ダンジョン探索者に転職しました

みたこ

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第三章 奥美濃ダンジョン

もうひとつのDランクダンジョン

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 金華山ダンジョンのボスを倒した悠斗は、1日休んだ後、岐阜県にあるもうひとつのDランクダンジョン、奥美濃ダンジョンへと行くことにした。できるだけ多くのダンジョンで経験を積んだ方が良いと思ったからだ。
 奥美濃ダンジョンには車で向かう。
 金華山ダンジョンとは異なり、奥美濃ダンジョンは電車が近くまで通っていない。そのため、多くの探索者が車で来ることが想定されているので、無料の駐車場があるのだ。もしそこがいっぱいで有料だとしても、ワンコインで収まるところがほとんどである。車で行った方が良いと悠斗は判断した。
 この奥美濃ダンジョンは茜たちも数回行ったことがあると聞いている。そのため、事前に2人へダンジョンについて情報を尋ねた。
 はじめはメッセージアプリでやり取りしようとしたのだが、話した方が早いということで、グループ通話で話をしたのだ。

「奥美濃ダンジョンに行くんですね!」
「うん、2人は行ったことあるんだよね?」
「何度か」
「魔物は金華山ダンジョンと同じくらいの強さなので、悠斗さんなら問題ないと思います」
「魔法を使う魔物も出ますが、発動が遅いので、その前に叩けばいけます」

 といったダンジョンの攻略に関することやら。

「奥美濃ダンジョンのマッスルチキンとスイートンは美味しいのでオススメですよ!」
「唐揚げやトンカツにしたらめっちゃ美味しかったです!」
「私はマッスルチキン南蛮が美味しかったです」

 なんていうのも色々聞けた。
 奥美濃ダンジョンは浅い場所でも、魔物肉として人気のマッスルチキンやスイートンが多く出てくるという。その魔物はDランクダンジョンに入ったばかりの探索者でも倒せる程度の強さなので、駆け出しの探索者に人気だ。しかしながら金華山ダンジョンよりは来にくい場所にあることから、人の入りはそこそこだという。
 マッスルチキンとスイートンはその名前にが表すように、鶏型の魔物と豚型の魔物だ。
 マッスルチキンは筋肉が発達しており、その筋肉による有り余る力で攻撃してくる。その筋肉から肉は歯ごたえがあって、うまい。
 スイートンは甘いものを好んで食べる魔物だ。餌が甘いものなせいか、肉は甘みが強くジューシーで、これまたおいしい。
 ダンジョンの奥の方にいくと、フレイムマッスルチキンや、グランスイートンなど、上位種が存在し、それは更に味が良いと聞く。他にも、金華山ダンジョンでも見たムービングマッシュなどの魔物もいるが、奥美濃ダンジョンの目玉はスイートンとマッスルチキンだ。


「広いな」

 ダンジョンに入った直後、悠斗はそんな感想を抱いた。
 奥美濃ダンジョン内はだだ広い草原となっている。その草原の一ヶ所に小高い丘の形をしたセーフエリアがあった。そこから次の草原にいけるようになっているのだ。
 セーフエリアは一定期間同じ位置にあるが、時間経過すると変わる。事前に調べている場所から変わっていたら、探さなくてはいけないのだ。それが探索者にとって大変なことである。
 というのも、第1草原だけでも相当な広さがあるのだ。その広いところから、セーフエリアを探すのはなかなか難しかった。
 スイートンやマッスルチキンは第1草原でも普通にかなりの確率で現れることから、セーフエリアを探して次の草原に行くよりも、第1草原だけしか回らない探索者も多い。
 悠斗はその第1草原スルーをして、第2草原から攻略を始めることにした。幸い、事前に調べた次の草原に行くセーフエリアは変わっておらず、すんなりと進めたのだ。
 悠斗としては出来るだけ他の探索者とかち合うのは防ぎたい。魔物の奪い合いで揉めるのも嫌だな、と思っているからだ。金華山ダンジョンを攻略したことで、ダンジョン攻略に対し自信もついてきたことで、悠斗はなるべく他の探索者がいない所で魔物を倒すことを考えていた。
 そんなわけで、悠斗は第2草原へまっすぐきたのだが。悠斗の予想通り、第1草原よりは人が少ない。すぐに他の探索者がいない状況で魔物と対峙することができた。
 悠斗は、自らに迫ってきたスイートンとマッスルチキンを倒す。

