Away from keyboard ~僕はただ歌いたい~

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イントロ①

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【2xxx年8月 大日本帝國最下層】

「ーーーー♪♪」
歌が響く。どこの国の言葉かは分からない。決して上手ではない。だが、何故か心を打つそんな歌。鎮魂歌のような応援歌のようなそんな歌。

今にも壊れそうな錆びたビルの上に少年はいた。黒髪をなびかせ、物心ついた時には口ずさんでた歌を唄う。

AIが人間を管理するために付けられたチョーカー首輪には【番号 5278100197 名前 宇佐木】と。


◇◇◇◇◇◇



「太陽は万人を平等に照らす」
はるか昔には、そんな言葉があったらしい。
太陽の下ではみんな同じ、平等だよ
仲間だよー
っとまぁそう言う意味だ。
そんな呑気に太陽の光を浴びることを当たり前だと思ってた昔の人に伝えてやりたい。

"当たり前がこれからも続くとは限らないのだと"


「まーた、宇佐木は空見上げて飽きないわねぇ」
立体映像により実体化しか樹木や太陽の下、声が響く。

「、、、リナまたお前か」
だるそうにそう呟くと
宇佐木は鳥の声も騒音もなにもない中、ただ空を。
空に登っていく宇佐木の体や目の前のリナからも出てるキラキラとした光を見続ける

「あんたも、もう少し動きなさいよ。追いかけっことかかくれんぼとかしないからそんな筋力ないのよ」
「この場所でか?」
宇佐木は周りを見渡し馬鹿馬鹿しいと失笑した。

ここは、立体映像とはいえ樹木もあり建物の影ではないからマシだが、少し裏道に入れば男女が絡み合っていたりお酒を飲みまくったおっさんがふらふらとそこら辺を歩いてるのを知ってるくせに。
こいつはなにを言ってるんだ。   
可哀想なやつを見る目で見る宇佐木に

りなは----

「ふんっ!」
力一杯腹をぶん殴る。

「おま、、まじなんなの!!」
いってぇ、こいつついに頭狂ったか?
その想いを込めリナを睨みつけると

「やっとこっちを見たわね。
あんたは自分の世界に引きこもり過ぎなのよ!」
満面の笑みで胸を張りドヤ顔を放つ女が目に入りため息をついた。

こいつが不器用なのは小さい頃から知ってる。知っているが

「お前年々ひどくなってないか?」
「なにがよ。」
「いや、分かんないならもういい、、。」



「リー、あーそーぼっ!」
と。今度は、向こう側の子供たちが手を振りながら叫んでる。

「いーわよーーー!
宇佐木も、少しは運動しなさいよね。じゃないと将来太るわよ!あと変なことに首を突っ込まないようにね。」
そう言い残しリナは心配そうにサイレンが鳴り響く路地裏を見ながら走り去っていった。

(あんなこと言いつつ、無理には遊びに連れて行かないのがあいつのいいところだよな)

グーっと伸びをし、宇佐木は歩き始める。
いつもの日課のために、屋上に向かい。


そこは、寂れたビルのてっぺん。
なにも目新しいものも面白いものもないが。
ただ、この最下層で一番空に近いため宇佐木が気に入ってる場所でもある。



そこで待つ。
ただひたすらに。
約束などはしてない、だが。
いつもここにいればそいつは来るから



「おいお前、またこんなとこに居たのか。お前もほんと暇だよな。」
黒髪をざっくばらんに伸ばし無精髭を生やし何故か着崩した白衣をきた男がゆらりと近寄る。 

「なんだまだ生きてたのかおっさん。」

肩を組もうとする手を叩き落としながら宇佐木は後ろを見ることなく無造作に。
だが、口元には少し笑みを浮かべ言い捨てた。

「おいおいぃ、随分な物言いだな少年よ」

男は今では廃棄され製造されてないはずのタバコに火をつけニヒリと笑う。
そんなものどこで手に入れてるのか。
ほんとに謎な男だ。
この男のことは何も知らない。
お互い知られたくないから素性を尋ねるようなことはしない。

