笑い方を忘れた令嬢

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竜の住処

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 20分程経っただろうか。空の旅を終え竜舎に戻って来たアリアンナたち。
先に銀の竜から降りたジルヴァーノは、アリアンナが降りるのを受け止めた。
「はあぁ、本当に楽しかった。ありがとうロワ。皆もありがとう」
銀の竜と、一緒に飛んだ竜たちに礼を言ったアリアンナは、皆の鼻筋を順番に撫でてやっていた。

それからジルヴァーノと向かい合う。
「ジルヴァーノ様も、一緒に乗ってくださってありがとうございます。私だけだったら落ちていたかも、ふふ。とても楽しい時間をありがとうございました」

「いえ。楽しかったのなら良かったです。私も久々に鞍なしで乗って、いい緊張感を得られましたよ」
「ふふふ、ごめんなさい」
「ああ、いや。アリアンナ様が謝る事では……ロワがやった事ですから」
「じゃあ、ロワの分という事で。お願いだから叱らないであげてください」
「わかりました。叱らないでおきます」

アリアンナはニコリと笑みを浮かべジルヴァーノの見上げた。
「また来てもいいですか?」
「ええ、いつでもどうぞ」
そう返したジルヴァーノも自然と微笑んでいた。

 その日の夜。サマンサがアリアンナ自身に見えるようにと鏡を合わせる。
「やっぱり傷跡が変化しているんです。なんとなくですけれど、何かを模っているような気がしますね」

アリアンナも久々に、自分の背中を見て驚いた。見るもおぞましい、そう思っていた傷跡が形を変えていた。
「確かに……何かしら?」
何かが思い出せそうで思い出せない。しかし、気持ちの悪かった傷跡が、途端に嫌なものではなくなった。
「どうしてなのかはわからないけれど、気持ち悪くなくなったからいいとしましょう」



 初めての空の旅から後も2回程空を舞う経験をした。3回目に至っては、自分たちもと騎士の者たちも一緒になって飛んだ。

「鞍なしってのは、なかなかいい訓練になりますね」
「まあ、竜の風を操る力があってこそ出来る技だけどな」
「なんか、鞍がない方が竜の振動がダイレクトに伝わって良かったです」
これには皆が賛同した。

「それは俺も思った。気のせいか知らんが、こちらの意志も伝わりやすかった気がする」
「それ、私も思いました」
「俺も」

皆の意見にジルヴァーノが少しだけ考える。
「もしかしたら、竜たちも鞍がない方が嬉しいのだろうか?」
アリアンナに撫でられている銀の竜を見ると、金の瞳をゆっくり瞬いた。
「やはりそうなのだな。ならばこれからは、鞍を常に着けずに乗るようにしてみよう」

鞍を着ける事を辞めた竜騎士たちは、それぞれが手応えを感じるほど竜との絆が深まった。今まででさえ精鋭部隊と呼ばれていた彼らは、最大限に力を発する事が出来るようになり、向かう所敵なしと恐れられるほど強くなるのはほんの少し未来の話だ。



 王城の舞踏会まで2週間を切った。城内は準備に追われてバタバタしている。そんんな中、王太子の執務室では王太子が頭を抱えていた。
「竜騎士たちの評判がうなぎ上りになるのはいいが、竜を捕獲しようとする輩もうなぎ上りになるのはいただけない」

どうやら隣国が、冒険者を使って竜を生け捕りにしようとしているらしい。自分たちの国でも竜騎士団を結成したいとでも思っているのだろう。竜は何故かほとんどがこのガルテーゼ王国に生息している。

他国にもいるにはいるが、途中からこの国に移り住むという事は日常茶飯事なのだ。だからこそ国境を越えてでも奪おうとしているようだが、他国に生息している竜を例えギルドを通しても、殺す事も生け捕りにする事も犯罪だ。

「アンナの晴れ舞台の準備をしていると言うのに。余計な仕事を増やさないでもらいたいね」
王太子の愚痴にドマニが返す。
「竜は強いですから。どんなに手練れの冒険者でも、生け捕りにする事はほぼ不可能でしょう。竜たちは賢くもありますしね。うちだって銀の竜がいてこその竜騎士団ですから。銀の竜がいなかったら竜騎士団なんて作れませんでしたからね」

「それは分かっている。だが、そもそも我が国に入り込んでくる事が気に食わないんだ」
「だったら、これを機に戦争でも仕掛けますか?」
「そんな無駄に人が死ぬ様な事はしない。だが、何か解決策を考えなければいけないな」

そう言った王太子は、再び頭を抱えるのだった。
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