笑い方を忘れた令嬢

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北東の岩山へ

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 ジルヴァーノは、事務所に戻りながら先程の会議室での話を思い出していた。

「アリアンナは竜の姫神子かもしれない」
国王が真剣な顔で告げる。
「と言いますと?」
騎士団長が質問すると、国王は難しい顔になる。

「これから過去の文献を探してみるが、覚えている限りでは竜の姫神子と言うのはおとぎ話でしか聞いたことがない。だが、おとぎ話の通りに竜の紋様が、アリアンナの身体にあった」

「そして昨夜、アリアンナは夢を見たらしい。詳しい内容はここに記されている。因みにこの夢を見たのは2回目だそうだ」
王太子は、アリアンナが書いた紙を見せる。
「アリアンナ様は北東の岩山に行かれた事があるのですか?」
紙の内容を読んだ騎士団長が、不思議そうに聞いた。
「ある訳がない。あそこに行くまでにどれだけ険しい道を通ると思っている?」
国王が答える。
「ですよね。それでは夢で、これほど詳細に書いたと?」
騎士団長が不思議に思う程、アリアンナが書いた場所の説明は明確だったのだ。
「ああ。竜から異常なほど好かれている事。竜の紋様が身体にある事。そしてこの夢……私はアリアンナが竜の姫神子であると信じている」
国王はニッコリと笑った。

「そうなると、この夢と同じ時に岩山に行けば、竜を助けられる上に冒険者たちを仕留められる、そういう事になりますね」
渡された紙を見たジルヴァーノが言うと国王と王太子が無言で頷く。
「やってくれるか?」
国王は、騎士団長とジルヴァーノを交互に見た。

「はい」
ジルヴァーノが迷うことなく即答する。騎士団長もニッと笑う。
「私も信じます。最近、隣国の冒険者がこの国に入国する事が増えているのは事実ですし。王女殿下の夢の話がなくても、ジルヴァーノとどうにかしなくてはと話し合いをしていた所でしたからね」

「そうだったな。では、月の位置と形で大体の日付や時間を割り出し、実行に移すことにしよう!」
「はっ」

こうして、冒険者制圧の本格的な作戦が実行される事になったのだった。

『アリアンナ様が竜の姫神子……竜たちとの関係を見れば納得出来る。例え姫神子でなかったとしても私は……』
ジルヴァーノは自分に宿っている確かな想いを胸に刻んだ。



 森の木々の色味、月の位置や形。それらを加味して予想を立てた結果、7日後から前後3日間のどこかだろうという予測が出た。
「お父様、お願い。私も参加させて」
今日もアリアンナは、国王の執務室に乗り込んでいた。

「北東の岩山は危険なのだ。私はアンナにそんな危険な所へ行って欲しくない」
「でも、私が行った方が、色々助言が出来るかもしれない。少しでも皆の役に立ちたいの」
冒険者制圧の作戦が決行されると決まった時から、このやり取りが毎日行われている。
「しかしなぁ」
「ね、お願い。お父様」
いつもながらに圧され気味の国王。毎日聞いている宰相も、流石に飽きて来ている。

「よろしいのではないですか?」
とうとう口を挟んだ宰相。
「よろしくないだろう。危ないじゃないか」
「竜たちも一緒に行くのでしょう。でしたら姫神子であると考えられるアリアンナ様を、竜たちは全力で守るでしょう」

「だが」
「だがもへちまもありません。この世界で最強にして最高のボディーガードですよ。そんなボディーガードに囲まれた状態であれば、アリアンナ様がどうにかなる事はまずないでしょう。それに、竜たちもアリアンナ様が一緒にいる方が落ち着くのではないでしょうか?」

「それは……」
「竜だけではありません。騎士団も竜騎士団もいるのですから。下手をすると、ここにいるよりも強固な守りですよ」
宰相が息もつかせぬ勢いで捲し立てる。

「アリアンナ様が行く事で、プラスになる事はあってもマイナスになる事はないように思えます」
国王が大きく溜息を吐いて白旗を上げた。

「わかった……行く事を許そう」
「本当に!?」
アリアンナの青い瞳がキラキラと輝く。

「ああ。だが、決して無謀な事はしないように。皆の言う事をちゃんと聞くのだぞ」
「はい!ありがとう、お父様」
アリアンナは国王に抱きついた。
「はあぁ、私も一緒に行けたらなあ」
国王が呟くとすかさず宰相から突っ込まれる。
「はは、ご冗談を。陛下が行く方が、よっぽど邪魔でしょう」

そんな宰相にも飛びついたアリアンナ。
「宰相様、ありがとうございます。宰相様のお陰だわ」
「いえいえ。私は思った事を口にしただけです。ああは言いましたが、くれぐれもお気を付けくださいね」
「はい」

こうしてアリアンナも、北東の岩山へ行く事が決まった。
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