92 / 126
第2章 魔女たちの暗躍編
第6話ー⑫ 訪問者
しおりを挟む
「あ……僕から、もう一つだけ聞かせて」
キリヤはそう言って一歩前に出る。
「ああ、いいぞ」
「君は、破道慎太って少年のことは知ってる?」
キリヤがローレンスの顔をまっすぐに見てそう言うと、ローレンスは腕を組み、
「――うーん、知らねえな。キキの実験に俺は関わっていなかったからさ」
首をかしげながらそう答えた。
「そっか」
同じ組織にいても、すべての情報を共有しているわけじゃないんだ――
そう思いながら、肩を落とすキリヤ。
「そいつがどうしたんだ?」
「うん……『林檎の雫』を飲まされた僕の友人さ」
キリヤはそう言って拳を握る。
「それは、悪いことをしたな。……すまなかった」
そう言って頭を下げるローレンス。
「謝って許されることじゃないんだろうけど、俺にはただ仲間のした不当な行いを謝罪することしかできねえ……」
そんなローレンスを見たキリヤは、彼がキキやほたるとは違う感覚を持っているように思った。
「――いいよ。君が悪いわけじゃないからね」
そう言ってキリヤは笑顔を作り、ローレンスの方を見た。
「お前、友達思いなんだな。……そうだ、友達を言えば! 剛はどうしてる? お前の友人なんだろ??」
「あ、うん。今頃部屋に籠って受験勉強かな。剛は教師を目指しているからね」
「憧れの先生と同じ教師ってか?」
ローレンスはニヤリと笑いながらそう言った。
もしかして剛から、暁先生のことを聞いたのかな――?
そう思ったキリヤは、
「……そうだよ。その先生は僕にとっての憧れでもあるんだけどね」
笑顔でそう答える。
「へえ。お前たちが言う、その『先生』に会ってみたいもんだな。そうしたら、俺も何かが変わる気がする」
そう言って、ふっと笑うローレンス。
「ほう……うん。いいな、それ! 君もあの施設に行ってみたらいい。きっと暁君から得るものは大きいはずだからね!」
所長の唐突な提案に目を丸くするキリヤとローレンス。
「い、いいんですか!? だって以前施設を襲撃した組織の仲間なんですよ? 今の施設の生徒たちに影響があるんじゃ……」
「大丈夫さ! 暁君が生徒たちを守ってくれるだろうし、それに――」
ニヤリと笑う所長。
それに……? 一体、所長は何を考えているのかな――と所長の笑顔を見ながらそう思うキリヤだった。
「じゃあ、今日はこの辺にしよう。ありがとう、ローレンス君」
「礼を言われることは何もしてないよ」
「でもありがとう、だ」
そう言って所長はローレンスに微笑んだ。
「お、おう……」
それからキリヤと所長が隔離部屋を後にしたのだった。
――『グリム』基地内、廊下にて。
キリヤと所長は、ミーティングルームを目指して歩いていた。
そして、ローレンスは素直に何でも話してくれたな――そう思いながら、先ほどまでの出来事を思い返す。
それから最後に所長が言っていたことを思い出したキリヤは、
「あの、さっきの言葉の続きって……?」
前を歩く所長にそう尋ねた。
「ああ、施設の件だな。実は、剛君にはそろそろ施設に戻ってもらおうかなと思っていてね」
「え? どうして急にそうなったんですか?」
そう言って首をかしげるキリヤ。
「……君も彼に自分のことを隠すのが難しくなってきているだろう? 今回のことできっと彼は何か思うところがあるはずだ」
「――はい」
キリヤはそう言って、俯く。
「能力者だと言っても、剛君は一般人だ。彼をこれ以上巻き込まない為に、これは必要な措置だと思うけど……どうだい?」
確かに所長の意見も一理ある。これ以上剛が研究所にいれば、きっと僕の仕事に気が付くかもしれない。
そして仲間想いの剛のことだから、自分も手伝うと言い出すだろう。やっと目を覚まして、また夢を追おうとしている剛の邪魔を僕はしたくはない――
そう思ったキリヤは「うん」と頷き、
「僕も賛成です。それに先生の元にいたほうが、きっと剛も学べることが多いと思いますし」
笑顔でそう言った。
「じゃあ、さっそく剛君の件は伝えておくよ。それとローレンス君のことは、検査を終えたら伝えるとしよう」
「はい、よろしくお願いします」
「ああ」
それからキリヤたちはミーティングルームに戻って行ったのだった。
研究所に訪れた『エヴィル・クイーン』に所属する子供たち。そして明らかになった事実。
魔女がなぜ僕を狙っていたのかという理由はよくわからなかったけれど、その魔女はもういない。だからそれは解決する必要のないことなのかもしれないね。
そして今回の件が解決したことで、今後は少しでも能力者の事件が減ればいいなと僕は思っている――。
