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第2章 変動

第15話ー⑤ 大事件発生

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 僕の前から狂司がいなくなったが、僕の身体は動かないままだった。

 それに声も出すことができず、僕は助けを呼べない。そして唯一できることと言えば、それは眼球を動かすことくらいだった。

 さっき聞えた地鳴りの正体がわからないまま、僕は緊張感が増す。

 もし別の能力者だったとしたら、僕は非常にまずいことになる。

 足音が徐々に近づいてくる。

 まずい……。どうする……お願い、先生、助けて。

 僕は心の中でそう思った。

 そして足音はすぐそこに迫っていた。

 自分の鼓動の音がいつも以上に大きく聞こえる。

 そして足音の主が姿を現した。

「キリヤ! なんでここに!?」

 なんとその足音の主は先生だった。

 先ほどまで迫ってくる恐怖で緊張していた僕は、先生の顔を見てほっとしたのだった。

「どうしたんだ、キリヤ? もしかして動けないのか?」

 僕は動くことも声を出すこともできない為、先生の問いに返事ができなかった。代わりに僕は唯一動かせる眼球で事態を訴える。

 そしてそれを見て察した先生が、僕の身体に触れた。

 先生が狂司にかけられた能力を解除してくれたおかげで、僕はようやく自由に身体が動くようになった。

「……あ、ありがとう先生。……もうほんとに怖かったよ」
「ごめんな、お前まで巻き込んでしまって……」

 そして僕ははっとした。

「そうだ、優香が囮を!」

 僕は急いで入り口に向かった。

 すると、無傷で息切れ一つなく、こちらに向かってくる優香の姿があった。

「優香!! 大丈夫??」

 僕がそう言うと、優香はいつものようににこっと微笑みながら言った。

「誰に言ってるの? 私は優等生なんだよ? 大丈夫に決まっているじゃない!」
「そっか、よかった……」

 僕のホッとした表情を見た優香は、少し驚いていた。

「そんなに心配してくれたんだ。……ありがとう」
「心配するに決まってるよ! だって優香は大切な仲間なんだから!!」

 その言葉を聞いた優香は、頬が赤くなる。

「どうしたの?」
「何でもない!! それで、そっちはどうだったの? 先生は?」

 僕の後ろから、先生の姿を確認した優香。

 優香は先生を見ると、先ほどまでの勝気な雰囲気から、おしとやかな雰囲気に変わっていた。

「先生、ご無事で何よりです」
「優香、ありがとな。大丈夫か?」

 先生の問いに、笑顔で答える優香。

「ええ。大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます」
「そうか、よかった……」
「さあ、施設に戻りましょう? みんな、きっと心配していますよ」

 そして僕たちは施設に戻っていった。



 キリヤと別れた狂司は、裏口から外に出ていた。

「やっぱり無理だったでしょ、狂司」

 そこに広がっている林の木の陰から、一人の少年が出てくる。

 その少年は深緑のパーカーにフードを深く被り、ポケットの中に手を入れていた。


「カケル先輩……。そうですね。あの人がお人よしすぎなのか、それとも僕の戦略が甘かったのか。どっちにしてもアンチドーテの一員として、不甲斐ないです……」

「そんなことないさ。狂司はよくやっていたと思うよ。今回は仕方がなかったんだ。あの人はそう簡単に仲間を裏切るなんてできないだろうからね。……さあ戻ろう。ドクターが待っている」

「はい」

 そして二人は、林の中へ消えていった。
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