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第2章 魔女たちの暗躍編

エピローグ

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 ――『アンチドーテ』の住処。

「帰ったよ」
「ドクター、おかえりなさい。その子は?」

 翔は部屋に入ってきたドクターと呼ばれた男性、篤志と知らない少年の姿を見て、首をかしげながらそう言った。

「ああ、『エヴィル・クイーン』に誘拐されていた子供の1人、かな」
「へえ。そっか」

 そう言いながら、少年を見つめる翔。

「仲良くしてやってくれ。ああ。そういえば、狂司はどうしている?」
「今は出かけてる。すぐに帰ってくるって言っていたよ」
「そうか」

 そして篤志は近くにある椅子に腰をおろした。

「それで、魔女の件はどうなった?」
「ああ、私の能力で分解したよ。これでもう魔女が何かを仕掛けてくることはないだろう」
「そっか。やっと、終わったんだね……」

 そう言って微笑む翔。

「翔はこれからどうするんだい? もう『アンチドーテ』にいる理由もないだろう?」
「『アンチドーテ』にいる理由はないけれど、ドクターと一緒にいる理由はあるから。僕はずっとドクターについていくよ」
「でもそれじゃ、当たり前の日常はやってこないけれど、それでいいのかい?」

 篤志は悲し気な顔でそう言った。

「うん。僕はあの家と本当の家族を捨てた時から、ドクターと一緒に生きることが決まっていたんだと思うんだ」

 あの家……それはきっと翔を養子にもらった家のことを差しているんだろうな――


「お兄さんのいる施設にはいかなくてもいいのか?」

「……暁兄さんは、もう僕の兄さんじゃないからね。僕はドクターの子供。だから三谷家の子供じゃなくなったんだ。それと僕を利用した養子先のあの家の子供でもない」

「翔……そうか。君がそれでいいのなら、私もいいと思うよ」


 そう言ってドクターは翔に笑いかけた。

「ありがとう、ドクター」
「そうだ。狂司はどうしようか。『エヴィル・クイーン』がなくなれば、もう狂司も『アンチドーテ』にいる理由はないだろう?」

 篤志が顎手を添えてそう言うと、

「狂司はS級クラスの施設にいた。だったら、そこに戻してあげよう。狂司には僕とは違って、ちゃんとした人生を歩んでほしいから」

 翔はそう言って微笑んだ。

 篤志は、翔のその言葉から兄としての意思のようなものを感じていたのだった。

「そうだな。狂司はまだ若いし、これからいくらでも人生の修正が聞くだろう。じゃあ私がなんとかS級施設に行けるようにしておく。だから翔は狂司の説得を頼んだよ?」
「うん」

 それから少しだけ会話をした後、翔はドクターが連れてきた少年を連れて部屋を出て行った。

 そして1人になった篤志は、コーヒーを入れる。

「……翔に嘘をついてしまったな」

 カップに入ったコーヒーを見つめながら、篤志はそう呟いた。

 本当はまだ終わってはいない。これからが本当の戦いになるだろう。恵里菜の残した子供たちはきっとこの先に何かを起こすはず――

「あの時に私が彼女に声を掛けなければ、こんな世界にはなっていなかったのだろうね」

 篤志は未来の世界で起こった出来事をふと思い出した。



『ねえ、どうしたの?』
『退屈なの。こんな予定調和の世界、楽しくないなって思って』
『そうだ――じゃあ僕が面白い世界を見せてあげるよ!』

 そして篤志と恵里菜、恵里菜の幼馴染の隼人の3人は過去へ飛んだ――。



「今更後悔しても遅いんだがね……だからこそ、私が終わらせなければ」

 そしてコーヒーを飲み終えた篤志は部屋を後にしたのだった。
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