ダンジョン探索者に転職しました

みたこ

文字の大きさ
上 下
25 / 30
第四章 飛騨ダンジョン

すき焼き

しおりを挟む
 ブラックブルの引き渡しも報告も終わったので、今日の探索は終わりとなった。宿泊するホテルに行くか、となったところで錬司が悠斗たちに声をかける。

「腹も減ったし、夕飯食いに行くか!」
「「「はい!」」」

 その誘いに悠斗と茜と朔夜は息をぴったし合わせて頷いた。悠斗は腹が減って仕方がなかったが、他のみんなも同じだったようだ。

「お腹ぺこぺこです」
「僕も」
「俺も腹が鳴りそう」

 言い合えば、錬司が笑う。

「ホテルの近くにうまい店があるんだ」
「飯代も管理棟が持つから遠慮なく食ってこいよ!」
「えっ?!いいんですか?」
「ああ」

 御子柴がそんな事を言い出し、悠斗は驚いた。
 この同行依頼では、交通費と宿泊費は出るという話だったが、飯代も出してもらえるとは、随分太っ腹なことである。
 もしこれが他の公共事業に関する仕事だったら、税金云々で問題になりそうな話だが、ダンジョンに関しては特殊な扱いのため問題ないと聞く。だから悠斗も管理棟が出してくれるというのを単純に喜んだ。
 そうして悠斗たちは、御子柴と別れ、錬司の案内でとある店へと向かった。


 宿泊予定のホテルからその店は約5分ほどとうい距離だ。ブラックブルのすき焼きをメインで出すお店である。

「高そうな店……ですね……」

 茜がその店を見て呟いたように、いかにも高級店な店構えだった。

「まぁ安くはないが、その分味はピカイチだぞ。あとここだと個室を用意してもらえるんだ」

 個室がいくつかあるようで、錬司のような実力者がありメディアにも出て顔が知られている探索者にとってはありがたいようだ。ゆっくりと食事ができるということで。
 確かに錬司が普通の店に、特にダンジョン近くの店を訪れたら、探索者に取り囲まれて食事どころではなくなりそうだ。
 店の中に入ると、店員が出迎えてくれた。その店員は錬司と知り合いのようで、人数を言うと、すんなり個室に案内してくれた。
 悠斗たちは腰を落ち着ける。茜と朔夜、錬司と悠斗が隣同士となり向き合って座った。
 案内してくれた店員から飲み物のメニューが渡されたので、それを机の中央に置いて、4人で見る。

「飲み物どうする?俺は生ビールで」
「じゃあ僕はウーロン茶をお願いします」
「私は……アップルジュースで」

 皆がさくさくと頼んでいく。
 錬司が頼んでいたので、酒に心を惹かれるが、今は依頼仕事中だ。明日も明後日も探索はある。2杯ぐらいなら翌日に響くことはないが、それでもやめといた方がよいだろう。そう悠斗はぐっとこらえて、ジンジャエールでも頼もうとしたら、錬司がその前に尋ねてきた。

「悠斗はどうするんだ?明日に響かなけりゃ酒でもいいぞ」

 悠斗の葛藤に気づいたかのように、錬司がそんなことを言ってくれる。ジンジャエールを頼むとしていた悠斗の心は容易く揺らいだ。

「……俺も生ビールが良いです」

 そして結局、酒の誘惑に勝てず悠斗は生ビールを頼む。
 飲み物の注文を受け取った店員は錬司に向かって尋ねる。

「お料理はいつものようにご準備すればよろしいでしょうか」
「俺が決めても良いか?」
「はい、お願いします」

 料理のメニューは見ていないが、見たら値段が気になって頼めなさそうなので、錬司に全て任せることにした。茜と朔夜も同じだったようで、錬司の言葉に頷く。

「いつもの感じで頼む」
「かしこまりました」
 
 確認したところで、店員は個室から出て行った。
 かと思えばそれほど時間がかからないうちに、料理が運ばれてくる。いつもの、というのはコース料理だったようだ。すき焼きはまだだが、すぐに出せる前菜の盛り合わせや、ブラックブル寿司、ローストブラックブルサラダ等が運ばれてくる。それと頼んだ飲み物もきた。
 腹も減っているので早速食べることにする。

