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第3章 完結編

第6話ー② 新世界

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 午前の講義を終えたキリヤは優香と合流をし、マリアが言っていたクラブの集まりに向かった。

「今日って何の集まりだっけ?」

 キリヤがそう尋ねると、優香は呆れた顔をする。

「忘れたの? 暁先生の結婚祝いをどうするかって話じゃない」
「先生が結婚!?」

 まさか、そんなことが……いや、あっちの世界でも十分ありそうなことではあったけど。相手は誰なんだろう――

「ね、ねえ。先生の相手って……」
「はあ? それも覚えていないの? ねえ、いったい何? 記憶喪失か何かなの?」
「え、あの……」

 うん。大体あってる。でも、ちょっと違うんだよな――

「神宮寺さんでしょ? ずっと先生と付き合っていたじゃない」
「あ、そ、そうだよね! あははは……」

 キリヤはそう言って頭の後ろを掻いた。

 でも良かった。先生が他の人と結婚しなくて――そんなことを思い、ほっと胸を撫でおろすキリヤだった。

「あ、もうみんな来ているみたい! 急ぎましょ」
「うん」

 そしてキリヤは集合場所のファミリーレストランの駐車場で、クラブのメンバーと対面した。

 クラブのメンバーって、みんなS級クラスで一緒だった生徒たちじゃないか――

 そう思いながら、そこに集まる生徒たちを見つめるキリヤ。

「キリヤ君、何驚いてんの?」

 いろはがそう言ってキリヤの隣にやってきた。

「え、ええと……あはは」
「何、その反応! ちょっと面白いじゃん!! あははは!」
「あ、ありがとう……」

 いろははこの世界でもちゃんといろはなんだ。でも前より少し成長して大人っぽくなってるなあ――

 そう思いながら、まじまじといろはを見つめるキリヤ。すると、

「キリヤ君。変な顔でいろはちゃんのこと、見てない?」

 むっとしたまゆおがそう言ってキリヤの目の前に現れる。

「そんなことないよ! ただ大人っぽくなったなと思ってさ!」
「……先週も会ってるよね? そんなに変化を感じるもの、かな」

 そう言ってまゆおは疑いの目をキリヤに向ける。


「なんていうか、見るたびに綺麗になっているねってこと! それと、まゆおからいろはを取ろうなんて思ってないから、そんな目しないでくれよ――」

「は、はあ!? いろはちゃんは、僕だけのものじゃないよ! ああでも、ものって言い方は悪いよね。ええっと……いろはちゃんはみんなのいろはちゃんだけど、僕とはその、ちょっと特別なだけだから――って何言わせるんだよ、キリヤ君!」


 まゆおは顔を赤くしてそう言うと、キリヤの背中をバンっと思いっきり叩く。

「ててて……」
「あ、ごめんね」
「うん、大丈夫」

 かなりの力だったな……きっとこの世界のまゆおも剣道をやっていて、大学で活躍とかしているんだろうな――

 そんなことを思いながら、まゆおを見つめるキリヤだった。

「じゃあ他のみんなは後から合流するから、先に始めよう」

 マリアがそう言うとキリヤたちは頷いて、店内へと入っていった。

 それから数時間、キリヤたちは暁と奏多の結婚祝いのためのイベントを考えた。

 時間が経つごとに遅れて生徒が到着し、気が付くととても賑やかな空間になっていた。

 前の世界に戻らなくても、ここにはみんながいるんだ――

 キリヤはそう思いながら、楽しくその時間を過ごしたのだった。

 そして20時を過ぎると、この日の打ち合わせは終了となり解散することになった。

「じゃあ、みんな! 待ったね~!」

 いろははそう言ってまゆおと一緒に帰っていき、他のメンバーもそれぞれの家に戻っていった。

「優香はどうする? 今日は家に泊っていく?」

 マリアがそう言うと、

「いいえ。母も待っているので、今日は帰ります」

 優香は笑顔でそう答えた。

「そっか!」
「じゃあ僕、家まで送っていくよ! こんな暗いし、一人で帰すのも心配だから」
「わかった! じゃあ帰り遅くなるってお母さんたちに伝えておく。じゃあ、ごゆっくり!」

 そしてマリアは待っていた結衣と織姫の元へ向かった。

「じゃあ行こうか」
「うん」

 それからキリヤたちは静かな夜道を歩きだす。そしてしばらく歩き、少し休憩しようと近くの公園のベンチで座った。

 なんか緊張するな。何か話題を――

 そう思ったキリヤは話題がないかと頭を巡らせ、優香の方をちらりと見つめた。

 そしてキリヤは優香の腕にお揃いのバングルがないことに気が付く。

「優香、バングルは……?」
「バングル?」

 そう言って首をかしげる優香。

「こ、これ!」

 キリヤはそう言って腕にあるバングルを優香にみせた。

「何もないけど、何?」
「え……?」

 そう言われたキリヤは自身の腕を見るが、優香に言われた通り、そこにバングルはなかった。

 外した覚えはないんだけどな――

 そう思いながら、キリヤはバングルがあったはずの腕を見つめる。

「ねえ、やっぱりキリヤ君変じゃない? どうしたの? 何かあった……?」
「え……えっと。それは……」

 ここじゃない別の世界から来ました! なんて言っても信じてもらえないんだろうな。でも僕が別世界から来たって言うのなら、やっぱりバングルがないのはおかしいよ。じゃあ、今までのこの記憶は――?

「キリヤ君?」

 そう言われたキリヤははっとして、優香の方を見る。

 すると、優香は心配そうな顔でキリヤを見つめていたのだった。

 僕が変なことを言うから、心配させちゃっているんだ――

「ごめんね、もう大丈夫だから。たぶん、僕は長い夢を見ていたのかもしれない」
「夢……?」

 優香はきょとんとした顔でそう言った。

 あるはずだったバングルがそこにない、それは僕が現実だと思っていた世界がきっと夢だったからなんだ。あのバングルは夢の中で僕がもらったもの、だから今までのこの記憶は――

「そう。ここじゃない別の世界にいて、それで不思議な力を使って戦ったりする夢」

 そう言って、キリヤは笑った。

「ふふふ。それは流山るやまさんが好きそうな設定だね」
「でしょ? 長い長い時間、その夢を見ていたからなのかな。僕は何か勘違いをしていたみたいだ」
「勘違いって?」

 優香が首を傾げながらそう言うと、

「僕はここでずっと生きてきたはずなのに、違う世界の人間なのかもって思ってしまう勘違い」

 キリヤは空を見上げてそう告げた。


「へえ」

「ここにはみんなもいて、優香もいる。いつまでも夢の世界のことを引きずってはいられない、よね」

「……それが夢かどうかはわからないけど。私は糸原優香で、今ここで生きていて、そしてキリヤ君と付き合っている」

「うん……」


 でも、まだ少し……どれが夢で何が現実なのか混乱してる。僕は、本当にこの世界にいたんだろうかって――

 キリヤはそう思い、俯いた。

 すると、そんなキリヤを見た優香は、そっとキリヤを抱きしめ、

「キリヤ君、私はここにいる。君もここにいる。これが真実だよ。だから、大丈夫」

 優しい声でそう言った。

「……うん」
「ここなら朝の続き、できるんじゃない?」
「そう、だね」

 それからキリヤと優香は唇を重ねたのだった。
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