上 下
29 / 126
第1章 新人編

第3話ー⑦ 異変

しおりを挟む
 優香は廊下を歩きながら、先ほどの自分の態度に後悔していた。

 なんであんな言い方をしてしまったんだろう……。そんなつもりなかったのに。今度こそ、本当にキリヤ君には愛想をつかされたかもしれないな――。

「ちゃんと謝らなくちゃね……はあ」

 スライム少年の能力を受けてから、自分がおかしくなってしまったことをなんとなく察する優香。

 優香は見えているものや聞こえているもの、そのすべてが自分を責めているように感じていた。それは信頼しているはずのキリヤに対しても――。

「本当に私はどうしちゃったんだろう……」

 それから優香は部屋に入り、そのままベッドに寝転んだ。そして部屋の天井を見上げながら、どうしたらいいのかわからないこの状況に悶々と悩んだ。

「私、もうここにはいられなくなるのかな。今のままじゃ、きっと役に立てない……」

『ええ。あなたはいらない子よ。ここでもあなたのことなんて、誰も必要としていないわ。あなたなんて生まれてこなければよかったのよ……』

「え……お母さんの声?」

『あなたがいなければ、私は……』『あんたなんて、死ねばよかったのよ!』

 優香はどこからか聞こえてくるその声に耳を塞ぐ。

「やめて……。やめてよ」

 しばらくすると、その声は止んだ。

「もう嫌だ……」

 それから優香は膝を抱えて、俯きながら座る。

 すると、扉を叩く音が聞こえた。そして優香はその方をゆっくり見る。

 もしかして、キリヤ君かもしれない――。

 そんな期待をして返答をしようとすると、

「優香君、いるかい?」

 その声から部屋に訪れたのはキリヤではなく、ゆめかだという事を知る。

(そっか、キリヤ君じゃなかったか……)

「白銀さん……。どうかしましたか」

 優香は覇気のない声でゆめかに答えた。

「いや、さっき様子が変だったのが気になってね。入ってもいいかい?」

 優香は扉の前まで行き、この扉を開けるべきかを悩んだ。

 いつもの優香なら、迷うことなく簡単にこの扉を開けていたかもしれない。しかし今の優香はいつもと違い、人と関わることが怖かった。

(白銀さんが悪い人じゃないことはわかっているのに、会えばきっと不安になる。その言葉に悪意を感じてしまう。だから今は――)

「今日はもう休むので……ごめんなさい」
「そうか……」

 もしかしたら白銀さんは、とても嫌な気持ちになったかもしれない。せっかくの私の好意をって思うかもしれない――。

 そんな思いを抱き、後悔する優香。

(私、最低だ……)

 そして再び聞こえる幻聴。

『いつまで引きこもっているのよ! あんたがいつまでもそうしていると、こっちが迷惑なの! なんでわからないかな』
『なんでこんな子を産んじゃったのかしら。あー、やだやだ』

 そして優香はまた両耳を塞ぐ。

「……もう嫌。放って置いてよ……。私なんかいなければいいんでしょ!」
「優香君……?」
「もう終わったって思っていたのに、なんで。また……」
「優香君!!」

 優香はゆめかの言葉で我に返る。

「あの、私……」
「きっと優香君も疲れたんだね。だから今夜はゆっくり休んでくれ。それでまた明日、必ず会おう。私は君を待っているからね」

 ゆめかはそう告げて、歩いて行ってしまった。

 そして扉の前から去っていく足音を聞いた優香はその場でしゃがみこむ。

「また私は、ひどいことを……」

 やっぱり私はいらない子なんだ。人を裏切り、傷つける。最低な人間――

「こんな自分、嫌だよ……」

 優香はその場で両手をつきながら、大粒の涙を流した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...