ダンジョン探索者に転職しました

みたこ

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第一章 岐阜ダンジョン

見慣れぬスライム

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 ここはどこだ。

 突如変わった景色に、悠斗は情報把握のため、周囲を見渡す。
 ダンジョン内は似たような作りなので、元々あまり景色に変化はなかった。しかしながら、一緒にいたはずの面々は誰もいないし、通路を歩いていたはずが壁に囲まれた部屋にいる。これは先ほどまでいた場所とは全く違うところに移動したということだ。
 なぜこの部屋に来てしまったのか。悠斗にはまったくわからない。
 出口らしきものは見たところなさそうだ。それに閉じ込められた、ということに気付き悠斗の心臓はバクバクと音を立て始める。
 出られなかったらーーー、と最悪のことが考えられた。
 仮探索証にもそれを持つ者が、ダンジョン内のどこにいるかを示す位置情報の仕組みは備わっている。けれど、どうやって移動したか分からない場所で、はたして位置情報は有効なのな、と思う。
 悠斗はとてつもない不安に襲われた。

 それを紛らわすために、もう少し周囲を探してみよう。見た目ではわからないだけで、壁に通り抜けるところがある可能性だってある。悠斗自身が部屋に入ってこれたのだから。
 なんとかそう悠斗は考えて、探り始めようとすれば。

 ぼよんっ

「スライムっ?!」

 どこからともなく、部屋の中央、悠斗から2メートルほど離れたところに、スライムが現れた。

 突如出現したこともだが、その湧き出るように現れたスライムの色に悠斗はより驚く。
 そのスライムは金色だったのだ。
 Eランクダンジョンにはブルースライムしかいないという話だったのに。しかも色のせいか、弱点となる核が見えない。
 悠斗は反射的に剣を構える。何度かブルースライムと遭遇したことにより、魔物をみつけた時の反応はできるようになっていた。
 どんな攻撃をしてくるか分からないので悠斗からは何もせず、金色のスライム……ゴールドスライムの動きを伺う。
 スライムはぼにょぼにょと動いて悠斗に向かってきた。遅い動きではあるが、ブルースライムよりは早い気がする。

「……」

 スライムは粘液を飛ばすなどしてくることはなかった。そのことから、おそらくは攻撃方法はブルースライムと同じく体当たりぐらいだと予測できる。
 知らぬ攻撃を受けながらの攻撃は難しい。しかし、そうでないのであれば、と悠斗は剣を握る手に力を込める。

「やっ!」
  
 そして先手必勝、と攻撃してみたが、ブルースライムと異なり、ゴールドスライムは、思いのほか機敏な動きを見せる。悠斗の攻撃をよけたのだ。
 といっても、完全に躱したわけではなく、弱点である核を避けたらしい。粘液部分は掠めていた。しかし、その部分を攻撃しても、すぐに元に戻ってしまう。
 場所がどこにあるのかわからないのに加えて、致命傷を避けられるとは。

「数を当てるしかないか」

 とにかく核に当たることを祈りながら、悠斗はできるだけ早く剣を振り続けることにした。
 しかし、やはり核に当たらない。持っている剣は軽量ではあるが、それを何度も振り回していると、息が上がってくる。
 そんな悠斗に対し、ゴールドスライムは攻撃を仕掛けてきた。ブルースライムは一方的に攻撃ができたので、防御は必要なかったのだが、攻撃を避け、身を守りつつ攻撃をするのはなかなか大変だ。
 それでも、なんとか対応をしていたが。悠斗はまだ剣を握って数日の初心者である。すぐに無理が生じた。

 ぼよんっっ

「ぐぅ」

 体当たりを受けてしまって、衝撃が腹にくる。少しだけ防御力のある防具を身に付けてなかったらかなりのダメージを受けていたかもしれない。また、衝撃で後ろに倒れ込みそうになったので、なんとか踏ん張る。

「このっ、……くっ!」

 悠斗はゴールドスライムから距離を取った。悠斗を追うようにスライムは移動して体当たりしてくる。攻撃はいったんやめて、それを避けるのに専念しながら悠斗は考えた。
 ゴールドスライムが悠斗の攻撃を避ける様子から、おそらく核は真ん中より向かって少し右にあるのだと予想している。そこになんとか攻撃を当てたい。
 ただ闇雲に攻撃しても、当たらないし、攻撃をすればそれだけ隙ができ、先ほどのように攻撃を受けてしまう可能性がある。
 やはり、数打てば当たる、ではなく確実に当てに行く必要があるのだ。
 どうすればいいのか、と思案したところで、悠斗はふと、あることを思いつく。
 防戦でも体力は削られるので、悠斗は思いついた方法をすぐさま試すことにした。

「はぁぁっ!!」

 スライムが再び体当たりをしてこようとしてくるのに合わせて、悠斗は剣を振り下ろした。その攻撃はゴールドスライムにとって避けれる範囲の、単純なものだ。ぐにゃっと粘液部分を動かして、ゴールドスライムは悠斗の攻撃を躱す。
 その動きは悠斗にとって好都合なものだ。
 先ほどまでは、剣を単純に振り下ろすだけだったが、今回は違う。次の瞬間、悠斗は手首を多少の無理がある形に捻り、剣を動かした。攻撃の軌道を変則的にしたのだ。
 その方法だと、剣を握る力が弱くなる。ただ、核に少しでも傷をつければいいはずのため、力よりも当てに行くことを優先した。

 しゅ、

 ほんの少しではあったが、今まで全くなかった手応えがある。どうやら核を切ることができたようだ。
 ゴールドスライムはへちゃり、としぼむ。

「やった、」

 悠斗は安堵感で大きく息を吐こうとした。それと同時に。

「うっ……」

 突如、経験したことのない吐き気が悠斗を襲う。
 もしかして、気付いていないだけで何かこの部屋に有害なものが放たれたのだろうか。はたまた、絶命時に魔物が最後の攻撃を仕掛けてくることがあると言うが、ゴールドスライムがそうだったのだろうか。
 しかしながら、吐き気はあるものの、何かが口から出てくるわけではない。
 ただ吐き気と共に体が熱くなっている。唐突に体が変えられていくような感覚だ。意味のわからない、自身の不調に、悠斗はどうすることもできず膝をついて、息を荒くした。

「はっ、……はぁっ」

 幸い、数分経つとその吐き気と熱さはすぅっと引く。それでも若干の火照りは残るが、それももうすこし経てば消えそうなぐらいまで収まっている。
 なんだったんだろうか。急な変化に悠斗は困惑するしかない。
 
 しかしここでただ困っているだけでは何も事態は変わらないのだ。もしかしたらまたスライムや、他の魔物が出てこないとも限らない。はやくこの部屋から脱出しなければ、と悠斗は考える。
 そして、ゴールドスライムの出現で中断されていた部屋の調査を再開しようとする、と。すぐに視線をやった方向に、先ほどはなかったはずの扉を見つけた。

「出口、か?」

 もしかしたら罠かもしれない。しかし、このままここにいても良くなることはない。そう悠斗は考え、悠斗は扉に賭けることにした。
 悠斗は扉に近づき、おそるおそる、武器を構えながら開く。

「うぉっ」

 瞬間、悠斗は身体を何かにぐいっと押され、悠斗は扉の外に出された。

「朝霧さん?!」

 ーーーその先には、深見たち『レッドローズ』の3人がいたのだ。
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