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第3章 完結編

第2話ー⑬ 湖畔の罠

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 数時間後。八雲の乗った車が、「ふじやま」に到着した。

「八雲さん! 遠路はるばるすみません。いつもありがとうございます!」

 キリヤはそう言って、八雲に頭を下げた。

「いやいや! いいんだよ。今日は会いたい人もいたからね」

 八雲さんの会いたい人――? その言葉にきょとんとするキリヤ。

 そして民宿から宿主が出てくると、

「祖母ちゃん、久しぶり!」

 満面の笑みでそう言う八雲。

 今、祖母ちゃんって――?

「あらぁ。やっくん、久しぶりねえ。元気にしてたかい?」
「うん! 祖母ちゃんは?」
「私はこの通りよ」
「そっか! 元気そうで何よりだよ、あはは!」

 八雲たちのやり取りを見ていたキリヤはきょとんとしていた。

 もしかして、ここって――

「あ、あの八雲さんって、もしかして宿主さんのお孫さん……?」
「そうだよ? あれ、所長から聞いていていないかい?」
「き、聞いていないです……」

 なんでそんな大事なことを言ってくれなかったんだ! 粗相がなければいいけど――

 そんなことを思い、来てからの行動を振り返るキリヤだった。

「今日はお仕事なんだよねえ。じゃあゆっくりできんねえ」
「そうだね。でもまた遊びに来るよ。今度は社員旅行で! またこの子たちを連れていくからね!」
「楽しみにしているからねえ」

 そう言って優しく微笑む宿主。

「うん! じゃあ帰ろうか。えっと、優香さんは?」
「今、呼んできます!」

 そう言ってキリヤは優香を部屋へ呼びに行った。

 それから一緒に民宿から出て来るキリヤと優香。そして優香の背中には、龍の少女の姿もあった。

「ねえ、僕が背負うよ?」
「ううん。私の方が体力あるし。それに年頃の女の子の身体を触らせるなんて、させたくないから」

 そう言って、頬を膨らませる優香。

 僕って、そんなに男としての信用がないのかな……昨夜のこの子がどこで寝るのかって話もそうだけどさ――

 そう思いながら、ため息を吐くキリヤ。

「わかりました。優香に任せるよ」

 そして優香たち少女を車に乗せた。

 それからキリヤと優香は見送りに来ている宿主の元へ向かい、

「あの、いろいろとありがとうございました。また来ます! 今度は仕事ではなく、旅行で」

 優香は笑顔でそう言った。

「ええ、お待ちしておりますね」

 微笑みながらそう答える宿主。

「僕も、今日までありがとうございました! お世話になりました! それとバングルもありがとうございます」

 キリヤがそう言うと、

「うふふ。大切に着けてね。きっと、あなたたちを繋ぐものになるから」

 宿主は優しい笑顔でそう言った。

「ありがとうございます!」

 繋ぐもの、か。そうかもしれない――そんなことを思いながら、自分と優香のバングルを交互に見つめるキリヤ。

 それからキリヤたちは車に乗り込み、民宿を後にしたのだった。



『ゼンシンノウリョクシャ』の存在、そして『エヴィル・クイーン』の魔女の今。謎がまた増えたけれど、きっと大丈夫。優香と一緒なら、僕はどんな問題も乗り越えていけるはずだから――

 そんなことを思いつつ、キリヤは隣で窓の外を眺める優香の横顔を見つめたのだった。
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