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王都への道中編

私は眠りたい

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 振り下ろした私の手は、リータによって止められた。以前と同じだ。リータは私の行動を予測していたかのように、私の前に一瞬で移動し、手首を掴んだ。

「やめておけ」

 ――邪魔しない――えっ……。

 私の邪魔をするリータを睨みつけようとした瞬間、私は金縛りにでもあったように動けなくなる。そして、あれほど膨れ上がっていたコルストンへの憎悪が、嘘のように消えていった。

 ――なに、今のは……。リータの眼を見た瞬間、まるで……。

 私は振り上げていた手を、下ろしていた。

 その時、コルストンが嘘くさい笑顔を浮かべながら、荷台に歩み寄る。
 そして荷台が見えないように、布を閉めた。

「いや~、この子が気分悪いって言うんでね。それより、こんなところでどうしたんですか? ドワーフの旦那。これから王都へ行くんですか?」

「ああ、そうだが。その子、本当に大丈夫なのか?」

 外では、コルストンと誰かが話している。
 その時、リータが外へと出ていった。

「心配してくれてありがとうございます。でも、いつものことですから本当に大丈夫ですよ。あぁ、ミエーラ。ちょっと、中で休ませてやってくれ」

「はい。ミエーラさん、中で休みましょう」

 それは、リータらしくない話し方だった。

 リータは、泣いているミエーラを荷台の中へと抱え上げた後、自身も乗り込んだ。そしてリータは、ミエーラを檻の中へと案内した。

「そうか、ならいいんだが。こいつらは、王都に連れて行くのか?」
 
「はい、そうですよ。旦那も、必要でしたら言ってくださいね。いい奴隷、紹介しますよ」

「オレはいらねぇよ。中、見てもいいかい?」

 その言葉を聞いて、リータの顔に少しの緊張が走る。

「ええ、もちろんいいですよ。でも、この子らはまだ教育が済んでいないので、売り物にはならないですけどね」

 そう言いながらコルストンが布を開けると、そこには髭を生やした身長の低いおじさんがいた。

 ――もしかして、これがドワーフ?

 ドワーフは檻の中を一通り見回し、最後に私と目が合った。

「こいつらは、どこから連れてきたんだ」

「旦那、仕入れ先は教えられないですよ~。でも、どれもいい子ばっかりですよ」

「いい子、ね……このエルフも奴隷なのか?」

 ドワーフが、私を見ながらコルストンに尋ねる。

「もちろんです。上物ですよ」

「そうか、だろうな」

 そうして、コルストンは布を閉めた。

 リータの眼を見たあとから、憎悪や逃げ出したいという強い思いは消えてしまっている。助けてほしいとは思うものの、その気持ちは、表情に表すほどのものではなかった。

「旦那は、王都に何をしに行くのですか?」

「鍛冶の指導さ」

「それはすごいですね。それじゃあもしかして、オレタニア王国から来られているんんですか?」

「あぁ、そうだ。二カ国間技術協定にかこくかんぎじゅつきょうていなんてなけりゃあ、誰が人間の国になんか行くかよ」

「それもそうですね」

 ふたりはしばらく外で話したあと、ドワーフはその場を離れたようだ。

 その時、リータは水筒のようなものをミエーラに渡した。ミエーラは、それを泣きながら飲んでいる。

 ――リータは、きっと特別な力を持っているのかもしれない。さっき、ミエーラのことを助けなかったけれど、コルストンの見ていないところでは優しいんだ……。

 私は、リータの眼を思い出していた。

 あの眼を見たあとから、不思議とリラックス出来ていた。唇を噛み締めるほどの憎悪も嘘のように消えている。お腹は空いていたが、今ならぐっすり眠れる気がしたので、私は眠ることにした。

 ――リータ、ありがとう。

 私は檻の中で横になると、目を閉じた。
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