キリヤはそう言って一歩前に出る。
「ああ、いいぞ」
「君は、破道慎太って少年のことは知ってる?」
キリヤがローレンスの顔をまっすぐに見てそう言うと、ローレンスは腕を組み、
「――うーん、知らねえな。キキの実験に俺は関わっていなかったからさ」
首をかしげながらそう答えた。
「そっか」
同じ組織にいても、すべての情報を共有しているわけじゃないんだ――
そう思いながら、肩を落とすキリヤ。
「そいつがどうしたんだ?」
「うん……『林檎の雫』を飲まされた僕の友人さ」
キリヤはそう言って拳を握る。
「それは、悪いことをしたな。……すまなかった」
そう言って頭を下げるローレンス。
「謝って許されることじゃないんだろうけど、俺にはただ仲間のした不当な行いを謝罪することしかできねえ……」
そんなローレンスを見たキリヤは、彼がキキやほたるとは違う感覚を持っているように思った。
「――いいよ。君が悪いわけじゃないからね」
そう言ってキリヤは笑顔を作り、ローレンスの方を見た。
「お前、友達思いなんだな。……そうだ、友達を言えば! 剛はどうしてる? お前の友人なんだろ??」
「あ、うん。今頃部屋に籠って受験勉強かな。剛は教師を目指しているからね」
「憧れの先生と同じ教師ってか?」
ローレンスはニヤリと笑いながらそう言った。
もしかして剛から、暁先生のことを聞いたのかな――?
そう思ったキリヤは、
「……そうだよ。その先生は僕にとっての憧れでもあるんだけどね」
笑顔でそう答える。
「へえ。お前たちが言う、その『先生』に会ってみたいもんだな。そうしたら、俺も何かが変わる気がする」
そう言って、ふっと笑うローレンス。
「ほう……うん。いいな、それ! 君もあの施設に行ってみたらいい。きっと暁君から得るものは大きいはずだからね!」
所長の唐突な提案に目を丸くするキリヤとローレンス。
「い、いいんですか!? だって以前施設を襲撃した組織の仲間なんですよ? 今の施設の生徒たちに影響があるんじゃ……」
「大丈夫さ! 暁君が生徒たちを守ってくれるだろうし、それに――」
ニヤリと笑う所長。
それに……? 一体、所長は何を考えているのかな――と所長の笑顔を見ながらそう思うキリヤだった。
「じゃあ、今日はこの辺にしよう。ありがとう、ローレンス君」
「礼を言われることは何もしてないよ」
「でもありがとう、だ」
そう言って所長はローレンスに微笑んだ。
「お、おう……」
それからキリヤと所長が隔離部屋を後にしたのだった。
――『グリム』基地内、廊下にて。
キリヤと所長は、ミーティングルームを目指して歩いていた。
そして、ローレンスは素直に何でも話してくれたな――そう思いながら、先ほどまでの出来事を思い返す。
それから最後に所長が言っていたことを思い出したキリヤは、
「あの、さっきの言葉の続きって……?」
前を歩く所長にそう尋ねた。
「ああ、施設の件だな。実は、剛君にはそろそろ施設に戻ってもらおうかなと思っていてね」
「え? どうして急にそうなったんですか?」
そう言って首をかしげるキリヤ。
「……君も彼に自分のことを隠すのが難しくなってきているだろう? 今回のことできっと彼は何か思うところがあるはずだ」
「――はい」
キリヤはそう言って、俯く。
「能力者だと言っても、剛君は一般人だ。彼をこれ以上巻き込まない為に、これは必要な措置だと思うけど……どうだい?」
確かに所長の意見も一理ある。これ以上剛が研究所にいれば、きっと僕の仕事に気が付くかもしれない。
そして仲間想いの剛のことだから、自分も手伝うと言い出すだろう。やっと目を覚まして、また夢を追おうとしている剛の邪魔を僕はしたくはない――
そう思ったキリヤは「うん」と頷き、
「僕も賛成です。それに先生の元にいたほうが、きっと剛も学べることが多いと思いますし」
笑顔でそう言った。
「じゃあ、さっそく剛君の件は伝えておくよ。それとローレンス君のことは、検査を終えたら伝えるとしよう」
「はい、よろしくお願いします」
「ああ」
それからキリヤたちはミーティングルームに戻って行ったのだった。
研究所に訪れた『エヴィル・クイーン』に所属する子供たち。そして明らかになった事実。
魔女がなぜ僕を狙っていたのかという理由はよくわからなかったけれど、その魔女はもういない。だからそれは解決する必要のないことなのかもしれないね。
そして今回の件が解決したことで、今後は少しでも能力者の事件が減ればいいなと僕は思っている――。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる