笑い方を忘れた令嬢

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王国と竜

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 舞踏会から1カ月近く経ったある日。
茶会やら夜会やらと、目まぐるしく過ごしていたアリアンナが、やっと少し落ち着いてきた頃だった。
「これから1カ月位はゆっくり出来るわ。皆、休暇に入るから」
王妃がカップを持ちながらアリアンナに言う。

この時期は学生たちの休暇に合わせ、親たちも休暇に入る事が多い。領地に戻る貴族も多いため、その間は静かに過ごす事が出来るのだ。
「アンナも学園に通っていたらそうなっていたのにね。休み明けからでも通う?」
そう言ったドメニカは、カップに残っていたお茶を飲み干した。

「うーん。新しい事が学べるのなら行ってもいいかもと思うけれど、もう卒業課程は終わってしまっているからいいかな。ジョエル兄様の仕事を手伝う方が、新しい事を知る事が出来て勉強になるし」
言い終わらないうちに、ドメニカに抱きしめられてしまう。

「ふふ、本当に素晴らしいわ、私の姪は。可愛くて賢くて……そりゃあ求婚者が溢れ返っても仕方がないわよね」
「ふふふ、本当にね。ダニエレとジョエルとドマニが、恐ろしい勢いで断りの返事を書いていたもの。宰相まで一緒になってね」
デビュタントを終え、山のように積み上げられた求婚の手紙にを前に、四人の男たちが顔をひくつかせながら処理する算段を話し合っていた光景を思い出した王妃が笑った。

「凄まじかったわよね、あれは」
ドメニカも釣られるように笑う。

舞踏会の翌日からそれはそれはたくさんの求婚の手紙が、アリアンナ宛に届いたのだ。妙齢の令息がいる貴族のほとんどから来たのでは?そう思えてしまう程だった。それらを国王たちは、公務そっちのけで片っ端から片付けて行ったのだ。

「これから、恒例行事になるかもしれないわね」
王妃は楽しそうに笑い続ける。釣られるようにドメニカもアリアンナも笑ってしまった。

 暫く笑っていると、喉が渇いてしまう。新しいお茶を淹れ、コクリと飲んだ時だった。アリアンナの耳に竜の鳴き声が聞こえた。
「何?」
驚いたアリアンナはキョロキョロと辺りを見回した。

「どうしたの?アンナ」
王妃とドメニカがそんなアリアンナの姿に首を傾げた。
「今、竜の鳴き声が聞こえたの。竜舎からかしら?」
二人が驚く。
「竜舎から?流石にそれは聞こえないと思うけれど」
竜舎周辺には防音の結界が張られている。咆哮でも破られる事はないはずの強度だ。ドメニカが竜舎がある方の窓を覗く。

一方の王妃は、アリアンナを見つめた。
『やはり、背中の傷は……』

アリアンナはもう一度聞こうと、目を閉じ、意識を集中させた。するとやはりまた鳴き声が聞こえた。
「ロワ?」
「ロワ?銀の竜?」
「ええ、なんとなく銀の竜だった気がして……」

「……アンナは本当に聞いたのかも。竜たちが飛んで来たわ」
「竜たちが?」
ドメニカの視線を追うと、確かに上空に次々と竜たちが現れた。
「銀の竜は見当たらないけれど。こんなに一斉に外に出るなんて……何かあったのかしら?」
「さあ?」
数頭の竜たちが旋回するように飛んでいる。だが、遠くへ飛んで行ってしまう竜は一頭たりともいない。

そこでアリアンナは、ずっと疑問に思っていた事を口にした。
「そう言えば、どうして竜たちのいる岩山は上が囲まれていないの?今のように好きに出て来てしまうし、逃げてしまう子だっているのではないの?」

「ああ、それはね」
王妃が竜たちから視線を外し、ニコリとしながらアリアンナを見た。
「銀の竜がここに留まっているからよ」
「銀の竜が?」

「そう。竜たちの中にも序列というのがあってね。銀の竜は、この辺りの竜たちの中で一番頂点にいるの。その銀の竜は、ジルヴァーノを気に入って背に乗る事を許した。騎士の為の竜としてここに留まる事を決めてくれたのよ。それに賛同した他の竜も、一緒にここで生きていく事を決めてくれたの。だから銀の竜とジルヴァーノの絆が壊れない限り、銀の竜は出ては行かない。つまり他の竜たちも出て行かないという事になるの」

「そうだったのね」
「それにね」
頷くアリアンナに、今度はドメニカが話し出す。

「竜たちはたまに、自分たちで餌を取りに行のよ。狩りを忘れない為なのかは知らないけれど、上まで囲ってしまったらそれが出来なくなるでしょ」
「皆が竜を信頼しているのね」
「そうね。竜たちは賢いもの。私たちの素晴らしい仲間だと思っているわ」

王妃の言葉に何だか嬉しくなったアリアンナは再び窓に目を向けた。すると突然、窓の外が真っ暗になった。
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