上 下
6 / 126
第1章 新人編

第1話ー③ 初任務

しおりを挟む
 初任務当日。キリヤは研究所の入り口で、優香とゆめかを待っていた。

 そしてキリヤはふと、

「外に出るのっていつぶりだろう……」

 そんなことを思い、口に出していた。

 研究所と施設の移動は今まで何回かしていたが、街という街に出るのは施設にいたころに暁先生が誘拐されたとき以来だったなと思うキリヤ。

「またあれから街はいろいろと変わっているんだろうな」

 これからは任務で外に出ることがきっと多くなる。今まで見たことのない景色が見られるのはちょっと楽しみかもしれない――そんなことを考えながら、キリヤはふっと笑った。

「なんだか楽しそうですね、キリヤ君」

 1人で笑っているキリヤの顔を変に思ったのか、優香は目を細めてキリヤにそう言った。

 そしてその後ろにはゆめかもおり、微笑みながらキリヤのことを見ていた。

「あ、優香もゆめかさんもおはようございます! 優香さ、なんか僕のこと引いてない?」
「そんなことないです。ただ、1人でニヤニヤしていて、怪しいなとは思いましたけど」
「ちょっと! 僕が変質者みたいな言い方しないでよ!!」
「2人は今日も仲良しだね。その調子で、任務の方もよろしく頼むよ」

 ゆめかは笑顔でキリヤたちにそう言った。

 そしてキリヤたちはゆめかの運転で、事件の起こっている場所へと向かった。



 車に乗って数分後。キリヤたちは、目的地の墓地へ到着した。

「じゃあ、私は仕事があるから先に帰っているよ。また20時くらいに迎えに来るから、それまでに事件の糸口を掴んでおくように。じゃあね」

 そう言うと、ゆめかはキリヤたちだけを残して、研究所へと戻っていった。

「本当に僕たちだけの任務なんだね……」

 走り去るゆめかの車を見ながら、キリヤはそう呟いた。

「そうみたいね。まあ人手不足だから、簡単な事件に人員を割いてる場合じゃないんでしょ。じゃあ、さっさと事件を解決して、この辺の探索でもしよう!」

 楽しそうにそう言う優香。

「ちょっと!? 遊びに来たわけじゃないからね?」
「わかってるよ! だからさっさと事件解決しようって言ってるでしょ? ほら、つべこべ言っていないで、調査を始めるよ!」

 キリヤは優香に手を引かれながら、調査を開始したのだった。

「まずはどうするの? こういうときってやっぱり聞き込み?」
「そうね……。聞き込みももちろん重要だけど。それよりもこの墓地からよく見える窓はどこだと思う?」
「え?」

 優香にそう言われて、キリヤは周囲を見渡す。

 この場所は墓地といいつつ、郊外にあるわけではなく、民家がちらちらと立ち並ぶ住宅街。優香からどこの窓が見やすいかを問われたキリヤは、今見える場所から懸命に窓らしいものをピックアップしていく。

「うーん。あの家とあっちのアパートかな。……でもなんで?」

 優香の質問に疑問を抱いたキリヤは、首をかしげながら優香に問いかけた。


「簡単なことだよ。この事件の犯人は何らかの能力を使って、この墓地に怪奇現象を起こしている」

「所長から聞いた話だと、そうだったね」

「うん。そして事件が起こる場所のほとんどがこの墓地なら、いつも同じところで能力を使用して、見ている可能性が高いじゃない? だからこの墓地を見やすい場所にいる人が犯人だと思ったってわけ」

「そうか……なるほど! 確かに、そうかもしれないね!」

「目星はついた。まずはその2か所の家にポイントを絞って、聞き込み開始だよ!」

「うん!」


 そしてキリヤたちは聞き込みを開始した。



 キリヤたちは道行く人に、目星をつけた家のことを問う。

「あのアパートに住んでいる人のことってわかりますか?」

 キリヤがそう問うと、不審そうな表情で「わからない」とその一言だけ返された。そんなことが続き、キリヤの聞き込みは一向に進まず――

「はあ。聞き込みって案外難しいんだな。優香はどんな感じだろう」

 キリヤは気になって、優香の様子をひっそりと見に行った。そこには驚きの光景があった。

「あの、あの家に住んでいる人のことってわかりますか? ……実は、生き別れの兄妹がいるかもしれなくて……。もう何年もあっていないんです! だから、私……。今度はちゃんと会って、話したくて! だから、何でもいいので、あの家のことを教えてくれませんか!!」

 目薬を使ってウソ泣きをしながら、道行く人々に自分が悲劇のヒロインであることを訴えかける優香。

「あんなので本当にうまくいくのかな……?」

 キリヤがそんなことを思っていると、優香の周りに人々が集まる。

「大変だったんだねえ。できることがあれば、何でも協力するからね!」
「俺の知っていることなら、何でも教えるよ!!」

(嘘だ!? あれで本当に人が集まるなんて――)

