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第9章 新たな希望と変わる世界

第70話ー② 残された子供たち

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 目に大粒の涙をためて、その場に佇む水蓮がいた。

『ねえ、どうしちゃったの……? ママ――!』

 そう言って水蓮が母の石像に触れると、水蓮が触れた場所からゆっくりとヒビが入り、そのまま粉々に砕け散った。

『スイ、いい子にしてるから……だから――』



 目を覚ました水蓮は自分の頬に涙が伝っていることを察した。

「パパ、ママ……ううう。先生もパパやママみたいに、もういなくなっちゃったのかな。水蓮が悪い子だから……?」
「にゃーん」

 ミケは鳴きながら水蓮にすり寄った。

「ミケさん、ありがと……」

 水蓮はミケを見ないように、そっと身体を撫でる。

「会いたいよ……」

 水蓮は静かにそう呟いたのだった。


 * * *


 食堂にて――。

「奏多ちゃん、お茶はいかがですか? 私、丹精込めてお入れします」
「うふふ。ありがとうございます。それでは、いただきましょう」

 食堂で奏多の到着を待っていた織姫は、嬉しそうにお茶の準備に向かう。

「懐かしいですね。ここでこうして向き合って座ることが」

 奏多はニコッと笑いながら、剛にそう告げた。

「そういえば、そうだな」
「先生から剛が目を覚ましたことは伺っていたんですけどね。またここで会えるとは」
「あの後、大変だったんだってな。キリヤから聞いたよ」

 そう言って申し訳なさそうな顔をする剛。

「ええ。だから私は剛のことを少しだけ恨みました。何、眠ってんですかって」

 奏多は腕を組んで、剛から顔をプイっと背けた。

「えええ……」

 俺だって、申し訳ないとは思っているんだけどな――

 そう思いながら、困り顔で奏多を見つめる剛。

「でも」
「?」

 そしてゆっくり剛の方へ顔を向ける奏多。

「こんなことを言っては失礼かもしれないですが、みんなにとって必要な出来事だったように今は思います」
「……そうか」
「剛、目を覚ましてくれて良かった。またよろしくお願いしますね」

 奏多はそう言って微笑んだ。

「おう、よろしくな!」

 そして剛もニコッと微笑んだのだった。

「お待たせいたしました! 紅茶のご準備ができましたよ」
「ありがとうございます!」

 それから奏多たちは織姫の入れた紅茶を楽しんだのだった。



 職員室――。

「水蓮ちゃんは先生の自室にいるんですよね?」
「ああ、そうだ」
「そうですか」

 そして奏多は暁の自室の前に立ち、その扉をノックする。

「……返事はない、ですか」
「どうするんだ――」

 剛がそう言うのと同時に奏多は部屋の扉を躊躇なく開けた。

「奏多っ!!」

 こんなに強引だったか? いや、奏多は昔からこんな奴だったな――

 やれやれと思いながら、奏多の行動を黙って見届けることにした剛だった。

 それから奏多は部屋に入ると、部屋の中をぐるりと見渡した。そして部屋の隅で膝を抱えて座る水蓮を見つける。

「いた」

 それから奏多はゆっくりと水蓮の近くに歩み寄り、その隣に座った。

「誰ですか」

 水蓮は顔を伏せたまま、そう告げる。

「初めまして、水蓮ちゃん。私は神宮寺奏多と言います」
「スイの名前、なんで……」
「先生から聞きました」

 奏多が優しい声でそう言うと、水蓮は伏せていた顔を少しだけ上げて、

「先生!? 先生のこと知ってるの??」

 驚いた声でそう言った。

「ええ。先生は私の先生でもありましたから」
「そう、なんだ」
「そうですよ。だから私と水蓮ちゃん……いえ、水蓮はお友達ですね」

 奏多はそう言って微笑んだ。

「お友達……?」
「はい!」

 水蓮は顔を伏せたまま、奏多の胸に飛び込む。

「スイ、先生がいないからお外に出ちゃダメだって思ってたの。だからここにいなくちゃって……でも、でもスイ――」
「それは、寂しかったですね」

 奏多はそう言って水蓮の頭を撫でる。

「さて。この部屋に閉じこもっていても気分が下がってしまいますし、部屋から出ませんか?」
「え、でも……」
「にゃーん」

 ミケは口にゴーグルをくわえている。

「このゴーグルは……?」

 奏多はミケがくわえているゴーグルを見て、水蓮に尋ねた。

「そのゴーグルは、スイがお風呂で使ってるゴーグルなの」
「そうなのですね」

 そして奏多はミケの口からゴーグルを受け取り、水蓮の手に持たせた。

「恥ずかしいかもしれませんが、今はこれで行きましょう」
「う、ん」

 それから水蓮は奏多から持たされたゴーグルをつけた。

「変じゃないですか?」

 水蓮はそう言って奏多の方を見た。

「うふふ。どんな水蓮もかわいいですよ」

 そう言って奏多は微笑んだ。

 そして奏多の顔を見た水蓮は頬をほんのり赤く染めて、「えへへ」と笑った。

「じゃあ、行きましょう」

 奏多は水蓮の手を取る。

「うん!」

 そして水蓮は立ち上がり、奏多と共に部屋を出たのだった。



 ――職員室にて。

「お待たせしました、剛」

 そう言ってゴーグルをつけた水蓮と手を繋いで部屋から出てくる奏多。

「あ、ああ」

 そんな奏多の姿を見た剛は、

 ずっと見ていたけど……奏多、すごいな。水蓮がもう懐いてる――

 そう思いながら目を丸くしていた。

「それでは、水蓮? 食堂に行きましょうか!」
「はいっ!」
「もちろん、剛もですよ?」
「お、おう!!」

 それから3人で食堂に向かったのだった。
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