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第10章 未来へ繋ぐ想い

第79話ー② 私の守りたかった場所

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 実来と織姫は無言で女子の生活スペースに向かって歩いていた。

 何か話さないと、ちょっと気まずいというか居たたまれないというか――

 そう思った実来は、

「本星崎さんはなんだか……育ちが良いように感じます」

 織姫を見ながらそう言った。

「ええ。これでも起業家の娘ですからね」

 織姫は歩きながら淡々とそう答えた。

「そ、そうですか」

 実来は苦笑いでそう言った。

 頑張って声を掛けたのに、これで会話終了? さっきの馴れ馴れしい教師といい、このお嬢様といい……本当に変わり者が多いな。私、ここでやっていけるかな――

 そんなことを思いながら、実来は織姫についていった。

 そして生活スペースに着くと、織姫は淡々と施設内の説明を始める。

「ここがミニキッチンです。軽い設備ならあるので、好きに使ってください」
「は、はあ」

「そして……こちらが如月さんの部屋です。大体の設備は整っています。ここから好きにカスタマイズして、自分の暮らしやすい環境にしてください」
「はい……」
「以上です。質問はありますか」

 またも淡々と実来にそう告げる織姫。

 いや、ないけどさ。完璧にだったと思うよ。でも、なんか機械的って言うか。マニュアル通りって言うかさ――

 そう思いつつも、実来は笑顔を作る。

「いえ、とても分かりやすい説明でした」
「そうですか。それはありがとうございます」

 何なのこの子。嬉しそうな顔一つしないじゃん。なんかものすごく冷めているというか……もしかして、私みたいな庶民は眼中にないとかそういう系? なんか感じ悪いな――

「如月さん?」
「え?」
「大丈夫ですか?」
「あ、はい」

 織姫にそう言われ、自分がボーっとしていたことに気が付く実来。

「じゃあ食堂に戻りましょう。他の設備はまた先生が説明してくれると思うので」
「はい」

 それから実来と織姫は食堂に向かって歩き出したのだった。

 その後、食堂に着くと実来たちは暁と合流した。

「織姫、ありがとな! 助かったよ!!」
「いいえ。お役に立てたのなら幸いです。……それで、烏丸君はどちらに?」
「ああ、部屋に戻ってるって! それとメールを確認しておくようにだそうだ」
「あーってことは、修正箇所がみつかったのですね。わかりました。それでは私はこれで」
「おう! またお昼にな!!」

 それから織姫は食堂を後にした。

「それで、どうだった?」

 どうだったって……心配しかないでしょ――!

 そんなことを言えない、実来は笑顔を作り、

「え……はい。何とか生活していけそうですね」

 そう答えたのだった。

「ああ、よかった。前の学校のほうがいいって言われるんじゃないかって思ったからさ!」

 意外と鋭いな、この教師――

「ははは。そんなわけないじゃないですか! 本星崎さんも丁寧に教えてくださいましたし、それに先生もこんなに親切にしてくれるし。嫌なところなんて何一つないですよ!」
「そうか! あはは! よかった~」