「乾杯!」

 錬司の掛け声に応え、悠斗たちもグラスを軽くぶつけ合わせた。空きっ腹にアルコールを入れると良くないので、軽く飲む。冷えたビールはおいしい。
 その後、悠斗たちは勢いよく食べ始めた。

「いただきます!……お、おいし~!!!」
「うますぎる」
「だろ?」

 メインのすき焼きでなく、前菜とかの時点でこの店は錬司たちが馴染みにするだけある、と悠斗は思う。どれもこれも、サラダのドレッシングですら味が良くて、感動しながらもぐもぐと食べ進める。空腹だったこともあって、はじめに並べられた料理はすぐになくなってしまった。
 すき焼きはまだなようで、話をしつつそわそわと待つ。

「お待たせしました。準備させていただきますね」

 机の中央がヒーターとなっており、そこに大きな鍋が置かれる。
 鍋の中にはすでに肉や野菜が敷き詰められ、ぐつぐつと煮え立っていた。少し料理を食べたばかりだというのに、腹が鳴りそうなぐらい食欲がそそられる。
 そうして店員が、さっとすき焼きの準備をし終えた。生卵を器に割って、ぐるぐるかき混ぜた後、すき焼きをよそった。

「お肉がとろける……」
「最高……」
「はぁ……幸せ……」

 錬司以外のこの部屋にいるメンバーは感嘆の声を発してしまう。前菜などからすき焼きへの期待値はかなり上がっていたが、それ以上のうまさだ。悠斗たちはすごい勢いで食べてしまう。値段はかなりのものな気がして、こんなにがつがつと食べるものではないとは思いつつも、箸が止まらなかった。
 そんな悠斗たちの様子を錬司は満足そうに見てくる。

「どんどん食べな!あ、肉追加で」

 錬司の酒を飲むペースは早く、店員を呼んではビールや日本酒をちゃんぽんしていた。日本酒はお猪口を2つにして悠斗にも少しくれたりする。これもまたおいしく、もっと飲みたい気持ちもあったが、流石にそれは明日に響きそうなので止めた。その代わり、錬司がこれでもかと追加してくれるすき焼きを存分に食べたのだ。

 そんな感じで食べて飲んでをしていたら腹がすっかりと満たされた。
 もう腹に入らない……というぐらいだったのだが。錬司はそろそろか、というような顔をして店員を呼んだ。

「〆のうどんを頼む」

 そう頼むのを聞いて、満腹と思っていたのに食いついてしまう。
 店員も頃合いと判断していたようで、すぐさまうどんを持ってきて、鍋に投入をしてくれた。
 しばらく待てば食べられるようになったので、各々よそって口をつける。

「うどんもおいしい」
「お腹いっぱいなのに食べれちゃう……」

 それもまたおいしくて、茜が言うようにほぼ満腹の腹の中にもするすると入っていってしまった。

 そんな感じで、おいしい料理をたらふく食べさせてもらった悠斗たちは、明日も頑張ろうと心に強く決めたのだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

聖女召喚に巻き込まれた私はスキル【手】と【種】を使ってスローライフを満喫しています

白雪の雫
ファンタジー
某アニメの長編映画を見て思い付きで書いたので設定はガバガバ、矛盾がある、ご都合主義、深く考えたら負け、主人公による語りである事だけは先に言っておきます。 エステで働いている有栖川 早紀は何の前触れもなく擦れ違った女子高生と共に異世界に召喚された。 早紀に付与されたスキルは【手】と【種】 異世界人と言えば全属性の魔法が使えるとか、どんな傷をも治せるといったスキルが付与されるのが当然なので「使えねぇスキル」と国のトップ達から判断された早紀は宮殿から追い出されてしまう。 だが、この【手】と【種】というスキル、使いようによっては非常にチートなものだった。

処理中です...