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第4章 過去・今・未来

第30話ー⑧ それは幸せな物語

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 俺が職員室に戻ると、コンサートを終えた奏多が職員室に戻ってきていた。

「奏多、お疲れ様!」

 そう言いながら奏多に視線を向けると、

「ありがとうございます、先生」

 奏多はそう言って万遍の笑みを浮かべていた。

「演奏、すごくよかったよ! 感動した。幸せな気持ちにさせてくれて、ありがとう」

 俺がそう言うと、奏多は目を閉じて演奏をしている時の感覚に浸っているようだった。

「私もすごく、すごく楽しかったです! とても幸せな気持ちになりました。やっぱりここでの演奏はいいですね。初心に帰れるといいますか……先生、私にもう一度チャンスをくれてありがとうございます。今がすごく楽しくて、幸せです!」

 奏多はそう言ってニコッと微笑んだ。

 俺はそう言ってくれる奏多の気持ちが素直に嬉しく思った。

「俺も奏多に負けていられないな。立派な教師になるぞ!」
「ふふ。応援していますよ、先生」

 そして俺たちは微笑みあった。

「いちゃいちゃしてるとこ悪いんだけど、ちょっといい?」

 するとそう言いながら、キリヤたちが職員室にやってきた。

「い、いちゃいちゃなんかしてないぞ!!」

 俺が必死に弁解するもキリヤは聞いておらず、

「あー、はいはい」

 と俺をあしらった。

「おいっ!」
「ふふ。相変わらずキリヤと先生は仲良しですね」

 そう言いながら、笑う奏多。

「それで、みんなどうしたんだ?」

 生徒たちが全員集まってこの場所へ来ていることに俺は疑問を抱いた。

 俺の問いにキリヤは笑顔で、

「奏多の演奏を聴いて、どうしても感想を伝えたいって言っていてね」

 そう言って生徒たちと目配せをする。

 それを聞いた奏多は嬉しそうに微笑むと、

「あらあら。皆さん、嬉しいです。ありがとうございます!」

 顔の前で両手をそっと合わせてそう答えた。

 それから職員室に押し寄せた生徒たちは各々の感想を奏多に伝えていた。その中には優香や真一の姿も。

「優香も来るなんて、意外だな」
「すごく感動したんだって。だからどうしても感想が伝えたいからって来たんだよ」
「そうなんだな」

 そうか、優香も奏多の音のとりこになったわけか。奏多の音の力は本当にすごいものなんだ――と俺は確信した。

 奏多は世界的なバイオリニストになる。俺もそんな奏多に見合う男にならないとな。

 そんなことを思い、生徒たちからの感想を聞いている奏多を見つめていた。

 その後。奏多は一度着替えるために生徒たちと別れ、話の続きは食堂でと言うことになった。

 そして俺も生徒たちと共に、食堂で奏多の着替えが終わるのを待つことにしたのだった。



 俺たちが食堂に行くと、そこにはクリスマスの特別ディナーが用意されていた。

「今日の食事は豪華でござるな!」
 
 そういえばコンサートの準備の時に、今夜は神宮寺家の料理人がクリスマスディナーを作りに来ると言っていたな――。

「神宮寺家のコックさんが、今日のためにわざわざ出向いてくれたらしいぞ。みんな、奏多と神宮寺家の方々に感謝を忘れずにな!」
「「はい!」」

 それから奏多が食堂に来て、クリスマスパーティが始まった。



「このウインナー!! ぷりぷりしていておいしいのですよ!」

 結衣はウインナーを頬張りながら、幸せそうにマリアにそう言った。

「本当? じゃあ私も」

 マリアはそう言って、大皿に乗っているウインナーを自分の皿にのせた。



 クリスマスチキンの前でまゆおと真一が、そのサイズの大きさに驚いて見入っていた。

「真一君! 見てよ!! こんなに大きなチキンが! 僕、こんなの初めてだよ!! でもどこから食べれば……」
「まゆお、うるさい。というか、なんでさりげなく僕の隣に来ているの? 鬱陶しいんだけど」

 真一はそう言ってから、その場を離れた。

「真一君? チキン、食べないのかな。こんなにおいしそうなのに」

 真一の背中を見ながら、しょんぼりするまゆおだった。



「キリヤ君、これ食べますか? あ、こっちも」

 優香はそう言いながら、次々とキリヤの皿に食べ物を乗せていく。

「ありがとう、優香。でも僕、自分で好きなものを取るから大丈夫だよ?」

 キリヤが苦笑いでそう言うと、

「どうせ栄養の偏ったものしか食べないくせに……桑島さんに密告してやる」

 優香はキリヤに聞えない声でそう呟いた。

「え? 何か言った?」
「いいえ! 何にも」

 きょとんとするキリヤに笑顔を作ってそう答える優香。



 俺は食堂を眺めつつ、生徒たちがそれぞれでクリスマスディナーを楽しんでいる様子が伝わった。

「奏多、いろいろとありがとな。みんな、幸せそうだ」
「いえいえ。私は自分ができることをしただけのことです。先生がよくいっていたでしょう? 俺のできることをやっただけだって。それと同じです」

 奏多はそう言って微笑んだ。

「はは。そうか」

 奏多は俺の言葉でそう思ってくれていたなんて……。俺は俺のやれることをやって来ただけだと思っていたけど、ちゃんと誰かのためになっていたんだな。

 そう思うと、嬉しくて笑みがこぼれていた。

 そして奏多は生徒たちの方を見ながら、優しい笑顔で話を続ける。

「長い時間を過ごしてきたこの場所は、私にとっての第二の故郷みたいなものなんですよ。だからここにいる家族たちやこの場所にいろいろと恩返しをしたいと思っているんです」

 俺はそう言う奏多の隣に並び、

「……第二の故郷か。その気持ち、なんだかわかる気がするよ」

 そう言って生徒たちを見つめた。

「うふふ。では、真面目な話はこの辺で……。パーティはまだまだこれからですよ! 最後まで楽しみましょう、先生?」
「ああ!」

 それから俺たちは最後までクリスマスパーティを楽しんだのだった。

 そしてパーティの最後にはマリアにバースデーソングとプレゼントを贈り、今年のクリスマスパーティは幕を閉じたのだった。
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