「はぁ!」
「プギーッ」
「やっ!」
「クケーッ!」

 どちらも問題なく倒せたことから悠斗はもっと先に進んで、上位種を狙うことにする。
 スイートンもマッスルチキンも人気の魔物肉で、悠斗も食べたことがあった。その肉を買取には出すつもりだが、一部持って帰る気満々である。おいしいからだ。
 買取に出さないものでも、管理棟の買取窓口で料金だけ払えば解体だけしてくれる。それに不要な部分だけ買取に出し、必要な部分は引き取るということも可能だった。その場合も手数料は取られるが。
 悠斗は他の魔物は素材回収できそうな魔物に絞りつつ、マッスルチキンとスイートンの上位種は必ず倒して、さくさくとダンジョンを進んでいく。
 ダンジョンボスに辿り着く頃には結構な数が集まり、買取に出したとしても、持ち帰れる量は十分にあるほどだった。

 そんな感じでたくさんの魔物を倒した悠斗は、ダンジョンボスである、キングスイートンを屠ったあと、あることに気づく。
 それは剣の威力が格段に落ちている、ということだ。

「だいぶ摩耗してきたかな」

 先日の大量発生でもかなりの魔物を相手にした。武器はずっと切れ味が良いわけではない。使っていれば必ず性能は落ちる。手入れは出来るだけしているが、素人のそれには限界があった。
 研ぎをしてもらうのも良いが、買った方が安い場合もある。
 どちらにするか、今の悠斗にはわからなかった。

「帰り、武器屋に寄ってみるか」

 ちょうど良いことに、この奥美濃ダンジョンの近くには関ダンジョンと呼ばれるBランクダンジョンがある。
 関ダンジョンは、武器や防具に使用されるような素材が多く取れる。元々刃物の町と言われたところで、ダンジョンで取れる素材の種類がその類だったためか、関ダンジョン付近は武器や防具の店が集まるようになった。
 今では『関武器通り』や、『関防具通り』という、様々なダンジョン探索に必要な武器や防具が手に入る場所があるのだ。
 買う買わないは別として、色々と見れて勉強になると思い、悠斗は関ダンジョンの方に寄ることに決めた。


 ダンジョンを出た悠斗は、すぐに管理棟に入り、買取窓口に向かう。

「解体と買取お願いします」
「かしこまりました。こちらにどうぞ」

 差し出された収納箱に奥美濃ダンジョンで回収した魔物を入れて渡す。
 そして少し待てば解体を含めた査定は完了した。
 悠斗は窓口の方に申し出る。

「グランスイートン2…いや、5匹とフレイムマッスルチキンとサイクロンマッスルチキンを3羽分ずつ、肉は持ち帰ります」
「それでは手数料と肉の分をこちらの買取金額から引かせてもらいますね」
「はい、お願いします」

 悠斗が消費する分だけでも良いかと思ったが、結構な量を確保できたので、ふと、双子たちにおすそわけをしようと思った。
 もし渡すタイミングが合わなかったりしても、無限収納があるので、悠斗が食べれば良い。
 ちなみに無限収納、他収納に関して時間経過はゆっくりとなる。また、外気温の影響を受けることがないので悪くなるのは遅い。だから多めに肉を持っていても問題なかった。
 今回解体は依頼することになったけれど、管理棟の掲示板には解体講習張り紙もある。手数料や解体料がかかるので、それならば自らした方が良いという探索者もいるのだ。
 改めて手数料と肉の分を引かれた買取金額とその内訳を記載した書類が発行される。
 それを見て、自分で捌けるようになるのも良いかもな、と悠斗は思う。
 手間はあるが多少節約できるし、あって困る技術ではない。それに無限収納が悠斗はあるので、容量は気にせずまるっと魔物を持って帰れはするが、その時その場で魔物の素材が必要になることもあるかもしれないのだ。
 時間が取れるようになったら講習を受けることも考えてみよう、と思いつつ悠斗は肉と買取金を受け取って、管理棟を出た。
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