ダンジョン探索者に転職しました

みたこ

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第四章 飛騨ダンジョン

特殊個体

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 特殊個体がいるという最下層へとやってきた。
 悠斗たち以外の探索者の姿は見たところない。入り口に近い層でもブラックブルという十分実入りがある魔物を狩ることがいないので、通常でもそれほどここまでくる探索者はいなかった。

「なんか……雰囲気が少し違いますね」
「特殊個体が出る場所はこうなっているんだよ。魔力が濃いんだ」

 肌に感じる言いようのない違和感。これまで通ってきた層とは明らかに違う、と分かるものだった。

「魔力だまりが発生しているってことですか?」
「そこまで濃くなることはない、……んだが、いつもの特殊個体が現れる場所よりは濃い気がするな」
「大量発生を引き起こすとかないですよね?」

 金華山ダンジョンのことを思い出し、朔夜が尋ねれば錬司は首を横に振る。

「濃いっていっても、魔力だまりって言えるほどではないから大丈夫だ」

 魔力だまり、というほどの場所はその魔力の濃さから、今感じているおかしな雰囲気が、その場にいられないほど強くなるという。そういうものなのか、と錬司の話に、朔夜も、聞いていた茜と悠斗も安心しながら、草原に足を踏み入れた。
 すこし離れた先に早速、魔物が見える。それはブラックブルの形をしていたが、通常個体に無いはずのツノが生えていた。目の辺りは長毛で覆われている。明らかに先程倒したブラックブルとは違う、と分かった。
 ーーー特殊個体だ。
 まだこちらには気づいていないようなので、攻撃をする前に、と錬司がここからの動きを最終確認する。

「事前に見せた写真の通り、あれが特殊個体だ」
「はい。あのツノは武器素材として特に確保しておきたいんですよね」
「そうだな。できれば傷つけないように倒してくれ。……っと、もう一体きたな」
「あれはツノが赤いので、さらに強い特殊個体ってやつですか?」

 のそのそとやってきたブラックブルのツノは茜が言ったように赤い。それは普段なら、特殊個体を進んで狩る探索者が手を引かざるを得なくなった原因の、ブラックブルだ。

「ああ、そうだ。あれは基本俺が対応する。悠斗も倒せるとは思うが」

 突然そう言われて、悠斗は考える。
 ソロで探索していたら流石に手を出さないだろうが、今はパーティーで動いているのだ。錬司というレベルが高く強い探索者もいるし、茜や朔夜もいる。こういう時はソロではできない挑戦をしてみても良いんじゃないか、と思った。

「倒してみても良いですか」
「おう。いいぞ。じゃあ、茜と朔夜は普通の特殊個体を2人で相手してくれ。俺はサポートに入る」

 今回の特殊個体の大量回収は、素材回収の手伝いというのが同行者への依頼事項だ。しかし、表には出していない目的があると聞いていた。それは同行者の実力を上げることだ。
 無理はさせないけれど、ある程度悠斗たちも戦うこととなっている。

「お願いします!」
「がんばります」

 そうして分担が決まったところで、ブラックブルもこちらに気づいたようだ。途端、凄まじい速さで向かってくる。

「そんじゃあ倒すぞ」
「「「はい!」」」

 武器を構え、魔物たちを迎え討ったのだった。

 ***

 特殊個体のダンジョンボスである、キングブラックブルをが倒し、その後現れた入り口までの通路を通って、ダンジョンの外へと出た。
 ここに来た頃は昼を少し過ぎたぐらいで明るかったが、もうすっかり日が暮れている。どうりで腹がめちゃくちゃ空いているはずだ、と悠斗は思う。ダンジョン探索中は気が張っていて、空腹はあまり気にならなかったが、外に出たところで気が抜けて、そちらに気がまわってしまう。
 ダンジョンから移動して管理棟へと入れば、受付の職員が個室へと案内をしてくる。職員は御子柴を呼んだようで、程なく彼がその部屋へとやってきた。

「どうだった?」

 部屋に入ってきて、労いの言葉を掛けた後、御子柴は早速と成果を聞いてくる。

「なかなかすごい量だぞ」

 それに対し、錬司が得意げに答えた。
 用意されていた収納箱に持って帰ったブラックブルを入れて欲しいと言われたので、回収担当の悠斗が今日倒した特殊個体のブラックブルを全て移し替える。
 どんどんと満杯になる収納箱が増えていくのを見て、御子柴は目を見張った。

「は~~~?!やばいな!」
「だろ?」

 最終的に5箱の収納箱が埋まる。
 特殊個体のダンジョンボスというとりわけ大きな魔物はいるものの、それ以外はすべて特殊個体のブラックブルだ。そして赤ツノの特殊個体は3割ある。

「倒した数もやばいし、こんな持って帰ってこれるもんなのかよ」
「収納には自信があるんです」
「確かに収納量もすごいが、悠斗は赤ツノだけじゃなく、ダンジョンボスも倒したから、実力も相当なもんだぞ」

 唐突に錬司が褒めてくれて、悠斗はむず痒さを覚える。

「あ、ありがとうございます」
「朝霧が倒したのか?!ボスを!」
「はい」

 お礼を言う悠斗に対し、御子柴が勢いよくその話に食いついた。
 赤ツノと同じく、元々ダンジョンボスは錬司が相手をするという話だったが、そこまでの戦いぶりから悠斗でも倒せるだろう、ということで戦うことになったのだ。そして、悠斗はしっかりダンジョンボスを倒すことができた。
 金華山ダンジョンのボスはトドメを刺したものがダンジョン外に出ると、再び出現する。
 それと異なり、この飛騨ダンジョンのボスは、最下層の草原の一角にある建物にいた。その建物の中に入り、扉を閉めたところでボスが現れるようになっている。ボスを倒した後、建物にいた者がすべてダンジョン外に出たら、再び現れるようになっているのだ。
 そのため、金華山ダンジョンとは異なり、一人一人がボスと戦うには、ひとりずつ建物に入らなければならない。流石に倒せるだろうといっても、はじめての特殊個体のダンジョンボスをソロで戦うことはリスクが大きいとして、皆で建物に入ったのだ。
 何かあればサポートしてもらう予定だったが、特に危ない場面もなく、悠斗はソロでダンジョンボスを倒した。

「今日は安全をとったが、あの様子なら明日は悠斗1人で大丈夫だと思う。悠斗が問題なければ、ボス素材2体分とってこれるぞ」
「朝霧、どうだ?!」
「俺も明日はソロでいけると思います」
「助かる!!」

 ボスを錬司と悠斗がそれぞれ倒すことができれば、単純に特殊個体のダンジョンボス素材を2体分手に入れることができる。
 元々、同行者には特殊個体を倒せる程度の実力があり、魔物の回収が手伝えることが求められていただけだ。赤ツノの特殊個体はともかく、ダンジョンボスは錬司しか倒せないと思われていた。
 それが悠斗も、ということで特殊個体のダンジョンボス素材を手に入れたいダンジョン省としては想定外の幸運だ。

「茜と朔夜も1人で特殊個体を倒せるぐらいだったし、同行依頼出して正解だったな」
「3人ともまだ探索者になって一年も経ってないんだろ?錬司が連れてきたにはそこそこできるとは思ってたが、期待以上だ」
 
 御子柴は強面の部類の顔をしているが、その顔が緩んでいると分かるほど嬉しそうだ。依頼を受けた身としては、満足してもらえる働きはできそうだ、と悠斗はひっそり安堵する。

「明日は茜と朔夜も赤ツノに挑戦してみるといい。レベルが上がるからな」
「わかりました!」
「倒します!」

 茜と朔夜、そして悠斗もさらに強くなれそうだ。悠斗はそう期待に胸を膨らませ、明日も頑張ろうと思った。
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