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第二章 金華山ダンジョン

ピザ

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 駅までの道を歩いていると、朝はやっていなかった店が営業していることに気づく。
 その中には飲食店もあり、良い匂いが悠斗を誘った。

「……食べてくかな」

 お財布的な事情から、滅多に外食はしないのだが、腹がとても減っていることから、その匂いに抗えない。先ほど約7万稼ぐことができたのも、ご飯を店で食べてから帰るということを後押ししてくる。
 更に言えば、今日も酒は飲みたいと思っているけれど、普段なら車で移動が多いので飲酒運転はできない。だから結局家に帰って自炊をする、ということになるのだが。今日は車ではないので酒を飲むこともできるのだ。
 悠斗は気になった店で食べて行くことに決めた。ご飯を食べるには身につけている防具は窮屈だと思い、道の端に寄って外してしまう。そして悠斗は入る店を探すべく、歩き始めた。

「ピザ……中華……カレー……」

 どこにしようか、と悠斗は色々な店を見比べる。正直腹が減っているので、どの店も魅力的だった。しかしどこもかしこも行くということはできない。
 悩んだ結果、悠斗はピザが食べたい気持ちが1番強かったので、イタリアンのお店に決めた。勤めていた会社で、女性社員がその店のことを良心的な値段でおいしいと言っていたことを思い出したのも決め手の1つだ。
 昼時を過ぎているので、店内のお客はまばらである。
 
「いらっしゃいませー!」
「1人なんですが」
「そちらの席にどうぞ」

 そのため悠斗が店に入ると、すぐに席に案内して貰えた。店員が示したのは、2人掛けの席だ。
 座って、置いてあるメニューを見れば様々なピザが載っている。どれもこれもおいしそうで悩むところだったが、ハーフ&ハーフにできるということ2種類は食べられた。悠斗は、厚切りベーコンが乗ったピザと、4種のチーズがたっぷり乗ったピザにする。
 今の自分の腹の状態なら、2枚食べられそうだったが、過信して大変な目にあっても困るだろう。食べられそうならまた後で頼めばいいと思って、とりあえず1枚だけ頼んだ。
 ピザは決まったので、次は酒である。ビールにしようかと思ったが、シャンパンが比較的手頃な値段だった。それに惹かれて、悠斗ははじめの1杯をシャンパンとしたのだ。

「お待たせしましたー!」

 お客もまばらということから、注文からすぐに作ってもらえたようで、あまり待つことなく、悠斗の目の前にピザとシャンパンを注ぐグラスが置かれる。シャンパンは、その場で注いでくれる方式だったようで、店員がこぼれそうになるぐらいギリギリまで注いでくれた。

「いただきます!」

 見ているだけで涎が垂れそうなほど、ピザはおいしそうである。
 悠斗は早速ベーコンのピザのほうを手に取った。焼いたばかりのためとても熱い、のだがこれも高いレベルの地味な恩恵で、前なら熱くてなかなか持てなかったピザもすんなりと持つことができる。
 悠斗は口を大きく開けた。生地は薄めでいけそうだったので、一切れまるっと口に入れる。

「ッ、……うまい!」

 文句なしの味だった。肉厚なベーコンと、チーズと、トマトソースがマッチしていてかなりおいしい。
 一瞬で食べてしまったので、2切れ目にいきたいところだが。悠斗はその前に、とシャンパンに口をつけた。

「~~~っっ!」

 シャンパンは冷えていて、ピザと最高に合う。
 店なので、あまり独り言を発していても不審がられるとは思っていたが。そこからは人の目を気にするとかではなく、ただ夢中になってピザを口に放り込み、シャンパンを飲む。
 ただ、シャンパンはあっという間になくなってしまったので、その次は量がありそうなビールにした。それもまた、キンキンに冷えており、最高だ。
 あっという間にピザを1枚食べきった悠斗は、もう1枚いけると感じた。レベルが上がった日から、食べられる量が明らかに増えている。財布は気になるところだが、ピザは美味く、他の種類も食べてみたい。悠斗は我慢できず2枚目を頼んだ。
 しかし2枚目ともなれば、だいぶ腹も落ち着いてきて、悠斗は食べるペースを落とした。

 そうしてゆっくりと食べ進め、2枚目のピザが残すところ1切れとなったところで、ピロリン♪とスマホの音が鳴る。マナーモードにし忘れていたと、慌てて設定しつつ、悠斗はその通知の内容を見た。
 どうやら茜と朔夜と悠斗の3人のグループチャットを、茜が作ったようだ。そのグループチャットに、茜と朔夜からそれぞれメッセージが来ている。

『お疲れ様です!』
『今日はありがとうございました!』
『お疲れ様。こちらこそ今日はありがとう。無事に帰宅できた?』
『はい!今からご飯です』
『悠斗さんは電車です?』
『いや、店でご飯食べてる』
『何食べてるんですか?』
『イタリアンの店だよ』
『いいですね』

 なんて他愛のないやりとりをする。そんな風に誰かとメッセージを送り合うのは、久しぶりだ。学生の頃の友人とは最近連絡をとっていないし、したとしても、こんなやりとりをする感じでもない。独身で一人暮らしなので、日々の会話もあるわけでもなく、ぽんぽんと来るメッセージに悠斗は返信をしながら新鮮さを感じた。

『2人は今からご飯?」
『はい、これから作ります』
『ムービングマッシュを持って帰ったのでキノコオムライスにするんです』
『オムライス、いいね』

 どうやら2人で準備をするようだ。そこでいったんメッセージが途切れた。
 悠斗もスマホを操作しながら飲んでいたビールが空となり、最後の1切れのピザも食べきってしまう。少しぐらいなら、その状態でも店にいて良いだろうが、もう食べ終わったのに居続けるのもな、と思った。
 
「ごちそうさまでした」

 そのため悠斗は席を立ち、店員に声をかけてレジに移動する。食事代を支払って店を出て、駅へと向かった。
 ちょうど良い電車があったのでそれに乗り込み、あいている席へと座る。そうして、電車が動き始めて少ししたところで。再び茜からメッセージがきた。

『キノコオムライスできました!』

 店で出てきそうなぐらい綺麗な形のオムライスが2つ、テーブルに並んでいる写真も一緒に送られてくる。わざわざ報告してくれることに、悠斗は微笑ましさを感じながら、返信した。

『めちゃくちゃ美味しそう。2人で作ったの?』
『はい、私たち料理好きなんです』
『すごいなぁ。ムービングマッシュ、焼いて食べようと思ってたけどオムライスもいいね』
『ぜひ!このレシピ簡単でおすすめです』

 送られたURLを開けば、確かに悠斗でも作れそうだ。
 今日の夕飯にでも作ってみるか、と悠斗は思いつつ、『ありがとう』とメッセージを返した。
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