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第3章 完結編

第4話ー② その始まりを知って

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 ――キリヤの個室。

「優香、大丈夫かな。先生も龍海も……」

 キリヤはそんなことを呟きながら、ベッドに寝転んだ。

「僕ができること、か」

 できることって、何があるんだろう――

 能力者であるキリヤは今回の件には不干渉でいることを所長から言い渡されて、特にやることもなく自室にいたのだった。

「優香、無理していないかな。もしかして、もう二度と会えないなんてことは――」

 それからキリヤは優香からもらったお揃いのバングルを見つめる。

「繋ぐものって言ってたな。そうだよね、これが最後の別れなんかじゃない!」

 そしてキリヤはベッドから起き上がる。

「僕が今できること……『ゼンシンノウリョクシャ』についてもっと調べよう。そうしたら、優香がヒトで居続ける方法が見つかるかもしれないから!」

 それからキリヤは『ゼンシンノウリョクシャ』について調べ始めた。

 数時間後――

「こんなに情報ってないものなの……?」

 キリヤはそう言いながら、机に突っ伏して座っていた。

「拓真さんってすごいんだな」

 情報担当って普段何をしているんだろうと思っていたけど、でもこんなに情報収集が大変だったなんて――

「はあ。ちょっと気分転換でも……」

 そう言ってキリヤは自室を出た。

「確か、今日の夕方から優香たちのことでミーティングをするって言っていたよね……僕も参加したかったな」

 そしてぶらぶらと研究所の廊下を歩いていると、正面から見知らぬ男性と深緑のパーカーを着た少年が歩いてきた。

「久しぶりだね、キリヤ君」

 キリヤの方を見て、そう言う少年。

「うん。久しぶり、翔君」
「やあ。ここでは初めましてだね、キリヤ君」
「……は、はじめまして」

 誰だろう……しかも『ここでは』ってことは、僕はこの人とどこかで会っているってことなのかな――?

「あの、今日は何か用があって来たんですか」
「そうだね」
「そう、ですか」

 まあそうですよね。でもその何かを僕に教える気はなさそうだな――

「君はこんなところで何をしているんだい?」
「え……? えっと、僕はちょっと調べ事をしていたんですけど、ちょっと行き詰ったので気分転換に」

 僕、なんで素直に言っちゃっているんだ――!?

 そんなことを思い、ハッとするキリヤ。

「ははは。君は素直だな。そうか」
「調べ事って『ゼンシンノウリョクシャ』の?」

 翔は真剣な表情でキリヤの方を見た。

「う、うん。どうにかして、優香を救いたいって思ったから。だから僕は今できることをしようって思って」
「そうか……君は『ゼンシンノウリョクシャ』について調べていたんだな」

 そう言って感心しながら頷く男性。

「あ、はい……」
「ドクター、あのことを話すんですか?」

 あのこと――? そう思いながら、首をかしげるキリヤ。

「彼はそれを知る器と権利があると私は思うからね」

 そう言って翔に微笑むドクター。


「ドクターがそう言うなら、僕は何も言いません」

「えっと、それでその……」

「ああ、すまないね! 君が知りたがっている『ゼンシンノウリョクシャ』のこと……というか『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の事かな」

「……え?」

「と言っても、私がここで話すと時間がかかってしまいそうだから、ここへ行ってみると良い」


 ドクターはそう言いながらメモ帳に何かを書きとめると、そのメモ用紙をキリヤに渡した。

「ここは……?」
「『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』のことを教えてくれる。そして君が知りたがっている『ゼンシンノウリョクシャ』のことも」
「あ、ありがとうございます!」

 そう言ってそのメモ用紙を見つめるキリヤ。

 これで、優香のことを救えるかもしれない――!