 再び目薬で目を潤ませながら、優香は集まった人々に言葉をかける。

「皆さん、ありがとうございます! 私はなんとお礼を言えばよいか……」
「お礼なんていらないさ! 嬢ちゃんが幸せになれるならな!」

 そして優香は、情報を聞き出しているようだった。

「す、すごいな……。僕もあの方法でやれば、うまくいくのかな……?」

 いや、あれは優香だからできるやり方のような気もする……。僕は僕のやり方でやってみよう――。

 そしてキリヤは優香の聞き込み方法を多少は参考にしつつ、再び聞き込みを行った。

 数時間後。キリヤたちはそれぞれの聞き込みで得た情報を共有することになり、近くにある児童公園で落ち合った。

「何かいい情報はあった?」

 キリヤたちは公園のベンチに腰を掛けながら、集まった情報を整理する。


「アパートの方はきっとシロね。大学生の一人暮らしで、夕方はクラブ活動やバイトでいない時間が多いってことでしょ。だとしたら、頻繁に事件なんて起こせない」

「そうだね。じゃあ優香が調べたあの家に犯人が……?」

「ええ、たぶんね。4人家族で父は普通のサラリーマン、母は専業主婦をしていて、息子君は小学3年生。そして1歳になる娘さんいる……。おそらく事件を起こしているのは、小学3年生の息子君の可能性が高い」

「そっか……」

「じゃあさっそく、家に乗り込もう」


 そう言って立ち上がる優香。

「え!? ちょっとそれは強引すぎじゃない?」
「だって、こんな事件を起こす悪ガキだよ? 早く更生しないと、ろくな大人にならないよ」
「そうだけどさ……」

 優香の言い分も理解できないわけじゃなかったが、キリヤはその少年が事件を起こすのには何か理由があるような気がしてならなかった。

「もう少しその子のことを調べてみない? 犯人がその子だってわかっていれば、事件が起きる前になんとかすることはできるわけだし」

 キリヤは必死に優香を説得する。そして優香もそんな僕の気持ちが伝わったのか、軽くため息をつき、キリヤの意見を認めてくれた。

「タイムリミットは19時までだよ? それまでに何ともできなかったら、家に突入して、その子を取り押さえるからね?」
「ありがとう、優香!」

 それからキリヤたちはその家の周辺で張り込むことにした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのサポートキャラなのになぜか攻略対象者とRPGシナリオ攻略しています⁉

朝陽天満
ファンタジー
乙女ゲームのサポートキャラに転生した私。シナリオ通りの学園に入学したけれど、ヒロインちゃんからは距離を置いている。サポキャラじゃなくて単なるモブとして平穏に学園生活を送るはずが、どうして私が前世やり込んでいたRPGの世界設定が出てくるの……? ここって乙女ゲームだよね⁉ 攻略対象者いるよね⁉ 何で攻略対象者が勇者になってるの⁉ 勇者設定はRPGの方で乙女ゲームには出てこないよね! それに平民枠の攻略対象者がRPGのラスボスなんだけど!色々混じってておかしい……!私、平穏無事に学園を卒業できるのかな⁉

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

ファンタジー生物保護ってなんですか?

真白 悟
ファンタジー
 ある日、皐月誠(さつきまこと)はクラスメートである宮下アヤメ(みやしたあやめ)から「心はどこにあるのか?」と尋ねられる。  しかし、授業をサボり、頭の良くない誠にとって簡単に答えられる質問ではない。誠は直感的に心臓と答えることにした。だが、彼女はその答えを気に入らないようだった。  ちょうどその日、誠が所属するファンタジー生物保護部に一件の依頼が届く。  誠はその依頼に巻き込まれながらもはアヤメの言う心の在り処を探し、成長していく。

神槍のルナル

未羊
ファンタジー
人間と魔族たちが争う世界。剣と魔法のファンタジーものです。 主人公は槍使いのルナルという女性で、彼女を中心とした群像劇です。 設定も展開もよくあるものだと思います。 世界観は一番最初の話をお読み下さい。 更新は不定期ですが、予約投稿で18時固定更新です。 別の投稿サイトで執筆していましたが、どうにも終盤の展開で行き詰って放置になってしまいましたが、このたび、改稿・編集を行いつつ再び最初から執筆をして完結を目指してまいります。

最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河
ファンタジー
 とある王国の」最強の聖女、アンナ・ベルナールは国王の私利私欲の為の邪魔となり王国を追放されてしまう。  そして異国の地で冒険者になったアンナだが、偶然知り合った三人の同年代の少女達は全員同じような境遇で国を追放された各国の最強の元聖女達だった。  意気投合した四人はパーティーを結成。  最強の元聖女四人による冒険者生活が今始まる。  ……ついでに彼女たちを追放した各国は、全部滅びるようです。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

処理中です...