笑い方を忘れた令嬢

Blue

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竜とアリアンナ

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 竜舎の入り口。
「入る前にアリアンナ様への注意事項です」
ジルヴァーノがアリアンナの目の前に立つ。

「はい」
アリアンナはジルヴァーノの銀の瞳を見つめた。
「ここにいる竜たちは、野生の竜に比べれば人慣れしています。ですが、初対面の人間に対して友好的ではありません。私たちと共にいる事で、竜たちにアリアンナ様の存在を受け入れてもらうようにします」
「はい」

「それと、いきなり大きな声は出さないように。驚いた竜は急に攻撃を仕掛けてくることもありますので」
「はい」
「急に大きな動作をする事も危ないです」
「はい」

いくつかの注意事項を聞いて、やっと竜舎へ入る事になる。

『わあ』
入り口を開いた瞬間、大きな空間が広がる。屋根の付いた大きな広場の奥は、先程外から見えた岩山にそのまま繋がっていた。

竜たちの視線が全てアリアンナに集まっているのを感じる。
『ドキドキする』
緊張のせいで心臓の鼓動が早い。それでも美しい竜たちを目にしたアリアンナは、感動していた。

ほとんどが黒い竜だったが、たった一頭だけ銀色の竜がいた。ジルヴァーノはその銀の竜の方へ真っ直ぐ向かう。銀の竜もジルヴァーノが近づいて来るのを待っているようにジッとこちらを見ていた。

「この竜が私の竜です。ここにいる竜の中のリーダーでもあります」
そう言ってこちらを見たジルヴァーノの瞳と、銀の竜の色は見事にシンクロしていた。

『綺麗だわ』
そう思って見ていると、銀の竜がアリアンナをジッと見ている事に気付いた。しばしの間見つめ合う形になる。すると、銀の竜がゆっくりと動き出した。大きい身体であるのに地響きがするわけでもなく、静かにアリアンナの目の前に歩み寄る。

咄嗟にジルヴァーノと王太子が、アリアンナを守るように間に立つが、銀の竜は気にする風でもなく二人を無視してアリアンナに首を伸ばした。アリアンナも、まるでそうするのが当然のように、銀の竜に向かって両手を伸ばした。

「初めまして、銀の竜」
アリアンナがそう言うと、銀の竜はアリアンナの手に鼻先を付け、匂いを嗅いだ。そしてその鼻先をアリアンナのおでこに付けたのだ。

「どういう事だ?」
ジルヴァーノも王太子も、初めて見る銀の竜の行動にポカンとしてしまう。更に銀の竜は、甘えるかのようにアリアンナの頬に鼻さきを擦り付ける。銀の竜の鼻息がアリアンナの首にかかった。

その時だった。

「あはは、くすぐったいわ」
アリアンナが声を上げて笑ったのだ。王太子が信じられないという顔で、アリアンナを見ている。ジルヴァーノも大きく目を見開いた。そんな二人にお構いなしで、銀の竜はアリアンナに甘え続ける。

「ふふふ、わかったわ。ここね、ここを撫でればいいのね」
鼻筋を撫でられた銀の竜は、気持ちよさそうに金色の瞳を閉じた。すると、興味を引かれた他の竜たちが次々とアリアンナの周辺に集まって来た。すっかり囲まれてしまったアリアンナ。ついでに一緒に囲まれた王太子とジルヴァーノが、呆気に取られながらもアリアンナを守ろうと彼女に近づいた。

「うわっ」
「!」
ところが二人は銀の竜と一頭の黒い竜に咥えられ、囲いの外へと降ろされてしまった。

「ロワ!」
ジルヴァーノが銀の竜の名を呼ぶが、銀の竜は完全にジルヴァーノを無視する。
「アリアンナ!無事⁉︎」
王太子は囲いの中心にいるアリアンナに声を掛けた。

「大丈夫、私は無事よ。あ、ちょっと。こら、ダメよ」
一体何をされているのか……王太子もジルヴァーノも気が気ではない。
「あはは、ダメ、首はダメ。くすぐったいったら」
二人の心配をよそに、アリアンナから楽しそうな声が聞こえてくる。

全く予想だにしていなかった光景に、呆然とする二人。
「……竜ってこんなに人懐っこかったか?」
王太子の呟くような質問に、ジルヴァーノは首を振る。
「いえ、初めてです」
「じゃあ……女の子だからとかか?」
「いえ、何度か女性も来ましたが、このような事にはなりませんでした。どちらかというと、女性の方が疎まれるのですが……」

二人は、暫くは放してもらえそうもないアリアンナを大人しく待つしかなかった。
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