白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー

しらす丼

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第9章 新たな希望と変わる世界

第76話ー⑤ 結び

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 織姫の出て行った職員室で暁は1人、呆然としていた。

 奏多のほしいものが、まさか――

 暁はそう思いながら、ゆっくりと自分の席にある椅子に腰を掛ける。

「はあ」

 嬉しくないわけじゃない。でも俺にはまだやらなくちゃいけないことがあって、だからすぐにそういうわけには――

「……やらなくちゃいけないことがあるからじゃない。たぶん俺は覚悟が決まらないだけなんだろうな」

 それから天井を見つめる暁。

 こんな時、誰に相談すればいいだろう。いつもなら何かあれば奏多に相談していたけど、今回はできないしな――

 そしてはっとする暁。

「そうだ、キリヤだ! 数少ない俺の頼れる友人!」

 それから暁はキリヤに電話を入れるが、

『お掛けになった電話は現在電波の届かないところにあるか、電源が入っていません――』

 そのアナウンス音が響くだけだった。

「な、なんでだああああ! こんな時に限って!!!」

 そう言いながら、机に突っ伏す暁。

「まあ、たぶん仕事なんだよな。じゃあまた夜にかけてみるか……」

 暁はそう言って顔を上げてからスマホを置き、PCで授業の報告書の作成を始める。

 そういえば、織姫はなんだか申し訳なさそうだったな。俺の反応を予想して、気を遣って出て行ったのかもしれない――

「あとで謝っておかないとな。まあでも、どうするかの答えが出たわけじゃないんだけどさ。はあ」

 それから暁は夕食の時間まで報告書の作成と新設する学び舎の為の準備を進めた。



 食堂にて――

 夕食の時間になり、暁は水蓮を連れて食堂にやってきた。

 織姫と話したかった暁は凛子に水蓮を任せて、向き合って座った。

「なんですか?」

 織姫は持っていた箸を置き、暁にそう尋ねる。

「えっと、さっきはその……」

 暁はそう言って言葉に詰まる。

 ――俺、織姫になんて言おうと思っているんだろうな。

 織姫に謝ろうとは思っていた暁だったが、それもなんだか違う気がする――そう思い、先の言葉が出てこなかった。

「……私は伝えましたよ。そしてここから先は先生が決めてください。先生が奏多ちゃんのことをどう思って、どうしたいのかを。奏多ちゃんも私も、自分で決めて、答えを出しただけですから」

 織姫はそれだけ言うと、食事を再開する。

「ああ。そうだな。織姫の言う通りかもしれないな」

 俺が決める、か。そうだよな。みんな自分で決めて行動している。織姫も奏多も、他の生徒たちだって。俺はそんな生徒たちの姿をずっと見てきたはずなんだけどな――

 それから暁も食べ物の並ぶカウンターで食べ物を選んで持ってくると、それを食べ始めた。

「晩御飯だったら、こんなに簡単に決められるのにな……はあ」

 そんなことを呟き、夕食を摂る暁だった。



 職員室にて――

 暁は水蓮がお風呂に行っている間に再びキリヤへ連絡を入れた。しかし、

『お掛けになった電話は現在電波の届かないところにあるか、電源が入っていません――』

 先ほどと同様のアナウンスが流れるのみだった。

 それから暁は時計に目を向けて時間を確認する。そして時計は21時になろうとしていた。

「そんなに遅くまでかかっているのか……?」

 何かあったんじゃ……もしかして大けがをしているとか? そういえば、この間白銀さんにキリヤのことを聞いたときの反応もおかしかったもんな――

 そんなことを思いながら、キリヤの名前が出ているスマホの画面を見つめる暁。

「考え過ぎ、か。まあキリヤのことはまた白銀さんか優香にでも聞いてみるか。今はもう一つも問題を片付けなくちゃならないし……」

 そして椅子に座る暁。

「ただ欲しいものを知りたかっただけなのにな……聞かなかったことにする、とか? でもそれはそれでかっこ悪すぎだろ」

 それから暁は自分の身近で結婚している人間のことを考える。

「美鈴はどうして結婚しようと思ったんだろうな……あとは――」

 そして暁はチャットアプリにある旧友、たくやの名前を見つける。

「たくやはどんな覚悟で結婚を決めたんだろうな」

 少し悩んでから、暁はたくやにチャットアプリでメッセージを送った。

『たくやはどうやって結婚しようって思えたんだ?』

「こんなこと、本当は自分で答えを出すべき問題なんだろうけどな」

 そして数分後、たくやから返信がきた。

『ずっと一緒に居たい。離れたくないと心の底から思った時、俺の覚悟は決まったのかもしれないな!』

「なるほど……ずっと一緒に居たい、か」

 ふと奏多の顔を思い浮かべる暁。

 もうずっと前から、俺は……でも――

 そして自身が『ゼンシンノウリョクシャ』で、いつヒトではなくなるのかわからない状況にいることを思い出した。

 一緒に居たいけど、いられなくなるかもしれない。だったら、俺とじゃない方が奏多も幸せなんじゃないか? 俺にはまだやるべきことがあって、すぐにはそういう関係にもなれない。だから悲しい別れを経験するよりもその前に――

 暁がそんなことを思っていると、スマホが振動した。

「誰だ……? か、奏多!?」

 そして暁はその電話に応じた。

「もしもし? どうしたんだ、急に」
『特に何かあったわけではないですよ。ただ、暁さんの声を聞きたくなっただけです』

 その言葉に嬉しくなった暁は「そうか」と言って微笑んだ。

『知っていますか? 今夜は星がとても綺麗なんですよ?』
「そうなのか?」

 そして窓際に行き、夜空を見る暁。

「ここからじゃ、何も見えないな」
『じゃあ今度、2人で出かけた時に星空を見に行きましょう。おすすめの場所がありますから』
「ああ。楽しみだな」

 そう言って微笑む暁。

『……暁さん』
「ん? なんだ、奏多?」
『好きです』
「ああ。俺もだよ」
『これからもずっとずっと好きです』
「俺だって」
『これからも今と変わらず、私と一緒に居てくれますか?』

 いつもなら、なんてことない言葉なのに。なんでだろう――

 そう思いながら、暁は少しだけ沈黙をする。

 それから暁は、「ああ」といつものように優しい声でそう返したのだった。

『うふふ。ありがとうございます。それじゃあ、今夜はこの辺で。おやすみなさい! それとお出かけできる日が楽しみです!』
「俺もさ! おやすみ、またな!!」

 それから通話を終える暁。

「奏多はもう覚悟を決めているってことだよな。だったら俺も、いつまでもダサいことをしていられないな……」

 暁は、窓の外を眺めたままそう呟いたのだった。
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