43 / 126
第2章 魔女たちの暗躍編
第1話ー② 途絶えない未来
しおりを挟む
帰宅した剛は、部屋のベッドの上に寝転んだ。
いつものベッド、いつもの部屋のはずなのになぜかしっくりこないと感じる剛。
なんだか違うんだよな。いつもと何かが違う気がする――そう思う剛だったが、やっぱりその理由はわからなかった。
「なんなんだ……? 俺はいったいどうしたって言うんだよ」
ため息交じりにそんなことを呟く剛。
でもこの状況、前にあったような――?
剛はそう思いつつも、その状況を思い出せなかった。
「ま、気のせい……かな」
そうして剛はベッドに顔をうずめる。
「俺、何か大切なことを忘れているような気がするんだよな……それに、なんだか嫌な予感が――」
剛がそう思った時、消防車のサイレンが外から聞こえた。
「サイレン? それに嫌な予感が当たって……」
そしてこの消防車が向かう先を剛はなんとなく知っていた。
「行ってみよう。きっとこの嫌な予感だって、何かの気のせいだ!」
それから剛はその消防車を追うように家を出て、嫌な予感のするその場所へと向かった。
そしてその場所にたどり着いた剛は呆然とする。
「やっぱり……」
猛々と燃え盛る炎。そしてその周りには、多くのギャラリーの姿。
この後、母親が泣き叫びながら出てくる――
「離してください!! まだ……まだ家の中に子供が!!」
剛の思った通り、泣き叫びながら消防官に肩を支えられつつ出てくる女性がいた。
この人はアカネの母さんだ――。
剛は冷静にそう思い、アカネの母を見つめていた。
「落ち着いてください!! 今、助けに向かいますから!!」
消防官はなだめるように、アカネの母にそう告げた。
ダメだ……この家はもう――
そして消防官が突入準備をしていると、そこにあった建物は崩れ落ちた。
「アカネ!! アカネえええええ!!」
そこには焼け崩れた家に残る炎の燃える音とアカネの母の悲痛な叫び声だけが聞こえていた。
それを見ていた剛は、足が震えて動くことができず、その場で立ち尽くすしかなかった。
なんで俺はこうなることを知っていた――?
その恐怖と目の前で起こった出来事に剛は動揺していた。
そして炎が鎮火されたあとアカネの死体は、その焼け跡から出てきた。
「困ったら助けるって、何でも頼ってくれって言ったのに、俺はまた何もできなかったのか……」
しかし剛はアカネの死を知っても、涙が出てこなかった。
これは初めてじゃない。前に一度、同じことが……もしかして、これは俺の記憶――?
ふとそんなことを思う剛。
それから今回の火事はアカネの父が吸いかけのたばこを放置したことによる不始末が原因だという事が判明した。つまりアカネは父親に殺されたという事だった。
そしてそれを知った俺は、自分があの時父親にガツンと言えていたら、燃えている家の中に入っていけたらとそう言って自分を責めて、力を求めるようになるはず――。
剛はアカネを救えずに荒んだ日々を送っている自分を俯瞰的に見ていた。
それはまるで目の前で起こっていることが誰かの人生を動画で見せられているようで、自分のことのはずなのになぜか当事者ではないような感覚で日々が過ぎていった。
アカネを救えなかったのは自分の心の弱さのせいだ――そう思ってその弱さを隠すように生きていくことになる剛。
そしてアカネの死から数か月後、剛は『白雪姫症候群』に目覚める。
「この力があれば、俺はもう弱くない……。S級クラスの俺は、最強だ。これで大切な人を失うことはない!!」
当時の俺は、この強大な力で大切な人たちを救えると信じて疑わなかった。でも――
『お前は弱い。自分の弱さに気が付けないままじゃな』
俺が弱い……? そんなはず!!
