まだ２０歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか？

新しい生活

王都に戻って来て

　旦那様そっくりの騎士様に、スコット様を弄ぶのはやめて欲しいと言われた次の日。

　そんなつもりはなかったのに…。
　他の方からはそのように見えていたのだと思うと、私はショックを受けてしまった。

　もしスコット様に会うことがあれば、普通の友人関係でいたいことを伝えて、2人で会うのはやめたいと伝えてみようかしら…。


　しかしその後、スコット様に会うことはなかった。

　急遽私は、王都に戻ることになったからである。




　商会長に呼び出された私は、見覚えのある紋章の入った手紙を渡される。
　

「メアリー、王妃殿下から手紙をお預かりしている。」

「はい。ありがとうございます。」

「今すぐに目を通してくれるか？」

「はい。…失礼致します。」

　商会長の目の前で、王家の紋章の入った封筒を開封する。



　王妃殿下からの手紙には、美しい字で、私のことを気遣う言葉が沢山並べられていた。

　今の生活は楽しめているか、慣れない場所で苦労をしてないか、病気をしていないか、周りの人達は私を虐めたりしていないか、元気でいてくれたら嬉しいなど…。
　まるで家族や親族に宛てたような内容。

　あまりまともに会話をしたことはないが、手紙を読む限りでは、お優しいお方のように感じた。

　でも…、今思い出したが、前にお茶会や夜会で王妃殿下とお顔を合わせた時、理由は分からないが、いつも優しい目を私に向けていてくれていたような気がする。

　『元気でいらした？』とか『学園での話を良くきいているのよ。』とか『頑張りなさい』とか。

　手紙を読み進め、胸がいっぱいになる私。


　しかし手紙の最後の方に書いてあったのは、すぐに王都に戻って来て欲しいということであった。

　王妃殿下は多忙で体調を崩すことが多くなっており、執務の手伝いがこなせる侍女を探しているが、なかなか見つからなくて困っているようだ。そこで、生徒会や商会で働いた経験のある私に、ぜひ王妃殿下の側近の侍女をお願いしたいとのことだった。

　
　王妃殿下が何を考えていらっしゃるのかは分からない。

　でも…

　王妃殿下がそこまで私を必要としてくれるのであれば……
　


　今の生活をとても気に入っていたけれど、私は何の迷いも無かった。


　商会長が急いで戻った方がいいと言ってくれ、翌日の仕事を最後に急遽王都に戻ることになった。



「メアリー。今日で仕事が最後なのね。寂しくなるわ。
　まさかこんなに急に別れが来るなんて……」

　泣きそうな顔のクロエ…。

　私はクロエがいたから、ここでの生活が楽しかったし、色々なことを覚えることが出来たのよね。
　クロエにはとても感謝しているし、純粋に大好きだった。

「クロエ、私はクロエに出会えたことに感謝しているの。本当にありがとう。
　ずっと大好きよ…。手紙書くわ。クロエも書いてね。」

「うん…。私も大好きよ。メアリーのこと忘れないわ。」

　支店長や他の仲間たちに挨拶をして、約10ヶ月のここでの生活は終わる。

　最後にエドガーにお別れを言いたかったが、会う時間が取れないので、手紙を書いてクロエから渡してもらうことにした。
　
　スコット様には、側近の護衛騎士にあんなことを言われて、手紙を書く気にもなれなかった。だから、もし訪ねてくるようなことがあれば、急遽実家に帰ることになったことと、お世話になったことや、私が感謝していたことを伝えて欲しいと支店長やクロエに頼んでおいた。


　短い間だったけど、ここで過ごした時間が今までの人生で1番楽しい時間だったかもしれない…。