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王都 はじまり編
自分の意思で
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翌朝、あの男の子はリータに連れられて外へ行ったきり、戻ってこなかった。
(きっと、「アクセル」という人に売られたんだ……)
変わりに戻ってきたコルストンは、満足したような表情をしている。
(こうやって、仕入れた子どもをお金に変え、旅をする。これがコルストンの仕事……。何が、貿易商だ……)
「おい、リータ。出発するぞ。早く準備しろ」
「はい」
リータが荷台の幌を閉めると、野猪車が動き出す。
(これから、どこに行くんだろう……)
野猪車がゆっくりとした速度で進んでいくと、辺りから様々な音が聞こえ始めた。男の人の声、女の人の声、子どもの声、鳥の鳴き声、笑い声。遠くからは音楽も聞こえる。どうやらここは、人が多くいる街なのかもしれない。
隣を見ると、ミエーラはキョロキョロとしていて、幌の隙間から微かに見える外の景色を眺めている。それは、他の子ども達も同じで、みんな落ち着かない様子だ。
「お姉ちゃん……」
ミエーラだった。ミエーラが私の檻に向かって手を伸ばしていた。
(ミエーラ……怖いよね。……あの男の子は、帰ってこなかった。それは、買う人が見つかったからだ。……ここできっと、私たちは――売られる)
私が檻の間から手を伸ばしミエーラの手を握ると、その手は震えていた。
◆
しばらくすると辺りは静かになり、急に真っ暗になる。どうやら、暗い場所へと入ったようだ。そして、野猪車は停止した。
「……リータ。着いたぞ」
「はい」
リータが檻を開けて外に出る音がする。そして、荷台の後ろに移動歩いていくと、幌を開けて外に出て行く。まだ暗闇に目が慣れていないので、何も見えなかった。
(どこなんだろう。ここ……。それにしても。なに、この匂い……)
外からは「カラン、カラン」と木材を床に放り投げるような音や水をバケツに溜める音がしていた。どうやらリータが何かを準備しているようだったが、やがて無音になる。
「ここ、どこ……」
ミエーラが不安そうにつぶやき、私の手をより一層強く握りしめる。
「お姉ちゃん。ミエーラ、こわいよ……」
(……私だって怖いよ……。まさか私達。このまま置いて行かれたりしないよね……)
徐々に目が慣れてくると、開いた荷台の幌からはたくさんの檻が見えた。
◆
数時間は経ったのかもしれない。リータが荷台に乗り込んでくると、私の目の前にある檻に入った檻の鍵を開ける。そして、順番に他の檻の鍵を開けていく。
(もしかして、ここで全員降りるのかな)
リータは全ての鍵を開けると荷台から降り、外へ出る。そして「お前ら、降りろ」と私達に向かって言った。
「「「……………………」」」
私を含め、誰も外に出ようとはしなかった。当然だ。何をされるのか分からないのに、出ることなんてできない。
すると、リータが声質を変えてつぶやく。
「最後だ。早く出ろ」
暗くてその表情は見えなかったけれど、リータがどんな顔をしているのか想像がついた。そして、その声に従わないとどうなるのかも――。
私は、初めて自分の意思で檻を出た。
(きっと、「アクセル」という人に売られたんだ……)
変わりに戻ってきたコルストンは、満足したような表情をしている。
(こうやって、仕入れた子どもをお金に変え、旅をする。これがコルストンの仕事……。何が、貿易商だ……)
「おい、リータ。出発するぞ。早く準備しろ」
「はい」
リータが荷台の幌を閉めると、野猪車が動き出す。
(これから、どこに行くんだろう……)
野猪車がゆっくりとした速度で進んでいくと、辺りから様々な音が聞こえ始めた。男の人の声、女の人の声、子どもの声、鳥の鳴き声、笑い声。遠くからは音楽も聞こえる。どうやらここは、人が多くいる街なのかもしれない。
隣を見ると、ミエーラはキョロキョロとしていて、幌の隙間から微かに見える外の景色を眺めている。それは、他の子ども達も同じで、みんな落ち着かない様子だ。
「お姉ちゃん……」
ミエーラだった。ミエーラが私の檻に向かって手を伸ばしていた。
(ミエーラ……怖いよね。……あの男の子は、帰ってこなかった。それは、買う人が見つかったからだ。……ここできっと、私たちは――売られる)
私が檻の間から手を伸ばしミエーラの手を握ると、その手は震えていた。
◆
しばらくすると辺りは静かになり、急に真っ暗になる。どうやら、暗い場所へと入ったようだ。そして、野猪車は停止した。
「……リータ。着いたぞ」
「はい」
リータが檻を開けて外に出る音がする。そして、荷台の後ろに移動歩いていくと、幌を開けて外に出て行く。まだ暗闇に目が慣れていないので、何も見えなかった。
(どこなんだろう。ここ……。それにしても。なに、この匂い……)
外からは「カラン、カラン」と木材を床に放り投げるような音や水をバケツに溜める音がしていた。どうやらリータが何かを準備しているようだったが、やがて無音になる。
「ここ、どこ……」
ミエーラが不安そうにつぶやき、私の手をより一層強く握りしめる。
「お姉ちゃん。ミエーラ、こわいよ……」
(……私だって怖いよ……。まさか私達。このまま置いて行かれたりしないよね……)
徐々に目が慣れてくると、開いた荷台の幌からはたくさんの檻が見えた。
◆
数時間は経ったのかもしれない。リータが荷台に乗り込んでくると、私の目の前にある檻に入った檻の鍵を開ける。そして、順番に他の檻の鍵を開けていく。
(もしかして、ここで全員降りるのかな)
リータは全ての鍵を開けると荷台から降り、外へ出る。そして「お前ら、降りろ」と私達に向かって言った。
「「「……………………」」」
私を含め、誰も外に出ようとはしなかった。当然だ。何をされるのか分からないのに、出ることなんてできない。
すると、リータが声質を変えてつぶやく。
「最後だ。早く出ろ」
暗くてその表情は見えなかったけれど、リータがどんな顔をしているのか想像がついた。そして、その声に従わないとどうなるのかも――。
私は、初めて自分の意思で檻を出た。
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