でもその人のいう事は正しかった。俺はずっと自分の弱さを隠して生きてきた。自分の弱さを認めてこなかったんだ――。
『俺は本当の強い人間になりたい!!』
気が付くと真っ暗な空間に剛はいた。
「ここはどこだ……?」
そう言ってキョロキョロと周りを確認する剛。
『なあ、お前は本当に強くなれるのか? 結局は先生に頼り切りだったんだろ。お前ひとりじゃ、何にもできなかった』
「え、俺……?」
剛は目の前に立つ、もう一人の自分を見て目を丸くする。
でも確かにこいつの言う通りだ。俺は俺一人では何もできなかった。だから受験勉強でもうまくいかずに――。
そう思いながら、俯く剛。
『このままここにいたらいい。ここなら何度もアカネは生き返る。それにお前がアカネを救う道だってあるかもしれないだろう』
「このまま……」
『そうだ。辛い過去を抱えたまま、生きていたくないだろ? だから、ここにいるのがお前のためさ』
確かに、俺の言う通りかもしれないな。このままここで過ごして、アカネを今度こそ助けるんだ――。
『あっちの世界は辛いことばかりだから』
そう言って笑う、もう一人の剛。
「確かに、そうかもな。俺がいた世界は辛いことばかりだったよ」
そう呟きながら、眠る前の世界のことを思い返す剛。そして初めて会った時の暁の姿を思い出す。
そうだよ。俺も先生みたいな教師になりたくて――
「……すまんな、俺。やっぱりここにはいられない。だって、俺は暁先生みたいな教師になりたいんだからさ」
そう言って、剛はもう一人の剛ににやりと笑いかける。
『……そっか。お前はその道を選ぶんだな。後悔は、ないのか?』
もう一人の剛は心配そうに、剛に問いかけた。
「大丈夫さ。俺は火山剛だぜ! こんなところで燃え尽きるわけないだろ?」
『ははっ。それもそうか!』
そう言って、剛たちは笑いあった。
『もう一人の俺、そろそろ起きる時間だ。もうこっちに来るんじゃないぞ』
「おう! ……なあ。そういえば、ここって一体どこなんだ?」
剛がそう問うと、もう一人の剛は、
『お前の心の中だよ』
と言いながら、笑って消えた。
「心の中……そうか」
そして剛の視界が真っ白になった。
いつものベッド、いつもの部屋のはずなのになぜかしっくりこないと感じる剛。
なんだか違うんだよな。いつもと何かが違う気がする――そう思う剛だったが、やっぱりその理由はわからなかった。
「なんなんだ……? 俺はいったいどうしたって言うんだよ」
ため息交じりにそんなことを呟く剛。
でもこの状況、前にあったような――?
剛はそう思いつつも、その状況を思い出せなかった。
「ま、気のせい……かな」
そうして剛はベッドに顔をうずめる。
「俺、何か大切なことを忘れているような気がするんだよな……それに、なんだか嫌な予感が――」
剛がそう思った時、消防車のサイレンが外から聞こえた。
「サイレン? それに嫌な予感が当たって……」
そしてこの消防車が向かう先を剛はなんとなく知っていた。
「行ってみよう。きっとこの嫌な予感だって、何かの気のせいだ!」
それから剛はその消防車を追うように家を出て、嫌な予感のするその場所へと向かった。
そしてその場所にたどり着いた剛は呆然とする。
「やっぱり……」
猛々と燃え盛る炎。そしてその周りには、多くのギャラリーの姿。
この後、母親が泣き叫びながら出てくる――
「離してください!! まだ……まだ家の中に子供が!!」
剛の思った通り、泣き叫びながら消防官に肩を支えられつつ出てくる女性がいた。
この人はアカネの母さんだ――。
剛は冷静にそう思い、アカネの母を見つめていた。
「落ち着いてください!! 今、助けに向かいますから!!」
消防官はなだめるように、アカネの母にそう告げた。
ダメだ……この家はもう――
そして消防官が突入準備をしていると、そこにあった建物は崩れ落ちた。
「アカネ!! アカネえええええ!!」
そこには焼け崩れた家に残る炎の燃える音とアカネの母の悲痛な叫び声だけが聞こえていた。
それを見ていた剛は、足が震えて動くことができず、その場で立ち尽くすしかなかった。
なんで俺はこうなることを知っていた――?
