ダンジョン探索者に転職しました

みたこ

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第四章 飛騨ダンジョン

すき焼き

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 ブラックブルの引き渡しも報告も終わったので、今日の探索は終わりとなった。宿泊するホテルに行くか、となったところで錬司が悠斗たちに声をかける。

「腹も減ったし、夕飯食いに行くか!」
「「「はい!」」」

 その誘いに悠斗と茜と朔夜は息をぴったし合わせて頷いた。悠斗は腹が減って仕方がなかったが、他のみんなも同じだったようだ。

「お腹ぺこぺこです」
「僕も」
「俺も腹が鳴りそう」

 言い合えば、錬司が笑う。

「ホテルの近くにうまい店があるんだ」
「飯代も管理棟が持つから遠慮なく食ってこいよ!」
「えっ?!いいんですか?」
「ああ」

 御子柴がそんな事を言い出し、悠斗は驚いた。
 この同行依頼では、交通費と宿泊費は出るという話だったが、飯代も出してもらえるとは、随分太っ腹なことである。
 もしこれが他の公共事業に関する仕事だったら、税金云々で問題になりそうな話だが、ダンジョンに関しては特殊な扱いのため問題ないと聞く。だから悠斗も管理棟が出してくれるというのを単純に喜んだ。
 そうして悠斗たちは、御子柴と別れ、錬司の案内でとある店へと向かった。


 宿泊予定のホテルからその店は約5分ほどとうい距離だ。ブラックブルのすき焼きをメインで出すお店である。

「高そうな店……ですね……」

 茜がその店を見て呟いたように、いかにも高級店な店構えだった。

「まぁ安くはないが、その分味はピカイチだぞ。あとここだと個室を用意してもらえるんだ」

 個室がいくつかあるようで、錬司のような実力者がありメディアにも出て顔が知られている探索者にとってはありがたいようだ。ゆっくりと食事ができるということで。
 確かに錬司が普通の店に、特にダンジョン近くの店を訪れたら、探索者に取り囲まれて食事どころではなくなりそうだ。
 店の中に入ると、店員が出迎えてくれた。その店員は錬司と知り合いのようで、人数を言うと、すんなり個室に案内してくれた。
 悠斗たちは腰を落ち着ける。茜と朔夜、錬司と悠斗が隣同士となり向き合って座った。
 案内してくれた店員から飲み物のメニューが渡されたので、それを机の中央に置いて、4人で見る。

「飲み物どうする?俺は生ビールで」
「じゃあ僕はウーロン茶をお願いします」
「私は……アップルジュースで」

 皆がさくさくと頼んでいく。
 錬司が頼んでいたので、酒に心を惹かれるが、今は依頼仕事中だ。明日も明後日も探索はある。2杯ぐらいなら翌日に響くことはないが、それでもやめといた方がよいだろう。そう悠斗はぐっとこらえて、ジンジャエールでも頼もうとしたら、錬司がその前に尋ねてきた。

「悠斗はどうするんだ?明日に響かなけりゃ酒でもいいぞ」

 悠斗の葛藤に気づいたかのように、錬司がそんなことを言ってくれる。ジンジャエールを頼むとしていた悠斗の心は容易く揺らいだ。

「……俺も生ビールが良いです」

 そして結局、酒の誘惑に勝てず悠斗は生ビールを頼む。
 飲み物の注文を受け取った店員は錬司に向かって尋ねる。

「お料理はいつものようにご準備すればよろしいでしょうか」
「俺が決めても良いか?」
「はい、お願いします」

 料理のメニューは見ていないが、見たら値段が気になって頼めなさそうなので、錬司に全て任せることにした。茜と朔夜も同じだったようで、錬司の言葉に頷く。

「いつもの感じで頼む」
「かしこまりました」
 
 確認したところで、店員は個室から出て行った。
 かと思えばそれほど時間がかからないうちに、料理が運ばれてくる。いつもの、というのはコース料理だったようだ。すき焼きはまだだが、すぐに出せる前菜の盛り合わせや、ブラックブル寿司、ローストブラックブルサラダ等が運ばれてくる。それと頼んだ飲み物もきた。
 腹も減っているので早速食べることにする。

「乾杯!」

 錬司の掛け声に応え、悠斗たちもグラスを軽くぶつけ合わせた。空きっ腹にアルコールを入れると良くないので、軽く飲む。冷えたビールはおいしい。
 その後、悠斗たちは勢いよく食べ始めた。

「いただきます!……お、おいし~!!!」
「うますぎる」
「だろ?」

 メインのすき焼きでなく、前菜とかの時点でこの店は錬司たちが馴染みにするだけある、と悠斗は思う。どれもこれも、サラダのドレッシングですら味が良くて、感動しながらもぐもぐと食べ進める。空腹だったこともあって、はじめに並べられた料理はすぐになくなってしまった。
 すき焼きはまだなようで、話をしつつそわそわと待つ。

「お待たせしました。準備させていただきますね」

 机の中央がヒーターとなっており、そこに大きな鍋が置かれる。
 鍋の中にはすでに肉や野菜が敷き詰められ、ぐつぐつと煮え立っていた。少し料理を食べたばかりだというのに、腹が鳴りそうなぐらい食欲がそそられる。
 そうして店員が、さっとすき焼きの準備をし終えた。生卵を器に割って、ぐるぐるかき混ぜた後、すき焼きをよそった。

「お肉がとろける……」
「最高……」
「はぁ……幸せ……」

 錬司以外のこの部屋にいるメンバーは感嘆の声を発してしまう。前菜などからすき焼きへの期待値はかなり上がっていたが、それ以上のうまさだ。悠斗たちはすごい勢いで食べてしまう。値段はかなりのものな気がして、こんなにがつがつと食べるものではないとは思いつつも、箸が止まらなかった。
 そんな悠斗たちの様子を錬司は満足そうに見てくる。

「どんどん食べな!あ、肉追加で」

 錬司の酒を飲むペースは早く、店員を呼んではビールや日本酒をちゃんぽんしていた。日本酒はお猪口を2つにして悠斗にも少しくれたりする。これもまたおいしく、もっと飲みたい気持ちもあったが、流石にそれは明日に響きそうなので止めた。その代わり、錬司がこれでもかと追加してくれるすき焼きを存分に食べたのだ。

 そんな感じで食べて飲んでをしていたら腹がすっかりと満たされた。
 もう腹に入らない……というぐらいだったのだが。錬司はそろそろか、というような顔をして店員を呼んだ。

「〆のうどんを頼む」

 そう頼むのを聞いて、満腹と思っていたのに食いついてしまう。
 店員も頃合いと判断していたようで、すぐさまうどんを持ってきて、鍋に投入をしてくれた。
 しばらく待てば食べられるようになったので、各々よそって口をつける。

「うどんもおいしい」
「お腹いっぱいなのに食べれちゃう……」

 それもまたおいしくて、茜が言うようにほぼ満腹の腹の中にもするすると入っていってしまった。

 そんな感じで、おいしい料理をたらふく食べさせてもらった悠斗たちは、明日も頑張ろうと心に強く決めたのだ。
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