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新しい生活
閑話 ブライアン・バーネット
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地方都市の、ある商会の支店長と商談をしている時だった。
「失礼致します。お茶をお持ちしました。」
鈴の鳴るような声が聞こえる。
懐かしいような、胸が痛むような、もっと聞いていたいような…。不思議な気持ちだった。
護衛という立場なので、姿勢は崩さず、チラッと声の主を見て息を呑んだ。
平民とは思えない程の美しい女性が、綺麗な所作で紅茶を用意してくれた。
ミルクティーのような優しい色味の長い髪を一つにまとめ、紫の大きな瞳の目を引く容姿の女性だった。
今まで女性をここまで見つめたことはなかったと思う。
たった一瞬見ただけなのに、理由は分からないがその女性に惹かれてしまった。
その女性は、護衛の私の分まで紅茶を用意してくれたらしい。
「とても美味しい紅茶ですね。」
「ありがとうございます。大切なお客様が来るので、紅茶を淹れるのが得意な従業員に、美味しく淹れて欲しいと頼んでおいたのです。」
スコット様が珍しく紅茶を褒めている。
「ロイの分も用意してくれたのだから、飲んでみた方がいい。美味しいぞ!」
「私は護衛ですから。」
「メアリーの紅茶は美味しいので、ぜひ騎士様も飲んで下さい。」
「支店長もそう言ってくれているんだから、頂かない方が失礼だぞ。」
そこまで言われたなら断れないな…。
「では、頂きます。」
紅茶を口にして驚いた。こんなに美味しい紅茶は記憶を失ってから初めて飲んだと思う。
「ロイ、美味しいだろ?」
「はい…。とても、美味しいです。」
「…ロイ?涙目になってないか?よほど美味しかったのだな。」
「え?…失礼しました。」
商談を終えて帰る時だった。スコット様が紅茶を淹れてくれた従業員に直接お礼を言いたいと言い出すのである。
この方がそこまで言うなんて、とにかく珍しいと思った。
支店長はメアリーも喜ぶでしょうと言って、すぐに本人を呼んで来てくれる。
「フィール商会のスコットだ。君が淹れてくれた紅茶はとても美味しく頂いたよ。私の護衛騎士にも飲ませたのだが、美味しくて涙目になっていた程だ。
ありがとう。」
あのスコット様が嬉しそうに挨拶をしている。
もしかして……。
「メアリーでございます。お客様からお褒めの言葉を頂きまして、大変光栄でございます。」
メアリーと名乗るその女性はスコット様の立場を理解しているのか、貴族令嬢がするカーテシーをしていた。
全ての所作が美しくて見惚れそうになるが……
彼女が私を見て一瞬、驚いたような表情をしていたような気がしたが、私を知っているのか?
でも何も言ってこない。知り合いなら声を掛けるはずだから、気のせいだと思うことにした。
「メアリー…、美しかったな…。」
帰りの馬車の中で、スコット様が遠くを見つめながら、ポツリと口にする。
その姿を見て、私はスコット様の気持ちを悟ったのであった。
私のこの気持ちは何なのだろうか?イライラするような、面白くないような…。
その日から、数日後。
休みを頂いた私は紅茶の店に来ていた。あの日飲んだ紅茶が美味しかったので、自分でも淹れて飲みたいと考えたからだ。
そこの店で、まさかメアリー嬢に会えるとは…。
店に来たのはいいが、思った以上に紅茶の種類が多過ぎて困る私に、メアリー嬢はこの前頂いた紅茶の種類を教えてくれたのであった。
仕事中だと思われる彼女は、店主のサービスの紅茶を飲み終えると、すぐに店から出て行ってしまった。
何だか寂しいような、残念な気持ちになる。
自分の住む部屋に戻り、紅茶を淹れてみるが……
あの時にメアリー嬢が淹れてくれたような美味しさはなかった。
スコット様は、商会長が主催するパーティーでメアリー嬢とダンスを踊っていた。
離れた場所から見ても、嬉しそうな表情をしているのが分かる。本気で好きなのだろう…。
ダンスをする美男美女の2人は、会場内で1番目立っていた。
後日、スコット様は支店長との食事会で、支店長に頼み込んでメアリー嬢を誘ってもらっていた。
テーブルマナーは完璧で、言葉遣いも美しい彼女は、ただの平民には見えない。彼女は何者なんだろうか?
食事会の後、支店長にメアリー嬢を送らせて欲しいと頼み込むスコット様。支店長は難色を示していたが、今回だけと言って折れていた。
支店長が先に帰った後、スコット様はホテルの庭園に彼女を誘っていた。
その後も何かあれば、メアリー嬢を食事に誘ったり、職場に差し入れを届けたり、あからさまな態度を取るスコット様。それに対して、控えめに遠慮をするメアリー嬢。
取引先の商会長の子息だから、はっきりと断れないのだろうか?