何も聞かない。
干渉しない。

これが、最下層での暗黙の了解だ。
リナのフレンドリーな感じが異常なだけだ。

最下層。
ーーーかつては東京と呼ばれていたこの地が、俺たちの暮らす場所であり牢獄だ。

昔、AIは世界を3つの階層に分けた。
上層は、AIの中でも限られたものしか入れない特別な層。
中層は、AIに従順な人間と機械が共存している層。
そして、最後。俺達が暮らす最下層。
ここではある程度の自由を得られる。
酒を飲んでもいい。
働かなくてもいい。

だが、その代わり俺たちは上層に居る機械様に文字通り生命を捧げる。
毎日少しずつ少しずつ削られる生気を代償に最下層の人間は存在することを許される。

全てが変わったのは1000年前。
自然保護を研究していたAIは人間にはついぞ見つけることの出来なかった事実を発見する。

"人間の生気には電気よりも優れる機械の動力になる"

その時から機械に負け処刑待ちだった人間の扱いは変わる。
家畜のように管理されることを代償に生きることが許された。

機械は管理するにあたり人間に3つのことを徹底させる。
ーーー歌,絵,物語の撤廃を。

歌や絵、物語を読み共感し感動する。機械にはないその機能があるから人間は。

諦めない。
希望を捨てない。
足掻く。

勝率0の勝負に食らいつく人間を見続けAIはそう結論づけ。

それら全て破棄した。

もし、規則を破れば重い罰を与えられる。
ほんとに生きづらい世界だ。
そこまで考え、今更かと思考を戻し。


サイレンの煩いビルの下を見ながら宇佐木は問う。

「おい、おっさん。あれ…見たか?」
構ってもらえずいじけていた男はその問いに

「あれって言うのは廃人のことかい少年よ。」

ヘラヘラ笑いながらそう問い返す。

廃人。
AIの決めたルールを破った人間の成れの果て。

歌や絵、物語を創った者や規則を破った者は通報され逮捕され思考を魂を弄られ。

ただ、ニコニコと笑っているだけの人形となり解放される。

ー-あぁ、ほんとにこの世界は

「クソな世界だ。」

男の問いには答えず、宇佐木はただそう言うとビルの下をじっと眺める。
ふらふらと意味もなく意義もなく。ただ歩き続けてる人。人。人。

「あぁ、本当にこんな世界壊したい」

それは本当に無意識のうちにぽろりと溢れた言葉だった。


男はその言葉には何も反応せずただ耳につけたイヤリングをいじりながら宇佐木に目を向ける。

「少年、壊したいとはどういう意味でだい?壊すにも色々ある。全てをただ破壊してしまうのか。それとも----」

----魅了し虜にし当たり前を塗り替えてしまうのか

男の言葉に宇佐木はビルの下から目線を外し、男の顔を見る。
そこには、キラキラとした笑顔で。だが、瞳の奥にドロリとした情熱を持った男がいた。

宇佐木はその顔に戸惑いながらも、
「当たり前を塗りつぶしてやりたい。」
強い意志を込めて言葉をおとす。

男はその言葉に満足そうに笑うと、
「なぁ、少年!お前アイドルにならないか?」
両手を広げ、擬似太陽の光を浴びながらそう叫んだ。
「あい、、どる?」
ーー宇佐木の言葉など興味ないように男は続ける。

「俺はこんなクソな世界を変える。」
「まてまてまて!まずアイドルってなんだよ!」
「あぁー、そーか。そりゃ知らないか。まぁ簡単に言うと遥か昔に存在していた歌って踊れる神様だ。」
頬をかきながら。目をキラキラと輝かせ語る男に、
「神サマ、、?俺にそれになれと?」
宇佐木は唖然とする。
歌が禁止されダンスも禁止され何千年もたった。そんな、荒唐無稽なこと

「できるわけないか?」
回り込まれた言葉に唖然とする宇佐木に、
いいか、少年。そう前置きして男は語る。

「この世界はクソだ。だから壊したい。なら、できるできないんじゃないんだ。やるんだ。俺らも無計画に言っているわけではない。準備は進めてきた。」

「そんな、、ならおっさんがなればいいじゃないか。そのアイドルってやつに!」
宇佐木は戸惑い叫ぶ。
意味がわからなかった。屋上でたまに会うだけの自分に計画を話すのも。そんな自分にアイドルになれと言うのも。

「俺はどこまでいっても読み手だ。物語の創り手---書き手---にはなれねぇよ。」
男はそう言い笑う。

「俺はお前の歌が好きだ。それだけが理由じゃだめなのか?」
「なっ!歌を聞いてたのか?!」
顔を赤らめ叫ぶ宇佐木の言葉を無視し男はさらに続ける。
「お前だってこんなクソな世界嫌なんだろ?壊したいんだろ?それでいいじゃねぇか。俺らに力を貸してくれ。」
頭を下げ真剣に頼む男に宇佐木は戸惑う。

世界から隔離され。
時が止まったように何も変わらない空間。
絵を描くことも。物語を創り読むことも。
歌を唄うことも満足に出来ないこの世界。
たしかにクソだ。最悪だ。もし変えられるのなら変えたい。
普通や当たり前で片付けられることを塗りつぶしたい。

だがそんなものは酔狂な妄想だ。
監視AIがある限り俺たちに自由はない。
わかってる、わかっているがこの荒唐無稽な計画に心が惹かれてたまらない。

「俺がアイドルになったとしても歌った瞬間に機械に廃人にされ終わりだぞ?それに世界を変えるだなんて歌と踊りでどーやって変えるっていうんだ?」

「おぉ!やってくれるのか?!ありがとう。ならまず、歌の練習から始めねぇとな!」
宇佐木の手を握りブンブンと振りながら嬉しさを隠しきれないように言う男に、
宇佐木は、手を振り解き、一歩後退り
「いや、だからどーやって世界をかえるんだ?!」
叫ぶ。
男はそんな宇佐木を無視して、尚も続ける。
「まずそのクソ下手な歌をどーにかしないとな!」
「いやだから、やり方を---っておい、下手ってなんだ。お前好きって言っただろ?!」
「好きとは言ったが上手いとは言ってないぞ。」

「え?」
困惑する宇佐木を置いて

「まずははちゃめちゃな音程とリズムをどーにかしねぇとな。」
「ていうか、早くやり方を教えろ!!」
「タネは最後までわからない方がおもしれぇだろ?さぁ、やることは沢山だ。逃さねーから覚悟しろよ。」
「おい、おっさん!」
選択を間違えたか?と冷や汗を流す宇佐木は、

「俺は読み手だ。物語は紡げねぇ。けどな、俺も1人の少年を応援するくらいは出来るからな。」
おっさんの顔を見てため息をつく。
なにもわからず。
なにも知らされず。
命をかけることを決めた俺は狂ってるのだろう。
だが、おっさんの目には他の人の目にある諦めの色がない。その、目にやられたのかもしれない。

「おいおっさん、俺は宇佐木だ。」
手を出してそう笑う宇佐木に
「俺はねずみだ、ねずと呼んでくれ。」
ねずも笑って手を差し出す。

「さぁ、とりあえず俺たちの城に案内しよう。ついてこい。」

宇佐木は、遠ざかっていく背中を見つめながら硬く手を握る。
死ぬのは嫌だ。
だが、生きながら死ぬのはもっと嫌だ。


待っているのは地獄か。
革命か。

とりあえず、命をかけておっさんと共に歩み仲間たちに気に入られようと宇佐木は気合をいれた。
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