 それからキリヤはゆっくりと男性の方に顔を向けた。

「あの……名前聞いてもいいですか?」
「ん? ああ、えっと私は桐谷きりたに篤志あつしだ。『アンチドーテ』をまとめていたものだよ」

 篤志の言葉を聞いてはっとするキリヤ。

『アンチドーテ』の……!? いや、それでも僕はこの人に感謝しなくちゃならない。だって、八方ふさがりだった道を示してくれてくれたんだから――

 それからキリヤは篤志の顔をまっすぐに見ると、

「桐谷さん……ありがとうございます! 僕、さっそくここへ行ってみますね!」

 そう言ってお辞儀をして、その場を後にした。

 それからキリヤは急いで自室に戻り、荷物をまとめると研究所を飛び出す。

「何も言わずに出てきちゃったけど、あとで謝ろう」

 そしてキリヤは電車に乗って、メモに書かれている場所へと向かったのだった。



「ここ、かな?」

 キリヤは電車を降りて、駅のホームできょろきょろとしながらそう呟いた。

「スマホに住所を入れて……って、え!? 周りに何もない!?」

 それからため息を吐き、キリヤは駅の改札を潜った。

「まずは近くまで行ってみよう。バス乗り場は――」

 そしてキリヤは公共交通機関を利用して、メモにあった目的地へと到着した。

「ずいぶん古いつくりみたいだね……」

 キリヤは、目の前のある今にも崩れそうな神社を見てそう呟く。

「あれ、もしかしてお参りですか?」
「え?」

 キリヤはその声の方へ振り向くと、そこには巫女服を着た少女が微笑みながら立っていた。

「あ、えっと。お参りってわけじゃなくて……」

 キリヤがそう言うと、少女は首をかしげる。

 もしかして不審に思われたかな……桐谷さんはここで『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』のことを教えてもらえるって言っていたけれど――

「おや、お客さんかい?」

 そう言って境内の方から神社の神主らしき男性が姿を現した。

「あ、お父さん! そうだけど、そうじゃないみたい」
「どういう事だ?」
「あ、あの……僕、とある人に言われてきたんです。ここで『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』のことを教えてもらえるからって」

 キリヤの言葉を聞いて、神主は驚いた顔をする。

「……そのことを、誰から聞いたんだい?」
「桐谷、篤志さんから――」
「ああ、そうか! 篤志からか。懐かしい名前だな……」

 嬉しそうにそう言う神主。

 よかった。桐谷さんのことを知っているんだ――

 そう思い、ほっとするキリヤ。

「あの、それで……」
「わかった。でもここじゃ何だし、中で話そうか。そろそろ日も暮れてくる頃だしね」

 そう言って微笑む神主。

「はい! ありがとうございます!!」
環奈かんなは母さんと一緒に晩御飯の用意を頼んでいいかい? えっと」
「あ、キリヤです! 桑島キリヤと申します!」
「うん。キリヤ君の分も」
「はあい」

 それからキリヤは神主の家に招かれ、食卓を囲んでいた。

 キリヤの正面には先ほどの巫女服を着ていた少女、環奈とその母親。そしてキリヤの隣には神主の男性が座り、食事を楽しんでいた。

「――でも、お客さんなんて何年振りかしらあ。昔は賑やかだったんだけどねえ。とにかくキリヤ君はたくさん食べてね!」

 嬉しそうにそう言う環奈の母。

「はい、ありがとうございます」
「あ、ねえねえ! キリヤ君って何歳なの? 彼女とかいる!?」

 環奈が前のめりでキリヤにそう尋ねた。キリヤはその問いに目を丸くして、手を止める。

「こら、環奈! お客さんに失礼だろ!!」
「えー。だってキリヤ君、かっこいいから」

 そう言って唇を尖らせる環奈。

「あはは……まあ彼女はいないけど、大切に思っている人はいるかな」

 キリヤはそう言って微笑んだ。

「へえ。いいわねえ。その話、詳しく聞かせてくれる!? いくつになってもコイバナってドキドキするわぁ」
「あー、わかる~!!」

 キリヤの目の前でキャッキャッと嬉しそうに話す環奈と環奈の母。

「な、なんでそういうことに!?」

 それからキリヤは環奈と環奈の母の質問攻めに遭いながら、夕食を終えたのだった。
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