成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ

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結婚してしまえばこっちのもの

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 はじめて会った時のヴォルフの姿を、ラステアードは今も覚えている。
 スタンピードで大量発生した魔物。ラステアードは町の中にいれば結界に守られていたところ、運悪く外に出てしまっていた。
 しかも悪いことに混乱の最中、護衛とはぐれてしまったのだ。
 守ってくれる者も、己を守る力も持たない5歳のラステアードに魔物が襲いかかったその瞬間、ヴォルフが駆けつけてくれた。

『大丈夫か?』
『う、うん』

 魔物からラステアードを守り、屠るその姿はとても、とてもかっこよかった。
 そして少し離れたところで護衛達が戦っていた魔物も倒し、ラステアード達を町の中まで連れて行ってくれたのだ。
 この時点で、ラステアードはヴォルフに落ちていた。ヴォルフが己の運命なのだと。この国の王族は、自分の伴侶となるべき存在を認知することができるという。父も母を見初めて、ひたすらに口説き落とした。今でも父は母を溺愛している。いつかラステアードにもそんな存在が見つかる、と話されていたが、その相手はヴォルフだ。そう確信できるほどに、強烈に心を奪われた。
 故にスタンピードが収まった後、王子だけでなく、たくさんの人々を助けたことに対し、褒賞を授ける場にやってきたヴォルフへなんとか近づいて交流を持った。
 そこから立場を気にしつつもラステアードを弟のように構ってくれたヴォルフ。優しく頼りになって、かっこいいのにかわいくて、とヴォルフを知れば知るほど、ラステアードは惹かれていった。
 しかし想いは募っていったが、ラステアードはこのときまだ子供だ。当然、ヴォルフの恋愛対象になることはできなかった。
 ヴォルフは結婚していてもおかしくない年齢で、それを意識するほど親密に女性と付き合ったこともある。ヴォルフから何気なくその話を聞いた時の悔しさと言ったら。自分がもっと早く生まれていれば、とラステアードは本気で思ったものだ。
 年齢差はどうにもならない。そのためラステアードはヴォルフの恋愛対象になるまで、なんとか結婚を回避させようと動いた。
 相手の女性が別の相手に気が向くようにしたり、興味のある仕事のチャンスを与えて恋愛をしている場合ではないと思わせるように誘導したのだ。そんな回りくどい手段をとらなくても、王族という立場を利用してヴォルフから離れるように脅すこともできたけれど、非のない女性にそんなことをするのは気が引けた。それにそうして無理矢理別れさせて、ヴォルフに気持ちが残ってもらっても困る。
 そうしてヴォルフに相手ができるたびに動いていたら、ラステアードが15歳ぐらいになる頃にはヴォルフに浮いた話はなくなった。
 その頃にはラステアードも少年から青年へと成長しつつあったので、そろそろ恋愛対象に入ることができるのではないかとヴォルフへのアピールを始めたのだ。
 けれど、意識してもらえるよう気持ちを伝えたのに、ヴォルフはいつまでたってもラステアードを弟のようにしか見なかった。

『ヴォルフ、好きだよ』
『おーありがとな』

 気持ちを受け取ってはくれる。でも、ラステアードの『好き』は恋愛感情以外の、親愛の情と思われてしまうのだ。
 伝えても伝えても、伝わらない状況。それにラステアードは18歳となった時にはもう結婚をしてしまおう、と考えるに至った。
 限界だったのだ。
 ヴォルフに対して欲を持っていることを示すように、スキンシップを増やしてみたのもダメだった。むしろラステアードがもっと触れたくなってしまって、毎回ヴォルフと別れてから抜く羽目になり散々だ。ヴォルフを早く自分のものにしたい。どろどろに蕩かすように愛したい、とそんな気持ちが膨れ上がって爆発してしまったのだろう。

 半ばやけくそで、結婚しかないと考えたラステアードは、すぐに行動をした。
 自分の家族への報告から、結婚式やお披露目、祝賀パーティの準備諸々。
 両親はあっさりとヴォルフとの結婚を認めてくれた。5歳から散々ヴォルフが己の唯一だと言っていたのだ。その想いの強さを知っているので、どうこう言うことはない。言われたとしてもラステアードは聞く気は全くなかったが、ヴォルフは気にしそうだったので良かった。
 妹と弟はとても喜んでいた。ラステアードほどではないが、面倒見の良いヴォルフを彼らも慕っている。家族となるのが嬉しいと言って、その後の準備を積極的に手伝ってくれたのだ。
 ただ、そうして行動はしたものの、実際に結婚するのは他の王族と同様に20歳になった時とした。
 20歳になることで色々自由が効くことが増えるというのもあったし、それまでにヴォルフが気づいてくれたら良いなという気持ちもあったからだ。できれば相思相愛の状態で結婚できたほうが良いに決まっている。
 しかし結局ヴォルフは気づかなかった。
 勝手に結婚を決めてしまって、ヴォルフが嫌がって逃げるかもしれない。そんな予想もなかったとは言わないが、ラステアードとてなんの見込みもなかったわけではない。
 ヴォルフはなんだかんだとラステアードに甘いのだ。そしてラステアードの押しに弱い。スキンシップを増やしても、嫌がることはなかったので、逃げられない状況を作って強引にいけばなんだかんだといけると考えていた。
 
 ーーーそして決行日の昨日。すべて上手くいったのだ。

 ヴォルフは現在、隣でぐっすりと眠っている。
 お試しで一回だけでも、とした初夜は一回では治らず、がっつきすぎてしまった結果である。ヴォルフは抱かれるのははじめてだから加減しないとという気持ちもあったが、止められなかった。
 疲れ果てて気絶するようにヴォルフは眠ってしまって、今も尚寝続けている。
 そのヴォルフの寝姿を見るのははじめてというわけではなかったけれど、結婚した後だと思うと頬が緩んでしまう。何度も己を受け止めてくれたヴォルフから言葉こそは貰えなかったが、ラステアードをようやく意識はしてくれたようで、最中もかわいい反応をしてくれた。嫌だと突き飛ばされることもなかったし、全て受け入れてくれたのだ。
 明け方まで続いた初夜を思い返しながら、ラステアードが幸せな気持ちで、ヴォルフの寝顔を眺めていると。もぞり、とヴォルフが動く。
 起きそうかも、とラステアードは思った。起きたとき、ヴォルフはどのような反応をしてくれるだろうか、とわくわくする。

「ヴォルフ、おはよう」

 目を開いて、ラステアードのほうを向いたヴォルフに声をかけた。
 ヴォルフは状況を飲み込めないようだったけれど、すぐに思い出したようだ。途端ぼふん、と赤くなったヴォルフに、ラステアードはたまらなく思って、頬を緩めた。
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