 そう言って嬉しそうに微笑む暁。

 ちょろそうだな、この人――

 そう思いながら、暁を見つめる実来。そして、

「じゃあ、少し部屋の整理をしたいので、私もこれで……」

 暁にそう告げた。

「ああ、じゃあまた昼食の時に!」
「はい!」

 そして実来は食堂を後にした。



 ――実来、自室にて。

「はあ……疲れた」

 部屋に着いた実来は腰に手を当ててそう呟く。

「芸能人が出た施設だっていうから、何かもっと面白いことでもあると思ったのに……」

 いたのは、馴れ馴れしい教師とお高くとまっているお嬢様。かわいい水蓮ちゃんは別として、もう1人のやつはなんだかヤバそうだったな――

「はあ……あ、メッセージ?」

 そしてスマホに視線を向ける実来。

『やっほー! 実来、施設にはついた?』
杏子あんず……『うん。着いたよ。でも最悪……』」
『最悪ってwwどうしたの?』
「『実は――』」

 それから実来はメッセージのやり取りを続けた。

「あ、そろそろお昼じゃん! 『ごめん。じゃあまた連絡するね!』」
『うい~』

 そして机に置くと、

「ふう。じゃあ行こう……気が重いな……」

 そう呟いた実来は部屋を出た。



 ――食堂にて。

「お、やっと来たな実来!」

 暁はそう言って実来の方を見て微笑んだ。

「すみません、ちょっと片付けが長引いて」
「あ、別に責めたわけじゃないんだよ。ただせっかくだから歓迎会をしようって思ってさ!」
「歓迎会……?」

 そして実来が食堂内を見つめると、生徒たちが中央の机に集まって座っていた。その中に先ほどあった生徒と知らない男子生徒がいることを知る。

 あれがさっき言ってたもう1人か――

「ほら! じゃあ座って、座って!」
「は、はい……」

 暁に言われて、実来は中央にある机に向かった。

 用意された真ん中の椅子に実来は座る。

 こういうの苦手なんだよね――

 そんなこと思いながら、憂鬱な顔をする。

「なんだか浮かない顔ですね?」

 正面に座る狂司は笑いながらそう言った。

「そ、そうですか? ちょっと緊張しているのかも」

 実来は苦笑いでそう答える。

 こいつはちょっと気をつけたほうがいいかもしれないな――

「じゃあ始めようか!」

 暁は笑顔で生徒たちにそう言った。

 それから生徒たちは再び自己紹介を始める。

「じゃあ最後は剛だな!」
「おう! 俺は火山剛だ! 今年、大学1年で22歳だ。だからみんなより少しだけ兄貴的なポジションだから、何かあればいつでも相談してくれよ!」

 剛はそう言って笑った。

「あ、はい。よろしくお願いします」

 22歳の能力者? しかも大学1年って……この人、なんかヤバそう――

 そんなことを思いながら、剛を見る実来。


「というか、みんないつの間に自己紹介なんてしたんだよ!」

「朝、ですね」「朝です」「朝だな!」

「俺がスヤスヤ眠っているときに……ってか朝に来るってわかってたんなら、起こせよ狂司!!」

「起こそうとは思ったんですが、いきなり騒がしい剛君を見て『もう帰りたい』って思われると良くないかなと思ってやめました。嫌われなくてよかったですね! 感謝してくれてもいいんですよ?」


 そう言って剛にニコッと微笑む狂司。

「くっそ!!」

 剛は悔しそうな顔をしながらそう言った。

 そんな食堂でのやりとりを黙って見つめていた実来。

 何なの、この空気……私は絶対に馴染まない。ここをさっさと出て、外の世界のみんなとまた会うんだから――

 それから実来は黙々と食事を済ませて、食堂を後にしたのだった。


 * * *


 ――職員室にて

「うーん」

 暁は職員室にある自身の席で腕を組み、首をかしげていた。

 実来のあの感じ、何だろうな。それに狂司の言葉も引っ掛かる――

「どうしたの、先生?」

 そう言って心配そうな顔で暁の傍にやってくる水蓮。

「あ、水蓮。何でもないさ! 心配してくれて、ありがとうな!!」
「うん! でも何かあったら、スイに言ってね」
「おう! ありがとうな!!」
「ふふふ。じゃあスイはミケさんと遊んできます!」

 そう言って水蓮は暁の自室に入っていった。

「水蓮に気を遣われるなんてな」

 そう呟きながら、ふっと笑う暁。

「でも……」

 暁は先ほどの実来の様子が気になっていた。

 なんだかつまらなそうというか――

「他の生徒たちと一緒にいることを嫌がっているように見えたような……やっぱり前の学校が良いって思っているんだろうな」

 そして研究所から事前に送られていた実来の資料を手に取る暁。

「まずはこれを読んでみるか」

 それから暁は実来の個人資料に目を通す。


【生徒氏名】
 如月 実来 

【過去データ 詳細情報】
 高校3年生で『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』に目覚める。
 危険度S級クラスと診断され、その後に専用施設へ収容された。

 ごく普通の家庭に生まれ、学業の成績は平均。交友関係は良好。
 特に問題になるようなきっかけもないまま、能力の覚醒を確認。
 本人に日常の変化がないかを確認したが、生徒本人も理由は不明ということだった。


「能力覚醒のきっかけが不明か……」

 データを読めば、少しは実来のことをわかるかと思っていた暁だったが、そのデータから有力な情報を得ることはできなかった。

「まあこれまで通り、関わっていく中で知っていけばいいか!」

 それから暁は翌日の授業の準備を始めるのだった。
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