その恐怖と目の前で起こった出来事に剛は動揺していた。
そして炎が鎮火されたあとアカネの死体は、その焼け跡から出てきた。
「困ったら助けるって、何でも頼ってくれって言ったのに、俺はまた何もできなかったのか……」
しかし剛はアカネの死を知っても、涙が出てこなかった。
これは初めてじゃない。前に一度、同じことが……もしかして、これは俺の記憶――?
ふとそんなことを思う剛。
それから今回の火事はアカネの父が吸いかけのたばこを放置したことによる不始末が原因だという事が判明した。つまりアカネは父親に殺されたという事だった。
そしてそれを知った俺は、自分があの時父親にガツンと言えていたら、燃えている家の中に入っていけたらとそう言って自分を責めて、力を求めるようになるはず――。
剛はアカネを救えずに荒んだ日々を送っている自分を俯瞰的に見ていた。
それはまるで目の前で起こっていることが誰かの人生を動画で見せられているようで、自分のことのはずなのになぜか当事者ではないような感覚で日々が過ぎていった。
アカネを救えなかったのは自分の心の弱さのせいだ――そう思ってその弱さを隠すように生きていくことになる剛。
そしてアカネの死から数か月後、剛は『白雪姫症候群』に目覚める。
「この力があれば、俺はもう弱くない……。S級クラスの俺は、最強だ。これで大切な人を失うことはない!!」
当時の俺は、この強大な力で大切な人たちを救えると信じて疑わなかった。でも――
『お前は弱い。自分の弱さに気が付けないままじゃな』
俺が弱い……? そんなはず!!
でもその人のいう事は正しかった。俺はずっと自分の弱さを隠して生きてきた。自分の弱さを認めてこなかったんだ――。
『俺は本当の強い人間になりたい!!』
気が付くと真っ暗な空間に剛はいた。
「ここはどこだ……?」
そう言ってキョロキョロと周りを確認する剛。
『なあ、お前は本当に強くなれるのか? 結局は先生に頼り切りだったんだろ。お前ひとりじゃ、何にもできなかった』
「え、俺……?」
剛は目の前に立つ、もう一人の自分を見て目を丸くする。
でも確かにこいつの言う通りだ。俺は俺一人では何もできなかった。だから受験勉強でもうまくいかずに――。
そう思いながら、俯く剛。
『このままここにいたらいい。ここなら何度もアカネは生き返る。それにお前がアカネを救う道だってあるかもしれないだろう』
「このまま……」
『そうだ。辛い過去を抱えたまま、生きていたくないだろ? だから、ここにいるのがお前のためさ』
確かに、俺の言う通りかもしれないな。このままここで過ごして、アカネを今度こそ助けるんだ――。
『あっちの世界は辛いことばかりだから』
そう言って笑う、もう一人の剛。
「確かに、そうかもな。俺がいた世界は辛いことばかりだったよ」
そう呟きながら、眠る前の世界のことを思い返す剛。そして初めて会った時の暁の姿を思い出す。
そうだよ。俺も先生みたいな教師になりたくて――
「……すまんな、俺。やっぱりここにはいられない。だって、俺は暁先生みたいな教師になりたいんだからさ」
そう言って、剛はもう一人の剛ににやりと笑いかける。
『……そっか。お前はその道を選ぶんだな。後悔は、ないのか?』
もう一人の剛は心配そうに、剛に問いかけた。
「大丈夫さ。俺は火山剛だぜ! こんなところで燃え尽きるわけないだろ?」
『ははっ。それもそうか!』
そう言って、剛たちは笑いあった。
『もう一人の俺、そろそろ起きる時間だ。もうこっちに来るんじゃないぞ』
「おう! ……なあ。そういえば、ここって一体どこなんだ?」
剛がそう問うと、もう一人の剛は、
『お前の心の中だよ』
と言いながら、笑って消えた。
「心の中……そうか」
そして剛の視界が真っ白になった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる