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第三章 奥美濃ダンジョン
花霞の刀
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悠斗は奥美濃ダンジョンから家に帰る道から、少し遠回りとなるBランクダンジョンの関ダンジョン付近にやってきた。
関ダンジョン近くの無料駐車場は混んではいたが、止められないほどではない。
高いランクのダンジョンではあるが、駐車場に止まっている車が多いのは、ダンジョンに入る探索者が多いわけではなかった。ほとんどの目当てが、関ダンジョン近くに密集している武器屋や防具屋である。
「これが関武器通り……!」
駐車場から少し歩けば、武器屋が軒を連ねる通りに辿り着く。『関武器通り』と言われている。
建物は古めかしく、通りの風景自体が観光地となっていたりもした。そのため区別はあまりつかないが、探索者以外の観光客もちらほらといる。
店の軒先には扱っている武器の一部が展示されていたりしていて、悠斗は歩いて色々な店を物色した。
悠斗が使っている剣は、他の探索者たちもよく使っているものだ。だからどの店もほぼ取り扱っている。
そして剣と共に多くの関武器通りにある店で扱っているのが、刀だ。店に入れば、自然と目に入ってきて、見ていると、なんとなく刀も良いなと悠斗は感じる。
もし刀を買うのであれば、使用する武器を変えることになる。魔剣術は刀でも使うことができるはずだが、2つの武器をどちらも使う、というのはあまり良くないだろう。1つの武器を使い続けることで熟練度が上がり、力となるはずだ。そのため、もし刀を買うなら、今のうちと思う。まだ探索者になったばかりで、剣もそこまで扱い倒したということはないからだ。
こんなことを考えてしまう時点で、かなり悠斗は刀に惹かれていた。
そうして悠斗はむむむ、と頭を悩ませながら、店を見回っていると。
『神威刃物』
という看板がかかった店へと辿り着く。そのメーカーの名前は悠斗もよく知っていた。
神威刃物はもともと包丁などを取り扱っていた刃物メーカーである。それを二代目社長の神威刃人が武器屋として大きく成長させた。
その二代目社長は29歳と若く、探索者としてランクが高いダンジョンに潜れるほどの実力者であり、尚且つ、顔も良いことから、何かとメディアに出ているのだ。
会社が成長していることからもわかるように、神威刃物が扱う武器の性能はとてもよく、特に、刀に関しては名工と呼ばれる優れた職人が手がけており、他に並ぶものがないほどの技術を誇っている。
店内に入った悠斗は、陳列されている刀に圧倒された。武器に関して、悠斗は素人だ。そんな悠斗でも、置かれている刀の凄さが分かってしまう。
すっかりと刀の魅力に惹かれてしまった悠斗は、店内を見回る。
そして店の奥、ひときわ目を惹かれる刀の前に立ち止まった。そこは『花霞』と銘が打たれる刀がいくつか置いてある。ショーケースの中に入っていて、希望すれば取り出し、じっくりと手に取ってみることができるので、悠斗は店員に話しかけた。
「こちら見せてもらっても良いですか」
「はい、少々お待ちください」
悠斗に請われて、店員は『花霞 幻影』と銘が打たれている刀をショーケースから差し出す。
それを受け取り、悠斗は握った。
「良いですね……」
「この刀は、関ダンジョンに生息するファントムタートルの甲羅を使って鍛え上げられたものです」
店員が刀について説明してくれる。ファントム、という名がつく通り、ファントムタートルの甲羅は霧のように淡く光り、幻想的なものだと言う。それを素材とした刀にも当然、その特徴が現れている。とても美しい刀だった。見た目の良さだけでなく、性能も抜群に良いと店員が説明してくれる。
それに何より、悠斗の手にとてもしっくりと馴染んだ。
欲しいーーー、と思い悠斗はここではじめて価格に、目をやる。
『1,000,000円』
「ゔっ」
そこに記載された価格に悠斗は驚きすぎて、変なうめき声を上げてしまった。
「お客様?」
「な、なんでもないです。見せていただきありがとうございました。すこし検討させてください」
怪訝そうな顔をする店員さんに、悠斗はなんとか平静を装う。若干震えながら、悠斗は手に取らせてもらった刀をお返しした。
流石に、どう考えても今の悠斗には手が出ない価格だ。
そんな悠斗の反応に、店員は刀を受け取りショーケースに戻しながら、代わりの提案をしてくる。
「……それでは、こちらの『花霞 流水』はいかがでしょうか?同じ刀工のものですが、素材の種類が違いまして……」
「わ!こちらも良いですね」
今度ははじめに、ちらりと値段を見れば、『200,000円』だった。それも確かに悠斗にとっては普通だったら数日悩む値段ではあったが、出せない金額ではない。悠斗の様子に、店員はより価格を抑えたものが良いと判断したのだろう。店員が説明をしてくれた素材は、ファントムタートルよりランクが低いもので、大きく価格が下がるようだ。
手にした刀は、先ほどと比べれば少しの違和感はあるものの、それでも悠斗の手に馴染む。
「この刀をいただけますか」
「ありがとうございます」
完全に刀、とりわけこの『花霞』と銘打たれる刀にに心を奪われてしまった悠斗は、手の届く価格というので、即座に買うことを決める。数日悩んだとて、結論は同じだと思ったのだ。
このとき悠斗は、『花霞』の刀に惹かれすぎて、他の刀も見てみるという選択肢をすっかり頭から消していた。
それほどに惹かれる刀である。むしろ買うべき、とすら感じていた。
「またのお越しをお待ちしております」
代金を払って悠斗は店を出る。大きい買い物を衝動的にした悠斗だったが、全く後悔はなかった。
悠斗はぽつり、と呟く。
「早いところCランクダンジョンに行ってみるかなぁ」
流石に『花霞 幻影』の方は手の届かない価格だった。しかし、正直なところあの刀が欲しい。
手に入れるためには、金を稼がなければならないが、Dランクダンジョンの稼ぎでは、なかなか難しいだろう。
ゆえに悠斗はDランクよりひとつ上のCランクダンジョン……、飛騨ダンジョンへ行く計画を思い描き始めたのだった。
飛騨ダンジョンは悠斗の家からは遠い。行くとしたら、車か電車とバスの乗り継ぎだ。日帰りは無理だし、何度か潜りたいので泊まりで行くことになる。宿をとるなど準備が必要なので、明日すぐにでも行けるものではないが、近いうちに行こうと悠斗は決めた。
関ダンジョン近くの無料駐車場は混んではいたが、止められないほどではない。
高いランクのダンジョンではあるが、駐車場に止まっている車が多いのは、ダンジョンに入る探索者が多いわけではなかった。ほとんどの目当てが、関ダンジョン近くに密集している武器屋や防具屋である。
「これが関武器通り……!」
駐車場から少し歩けば、武器屋が軒を連ねる通りに辿り着く。『関武器通り』と言われている。
建物は古めかしく、通りの風景自体が観光地となっていたりもした。そのため区別はあまりつかないが、探索者以外の観光客もちらほらといる。
店の軒先には扱っている武器の一部が展示されていたりしていて、悠斗は歩いて色々な店を物色した。
悠斗が使っている剣は、他の探索者たちもよく使っているものだ。だからどの店もほぼ取り扱っている。
そして剣と共に多くの関武器通りにある店で扱っているのが、刀だ。店に入れば、自然と目に入ってきて、見ていると、なんとなく刀も良いなと悠斗は感じる。
もし刀を買うのであれば、使用する武器を変えることになる。魔剣術は刀でも使うことができるはずだが、2つの武器をどちらも使う、というのはあまり良くないだろう。1つの武器を使い続けることで熟練度が上がり、力となるはずだ。そのため、もし刀を買うなら、今のうちと思う。まだ探索者になったばかりで、剣もそこまで扱い倒したということはないからだ。
こんなことを考えてしまう時点で、かなり悠斗は刀に惹かれていた。
そうして悠斗はむむむ、と頭を悩ませながら、店を見回っていると。
『神威刃物』
という看板がかかった店へと辿り着く。そのメーカーの名前は悠斗もよく知っていた。
神威刃物はもともと包丁などを取り扱っていた刃物メーカーである。それを二代目社長の神威刃人が武器屋として大きく成長させた。
その二代目社長は29歳と若く、探索者としてランクが高いダンジョンに潜れるほどの実力者であり、尚且つ、顔も良いことから、何かとメディアに出ているのだ。
会社が成長していることからもわかるように、神威刃物が扱う武器の性能はとてもよく、特に、刀に関しては名工と呼ばれる優れた職人が手がけており、他に並ぶものがないほどの技術を誇っている。
店内に入った悠斗は、陳列されている刀に圧倒された。武器に関して、悠斗は素人だ。そんな悠斗でも、置かれている刀の凄さが分かってしまう。
すっかりと刀の魅力に惹かれてしまった悠斗は、店内を見回る。
そして店の奥、ひときわ目を惹かれる刀の前に立ち止まった。そこは『花霞』と銘が打たれる刀がいくつか置いてある。ショーケースの中に入っていて、希望すれば取り出し、じっくりと手に取ってみることができるので、悠斗は店員に話しかけた。
「こちら見せてもらっても良いですか」
「はい、少々お待ちください」
悠斗に請われて、店員は『花霞 幻影』と銘が打たれている刀をショーケースから差し出す。
それを受け取り、悠斗は握った。
「良いですね……」
「この刀は、関ダンジョンに生息するファントムタートルの甲羅を使って鍛え上げられたものです」
店員が刀について説明してくれる。ファントム、という名がつく通り、ファントムタートルの甲羅は霧のように淡く光り、幻想的なものだと言う。それを素材とした刀にも当然、その特徴が現れている。とても美しい刀だった。見た目の良さだけでなく、性能も抜群に良いと店員が説明してくれる。
それに何より、悠斗の手にとてもしっくりと馴染んだ。
欲しいーーー、と思い悠斗はここではじめて価格に、目をやる。
『1,000,000円』
「ゔっ」
そこに記載された価格に悠斗は驚きすぎて、変なうめき声を上げてしまった。
「お客様?」
「な、なんでもないです。見せていただきありがとうございました。すこし検討させてください」
怪訝そうな顔をする店員さんに、悠斗はなんとか平静を装う。若干震えながら、悠斗は手に取らせてもらった刀をお返しした。
流石に、どう考えても今の悠斗には手が出ない価格だ。
そんな悠斗の反応に、店員は刀を受け取りショーケースに戻しながら、代わりの提案をしてくる。
「……それでは、こちらの『花霞 流水』はいかがでしょうか?同じ刀工のものですが、素材の種類が違いまして……」
「わ!こちらも良いですね」
今度ははじめに、ちらりと値段を見れば、『200,000円』だった。それも確かに悠斗にとっては普通だったら数日悩む値段ではあったが、出せない金額ではない。悠斗の様子に、店員はより価格を抑えたものが良いと判断したのだろう。店員が説明をしてくれた素材は、ファントムタートルよりランクが低いもので、大きく価格が下がるようだ。
手にした刀は、先ほどと比べれば少しの違和感はあるものの、それでも悠斗の手に馴染む。
「この刀をいただけますか」
「ありがとうございます」
完全に刀、とりわけこの『花霞』と銘打たれる刀にに心を奪われてしまった悠斗は、手の届く価格というので、即座に買うことを決める。数日悩んだとて、結論は同じだと思ったのだ。
このとき悠斗は、『花霞』の刀に惹かれすぎて、他の刀も見てみるという選択肢をすっかり頭から消していた。
それほどに惹かれる刀である。むしろ買うべき、とすら感じていた。
「またのお越しをお待ちしております」
代金を払って悠斗は店を出る。大きい買い物を衝動的にした悠斗だったが、全く後悔はなかった。
悠斗はぽつり、と呟く。
「早いところCランクダンジョンに行ってみるかなぁ」
流石に『花霞 幻影』の方は手の届かない価格だった。しかし、正直なところあの刀が欲しい。
手に入れるためには、金を稼がなければならないが、Dランクダンジョンの稼ぎでは、なかなか難しいだろう。
ゆえに悠斗はDランクよりひとつ上のCランクダンジョン……、飛騨ダンジョンへ行く計画を思い描き始めたのだった。
飛騨ダンジョンは悠斗の家からは遠い。行くとしたら、車か電車とバスの乗り継ぎだ。日帰りは無理だし、何度か潜りたいので泊まりで行くことになる。宿をとるなど準備が必要なので、明日すぐにでも行けるものではないが、近いうちに行こうと悠斗は決めた。
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