その気がないのなら、はっきり断ればいいものを…。スコット様は断ったからと、酷い仕打ちをするような男ではないのだから。
理由はよく分からないが、見ていて気分の良いものではなかった。
よく分からないがイライラする。
そんな私は彼女に酷いことを言って後悔することになるのである。
「失礼致します。お茶をお持ちしました。」
鈴の鳴るような声が聞こえる。
懐かしいような、胸が痛むような、もっと聞いていたいような…。不思議な気持ちだった。
護衛という立場なので、姿勢は崩さず、チラッと声の主を見て息を呑んだ。
平民とは思えない程の美しい女性が、綺麗な所作で紅茶を用意してくれた。
ミルクティーのような優しい色味の長い髪を一つにまとめ、紫の大きな瞳の目を引く容姿の女性だった。
今まで女性をここまで見つめたことはなかったと思う。
たった一瞬見ただけなのに、理由は分からないがその女性に惹かれてしまった。
その女性は、護衛の私の分まで紅茶を用意してくれたらしい。
「とても美味しい紅茶ですね。」
「ありがとうございます。大切なお客様が来るので、紅茶を淹れるのが得意な従業員に、美味しく淹れて欲しいと頼んでおいたのです。」
スコット様が珍しく紅茶を褒めている。
「ロイの分も用意してくれたのだから、飲んでみた方がいい。美味しいぞ!」
「私は護衛ですから。」
「メアリーの紅茶は美味しいので、ぜひ騎士様も飲んで下さい。」
「支店長もそう言ってくれているんだから、頂かない方が失礼だぞ。」
そこまで言われたなら断れないな…。
「では、頂きます。」
紅茶を口にして驚いた。こんなに美味しい紅茶は記憶を失ってから初めて飲んだと思う。
「ロイ、美味しいだろ?」
「はい…。とても、美味しいです。」
「…ロイ?涙目になってないか?よほど美味しかったのだな。」
「え?…失礼しました。」
商談を終えて帰る時だった。スコット様が紅茶を淹れてくれた従業員に直接お礼を言いたいと言い出すのである。
この方がそこまで言うなんて、とにかく珍しいと思った。
支店長はメアリーも喜ぶでしょうと言って、すぐに本人を呼んで来てくれる。
「フィール商会のスコットだ。君が淹れてくれた紅茶はとても美味しく頂いたよ。私の護衛騎士にも飲ませたのだが、美味しくて涙目になっていた程だ。
ありがとう。」
あのスコット様が嬉しそうに挨拶をしている。
もしかして……。
「メアリーでございます。お客様からお褒めの言葉を頂きまして、大変光栄でございます。」
メアリーと名乗るその女性はスコット様の立場を理解しているのか、貴族令嬢がするカーテシーをしていた。
全ての所作が美しくて見惚れそうになるが……
彼女が私を見て一瞬、驚いたような表情をしていたような気がしたが、私を知っているのか?
でも何も言ってこない。知り合いなら声を掛けるはずだから、気のせいだと思うことにした。
「メアリー…、美しかったな…。」
帰りの馬車の中で、スコット様が遠くを見つめながら、ポツリと口にする。
その姿を見て、私はスコット様の気持ちを悟ったのであった。
私のこの気持ちは何なのだろうか?イライラするような、面白くないような…。
その日から、数日後。
休みを頂いた私は紅茶の店に来ていた。あの日飲んだ紅茶が美味しかったので、自分でも淹れて飲みたいと考えたからだ。
そこの店で、まさかメアリー嬢に会えるとは…。
店に来たのはいいが、思った以上に紅茶の種類が多過ぎて困る私に、メアリー嬢はこの前頂いた紅茶の種類を教えてくれたのであった。
仕事中だと思われる彼女は、店主のサービスの紅茶を飲み終えると、すぐに店から出て行ってしまった。
何だか寂しいような、残念な気持ちになる。
自分の住む部屋に戻り、紅茶を淹れてみるが……
あの時にメアリー嬢が淹れてくれたような美味しさはなかった。
スコット様は、商会長が主催するパーティーでメアリー嬢とダンスを踊っていた。
離れた場所から見ても、嬉しそうな表情をしているのが分かる。本気で好きなのだろう…。
ダンスをする美男美女の2人は、会場内で1番目立っていた。
後日、スコット様は支店長との食事会で、支店長に頼み込んでメアリー嬢を誘ってもらっていた。
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食事会の後、支店長にメアリー嬢を送らせて欲しいと頼み込むスコット様。支店長は難色を示していたが、今回だけと言って折れていた。
支店長が先に帰った後、スコット様はホテルの庭園に彼女を誘っていた。
その後も何かあれば、メアリー嬢を食事に誘ったり、職場に差し入れを届けたり、あからさまな態度を取るスコット様。それに対して、控えめに遠慮をするメアリー嬢。
取引先の商会長の子息だから、はっきりと断れないのだろうか?
その気がないのなら、はっきり断ればいいものを…。スコット様は断ったからと、酷い仕打ちをするような男ではないのだから。
理由はよく分からないが、見ていて気分の良いものではなかった。
よく分からないがイライラする。
そんな私は彼女に酷いことを言って後悔することになるのである。
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