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第二章 金華山ダンジョン

連絡先交換

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 1箱分の査定は少し待ったところで完了した。買取窓口近くに置かれた椅子に座っていた悠斗たちは、名前を呼ばれたので、窓口へと向かう。

「お待たせいたしました。先ほどお伝えした通り、1箱分の査定のみ先に完了しております。買取金額はこちらになります。解体したものを確認をされるのであれば、別室にご案内しますね。また、返却希望のものがあれば教えてください」

 悠斗たちが窓口の前の椅子に座るなり、職員がすらすらとそう話し始める。職員は、悠斗たちに書類を見せた。そこには、『206,800円』と内訳が記載されている。

「わっ」

 まだ1箱分なのに、掲示されたその金額に、悠斗は思わず声を上げてしまう。それは茜と朔夜も同じで、2人も悠斗のように驚きの声を発していた。
 数が多かったのだから、Dランクダンジョンで普通の探索者が1日に稼げる金額よりは多いとは思っていたが。その予想金額を超えている。
 Dランクダンジョンは、Eランクダンジョンよりは買取対象が増えるといっても、魔物1匹の買取金額は100~1,500円と幅があると聞く。たまたま、買取金額が多い魔物が入った収納箱だったのかもしれないが、聞いていた数から予想していた金額よりも多かった。
 3等分したとして、約7万。まさか1日でこれだけ稼げるなんて、と悠斗は驚く。
 
「何か問題ありましたか?」
「い、いえ……」

 困惑したような声を発した悠斗たちに、職員が首を傾げる。それに、何でもないとして、返答した。先ほど待っている間に諸々を決めていたのだ。

「解体の確認は大丈夫です。返却希望もありません。買取金額は3分の1ずつこちらにお願いします」
 
 そう言って悠斗は自分の探索者証と、先ほど預かっておいた茜と朔夜の探索者証を渡す。
 岐阜ダンジョンでは現金で買取金をもらったが、探索者証は銀行口座に紐付けでき、掲示すればその口座に入金をしてもらえるようになっている。

「かしこまりました。こちらにサインをいただいたら、入金手続きに入らせていただきます」
「はい」

 1人ずつ差し出された書類にそれぞれサインをした。その書類を渡せば、職員はカタカタとパソコンを操作して、入金作業をする。お金に関わることなので、途中で別の職員がダブルチェックをしたり、などはあったけれど、作業にはそれほど時間はかからなかった。ちなみに端数は悠斗がもらうこととしている。

「……入金完了いたしましたので、探索者証はお返しします」

 作業が終わったようだ。返却された探索者証を悠斗たちはそれぞれ受け取った。

「残りの収納箱に関しても、査定まで完了しましたら、メールでご連絡させていただきますね」
「ありがとうございます」
「わかりました!」
「お願いします」

 ダンジョン内ではほぼ電波は繋がらないので、基本探索者への連絡は電話以外としている。それで何ら問題はなかったので、職員の話に3人とも了承した。
 そうして買取窓口で必要だったことは終わったので、悠斗たちは座っていた椅子から立ち上がり、帰る準備をする。
 買取窓口はちょうど混む時間帯に差し掛かってきたようで、人が多くなってきた。長居してもしょうがないので、ささっと出ようとなったわけだ。

 そのまま管理棟を出ようとしたところ。茜たちが「すこし待っててください」と悠斗を引き止めた。

「ちょっと、売店に行ってきます」

 管理棟内にもポーションなどを売る店は入っている。ただ、朝悠斗が寄らなかったのは、まだ開いている時間でなかったからだ。管理棟の入り口近くにある売店に、茜と朔夜は行ってしまった。
 急にどうしたんだろう、と思いつつ、待っててくださいと言われたので、悠斗は素直に2人が戻るのを待つ。
 彼らはそんな時間をあけずに、戻ってきた。

「悠斗さん、これ」
「ポーションありがとうございました」

 そして、悠斗のところに来るなり、茜が売店で買ったものを差し出してくる。
 どうやら、悠斗が渡したCランクポーションを返すために、売店で買ってきてくれたようだ。もうすっかりCランクポーションのことを忘れていた悠斗は驚く。

「えっ!ありがとう。わざわざ良かったのに……」
「それは申し訳ないので」
「結構な値段のものですし」

 悠斗としては、忘れていたぐらいなので、本当に良かったのだが、折角買ってきてくれたものを受け取らないのも良くないだろう。渡されたCランクポーションを受け取り、無限収納にしまう。
 それから3人は管理棟を出て、ロープウェーに乗り込んだ。同じタイミングで帰る探索者はいないようで、ロープウェーは、悠斗たちだけだった。
 そこで、茜が悠斗に話しかける。

「悠斗さん、何か助けてもらったお礼をさせてください」
「いいよいいよ。さっきポーションも返してもらったし」

 その申し出を悠斗は軽い調子で断るが「でも……」と2人は食い下がる様子だ。悠斗としてはお礼の言葉だけで十分なのである。
 しかし2人は引かなそうだ。そんな2人に今回の買取金の分配比率を、ほんの少しだけでも悠斗の分を多めにしてもらうか、なんて考えもよぎる。けれど悠斗としてはやはり等分でいきたいので、口にはしない。

「疲れてるだろうからお礼なんて気にしないで、早く帰ってゆっくり休みな」

 代わりに悠斗はそう、2人を諭すようにして言う。
 その悠斗の頑なな態度に、茜たちは今はこれ以上言ってもだめだと悟ったのか、更に礼をと言い募るのは諦めたようだ。だが、礼を受け取ってもらえないのであれば、というように朔夜がとある提案をしてくる。

「……それじゃあ、悠斗さんがもし困ったことがあれば、協力させてもらうってことで、連絡先交換してもらえませんか?」

 それは2人と悠斗が連絡先を交換するということだった。まさか連絡先を聞かれるとは思っていなくて悠斗は瞳を瞬かせる。
 
「えっ」
「だめですか?」
「……いや、連絡先を教えるのは、全然問題ないよ」
「ありがとうございます!!」

 探索者の知り合いは現在悠斗には1人もいない。今はソロでも問題ないが、この先同業の知り合いがいることで助かる場面は十分ありえそうだ。驚いたものの、連絡先交換の申し出はむしろとてもありがたいことだった。
 悠斗が了承すると、すぐに茜と朔夜やスマホを取り出す。そして、悠斗は彼らとメッセージアプリを使った連絡先の交換を行なった。

 やりとりが終わって程なく、乗っていたロープウェーが目的地へとたどり着く。
 そこから悠斗は電車で帰るため駅に行くのだが、茜たちは電車ではなく、徒歩で来ているということだ。そのため、彼らとはここでお別れだった。

「悠斗さん、本当に今日はありがとうございました!」
「また今度、改めて一緒にダンジョンに入りましょう!」
「うん、ぜひ。2人とも気をつけて帰ってね」
「「はい!」」

 改めて茜が悠斗に礼を言い、朔夜が嬉しい誘いを口にする。それに悠斗は答えながら、2人が帰って行くのを見送った。

 去っていく彼らの後ろ姿を見ながら、悠斗は思う。

(良い子達だったなー)

 悠斗より一回り以上も歳下なのに、礼儀正しく、しっかりしている。そんな好ましい彼らがああして無事に帰途に着くことができて良かった。悠斗はしみじみとそう感じて、駅の方向へと体を向けたのだ。
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