌日。



 最近の激務で疲れていた私は、休日ということもあり、いつもよりのんびりと寝ていた。

 午後になり、近くの図書館にでも行こうかと考えていると、両親が会いに来てくれたとメイドが知らせてくれる。


 昨夜の夜会では話をすることも出来なかったから、わざわざ会いに来てくれたのかしら?


「リア。昨夜は殿下とダンスを踊っていて、お父様は驚いてしまったぞ。」

 え…?わざわざその話をしに来たのかしら?

「お父様。殿下は生徒会で一緒だったので、学生時代から交流がありましたわ。ダンスくらいで驚かないで下さいませ。」

「リア。殿下とのダンスはとても素敵だったわ。
 しかも、昨日のドレスは王妃殿下からのプレゼントなんですってね。とても似合っていたわ。
 他の夫人達もみんなリアを褒めて下さってね…、お母様は嬉しくなってしまったの。」

 王妃殿下から贈られたドレスを着た私を貶せるような強者は、この国にはいないわよ。

 でも…、両親が喜んでくれたのは嬉しい。
 娘である私の色々な噂のせいで、両親が肩身の狭い思いをするのではと、少し気掛かりだったから…。

 王妃殿下やヘミングウェイ伯爵夫人、王太子殿下には感謝しなければならないわね。


 昨日の夜会でのことを嬉しそうに話してくれる両親を見てホッとした私に、両親は急に表情を変えて、とんでもないことを話し出すのであった。


「リア。今日会いに来たのは、別に話したいことがあったから来た。」

 急に厳しい顔になるお父様。

「何でしょうか?」

「あの男から手紙が届いた。」

 お父様がそんな顔で〝あの男〟と呼ぶのは1人しかいない。

「…バーネット様ですか?」

「ああ…。自分が亡くなったと勘違いされて、本人の意思とは関係なく、リアとの婚姻関係が解消されていたことは無効にすべきだと書いてあった。
 教会にそのことを働き掛けているので、認められ次第、すぐにリアを迎えに行きたいと書いてあったのだ。」


 ああ……。

 あの男はまた私を苦しめるつもりなのね。


「……お父様。私、絶対に嫌ですわ。」

「分かっている。しかし、教会が認めてしまったら、いくらリアが嫌がっても難しいだろう。
 あの男の言い分は間違ってはいないのだからな。
 教会に太刀打ち出来るくらいの権力があれば何とかなるのだが…。うちは普通の伯爵家だから。
 何とかならないか私達で考えてはみる。リアは仕事を頑張りなさい。」

「……はい。」

「リアは仕事を頑張っているのだし、上司のヘミングウェイ伯爵夫人に相談してみたら?
 もしあの男の妻に戻ることになったら、騎士団にお勤めで留守が多い旦那様の代わりに、妻が領主代行の仕事をしなくてはいけなくなるのだから、王妃殿下の侍女を続けられなくなる可能性も出てくるのよ。
 早めに話くらいはしておいてもいいかもしれないわ。」


 あの仕事を辞めなければいけなくなるの…?
 やっと見つけた私の居場所なのに。

 あの男はどうして私を離してくれないの?
 どこまで私を苦しめるの?


「リア?そんな絶望した顔をしちゃダメ。まだ決まったわけではないのだから。」

「分かっています。でも、お母様の言う通りだと思いますわ。
 休み明けにでも、ヘミングウェイ伯爵夫人に相談してみようかと思います。」


 
 落ち込みそうになるけど、負ける訳にはいかない。
 
 
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

【完結】愛してました、たぶん   

たろ
恋愛
「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。 「愛してる」 「わたしも貴方を愛しているわ」 ・・・・・ 「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」 「いつまで待っていればいいの?」 二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。 木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。  抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。 夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。 そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。 大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

処理中です...